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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.752

インターン制度を悪用した企業犯罪を映画化 ペ・ドゥナが慟哭する『あしたの少女』

インターン制度を悪用した企業犯罪を映画化 ペ・ドゥナが慟哭する『あしたの少女』の画像1
コールセンターで働く女子高生が亡くなった実話の映画化

 インターンシップといえば、学生が就業体験できる貴重な制度として知られている。日本でも就職活動の一環として活用されていることが多い。だが、そうしたインターン生たちが、入ったばかりの職場で過酷な労働を強いられ、死に至るケースが韓国では相次いだ。インターン生が危険な業務に配属され、重傷を負った事故も報告されている。

 これらのインターン生をめぐる事件をベースにしたのが、ぺ・ドゥナ主演の韓国映画『あしたの少女』だ。同じくぺ・ドゥナが主演した『私の少女』(14)でデビューを飾ったチョン・ジュリ監督の8年ぶりとなる新作。韓国のインターン生たちが初めて足を踏み入れた実社会で、利潤を最優先する企業の論理に翻弄され、孤立していく姿がまざまざと描かれている。この映画が韓国で公開されたことで、韓国の労働法が改定されるなど大きな社会的反響を呼んだ。

 本作は二部構成となっており、前半は地方都市で暮らす女子高生キム・ソヒ(キム・シウン)の物語となっている。ソヒはダンスが大好きな、活発な明るい女の子だ。職業高校に通い、3年生になったソヒは担任教師に勧められ、大手通信社の下請け会社であるコールセンターで実習生として働き始める。

 顧客からの電話での問い合わせに対応するのが、コールセンターの職務内容だ。ところが、このコールセンターのオペレーターたちは、顧客の契約解除を阻止することを上から命じられていた。初めて電話を取ったソヒは、いきなり相手から罵声を浴びせられてしまう。仕事に慣れないソヒは、1日のノルマを達成するために連日にわたって残業するはめになる。

 ストレスに耐えながらもソヒは次第に電話対応のスキルを身につけ、好成績を収めるようになっていく。しかし、成績が上がれば上がるほど、ノルマはさらにキツくなる。しかも、いくら働いても、実習生ということを理由に残業代などの手当を企業側は支払おうとしない。学校も、現場実習を途中で放棄することを許さなかった。相談する相手のいないソヒは、次第に追い詰められてしまう。

 ペ・ドゥナ扮する刑事ユジンは後半から登場する。冬の貯水地からソヒの遺体が見つかり、ユジンは彼女が自殺に至った経緯を調べることに。企業側は自分たちの非をいっさい認めようとせず、ソヒは素行に問題があったと非難する。学校も、職場の実態を調べることなく、生徒を実習先にそのまま就職させ、就職率を上げることしか考えていなかった。ひとりの少女の命が社会のシステムの歯車の中で無惨に散ったことを知り、慟哭するユジンだった。

大統領スキャンダルに埋もれてしまった少女の死

インターン制度を悪用した企業犯罪を映画化 ペ・ドゥナが慟哭する『あしたの少女』の画像2
警察のユジン(ぺ・ドゥナ)は自殺の動機について調べ始める

 本作の題材となったのは、実習生としてコールセンターに勤めていた女子高生ホン・スヨンさんが2017年1月に自死を遂げた事件だ。この事件と前後して、韓国ではインターン生をめぐる事件や事故が相次いだ。2021年にはヨットハーバーで潜水作業していた実習生のホン・ジョンウンさんが溺れ死ぬという痛ましい事故も起きている。実習生たちを安価な労働力として扱う企業側の論理と、危険な状況を知りながらも見て見ぬふりをしていた大人たちの無関心さが恐ろしい。チョン・ジュリ監督がZOOM取材に応えてくれた。

ジュリ「前作『私の少女』から『あしたの少女』の公開まで8年も経ってしまいました。脚本まで書き進めていた別の企画があったのですが、残念ながらそちらは製作には至らなかったんです。『あしたの少女』は2017年に起きた事件を題材にしていますが、私がこの事件のことを知ったのは、ずいぶん後になってからでした。映画製作を始めたのは2020年からだったので、かなりの短期間で撮り上げた作品です。すでに記者たちがこれらの事件に関する内情を記事にしていたので、私は関係者に直接取材することなく映画化することができたんです」

 実習生たちの問題は韓国のマスコミでは大々的に取り上げられることがなく、チョン・ジュリ監督も映画を企画するまでに時間が掛かってしまったそうだ。

ジュリ「気づくのが遅かったことを、私は恥ずかしく思います。当時の韓国はパク・クネ大統領に関するスキャンダルが連日報道されていて、私も含めてみんなそちらに関心が集まっていたんです。本来なら、私には縁のない大統領のスキャンダルよりも、もっと身近な社会問題に注目すべきでした。ようやく事件の概要を知ってまず驚いたのは、『高校生がなぜそんな職場で働いていたのか?』ということでした。自分も社会の一員なのに、若者たちが搾取されている現実に無関心だったことを悔やみました。そのことが原動力になって、いっきに映画化することができたんです」

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