小野Dゴリラ!『ドクター・ドリトル』唯一の見どころは豪華な声優の競演
#金曜ロードショー #しばりやトーマス #金ロー
先週お休みした日本テレビ系「金曜ロードショー」。新学期がスタートする9月1日は動物映画で開幕! イギリス出身の児童文学作家ヒュー・ロフティングの100年以上に渡って愛されている代表作「ドリトル先生」シリーズの実写化『ドクター・ドリトル』を地上波初放送します。
動物と会話ができる不思議な医者、ドリトル先生をマーベル映画の『アイアンマン』シリーズでおなじみのロバート・ダウニー・jrが好演した話題作です。
『ドクター・ドリトル』のあらすじ
ヴィクトリア朝時代のイギリス。「動物と会話ができる」という能力を持っていた医師ジョン・ドリトルはヴィクトリア女王に召し抱えられ、巨大な庭園を持つ保護区の中で世界中の動物を集め共に暮らし、「どんな動物の治療も受け入れます」の看板を掲げ、獣医としての名声を欲しいままにしていた。
そんなジョンが唯一「動物以外の生き物」に恋い焦がれたのは最愛の妻リリー(カシア・スムトゥニアク)であったが、冒険家であったリリーは「エデンの樹」を探し求め、大海原に船出するが、嵐にあってしまい、結婚指輪をオウムのポリーに託しドリトルに届けさせたあと、行方知れずになってしまう。
最愛の妻を亡くしたショックで、人との関わり合いを避けるようになったドリトルは庭園に引きこもり、世捨て人として生きるようになり、人が訪れることのなくなた庭園は朽ちていった。
漁師の叔父の家で暮らしている少年トミー(ハリー・コレット)は狩りに連れ出されるが、優しい性格ゆえ、狩ろうとした動物を助けてしまうような人間なので叔父からは役立たず扱いされていた。
この日も鳥を撃てずにうっかりリスを怪我させてしまい、ドリトル先生の屋敷の前を通りかかったトミーは看板を見て、リスの怪我を治してもらおうと、人語を話すオウムのポリーに導かれ屋敷の中へ。
トミーは臆病なゴリラのチーチーや激しい性格のホッキョクグマのヨシ、頭脳明晰な犬のジップら動物に囲まれて暮らしている男と出会う。伸び放題の髭にボサボサの髪、着の身着のままの薄汚い恰好でオドオドしているこの男が動物と話せる名医、ドリトルだ。彼は人と会いたくないからとトミーを追い払おうとする。
しかしリスの治療を依頼すると「それならお任せだ」とばかり急にシャキっとしたドリトル、動物たちをスタッフにしてリスをあっという間に直してしまい、勝手にケヴィンという名前までつけてしまう。動物たちと心を通わせているドリトルの姿に魅せられたトミーは助手を志願する。
その頃、屋敷に入ってきた少女レディ・ローズ(カーメル・ラニアード)は女王陛下の使いを名乗り、危篤状態に陥った女王の治療を依頼する。外に出たくないドリトルは断ろうとするのだが、女王陛下の保護区であるこの庭園は女王が亡くなれば国のものになって全員追い出されるのだと聞かされ、渋々バッキンガム宮殿に。
女王の病状に不審を抱いたドリトルは水槽に飼われたタコのレオナから女王が毒を飲まされていることを聞き出し、犬のジップが鼻を利かせ、毎日飲む紅茶に「ベラドンナの毒」が含まれていると見抜く。解毒するためにはリリーが探し求めていた「エデンの樹の果実」が必要だ。ドリトルらはリリーの故郷である島にエデンの樹の在り処を記した冒険の日誌を取りにいく。だが日誌の持ち主はリリーの父親である海賊王ラソーリ(アントニオ・バンデラス)であり、ラソーリは娘を奪い去ったドリトルを許していなかった。
さらに島へ向かう一行を、ドリトルをライバル視する医師のマッドフライ(マイケル・シーン)がつけ狙っていた。
話の辻褄が合わず、ギャグは滑り倒し…取り直しまで命じられた
主演のロバート・ダウニー・jrが製作にも関わっている本作は、彼にとってアイアンマンを演じて不動の人気をモノにしたマーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)からの卒業を発表して以降、初の映画出演だ。ちなみに妻のスーザンも製作に入っている。
ロバートはアイアンマンとして11年もシリーズに関わったが『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)で退場する。シリーズはまだ続いているので復帰を望むファンも多いが、翌2020年には「完全に終わり」と復帰の可能性がないことを示唆した。奇しくも『ドクター・ドリトル』が公開した年に。
アイアンマンの色が付きすぎた故にそのイメージからの脱却を目指して、スーパーヒーローとは一切関係のない、動物のお医者さんを演じたってわけだ。しかし、考えようによっては「動物の声が聞こえる獣医」というのは医者の世界のスーパーヒーローといえる。
「それじゃあ、アイアンマンと同じじゃないか!」
と考えたロバートは、ドリトル先生に「人嫌いになった引きこもりの世捨て人」というヒーローらしからぬ設定をつけたのだろう。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』はMCUフェイズ3のラストを締めくくるにふさわしい完璧な結末で、ロバートがシリーズからの決別をするのもわかる。これ以上のものはないんだと。
そんなロバートが自ら製作まで手掛けた『ドクター・ドリトル』は完璧とは程遠い作品だ。何しろストーリーがデタラメだから。
庭園は他人と会いたくないドリトルが簡単には入ってこられないよう、秘密の入り口から出ないと入れない。少年トミーはポリーの導きで入ってくるが、その後レディ・ローズはあっさり屋敷に入ってきている。
「絶対外に出たくない!」と言っていたドリトルは一旦外に出ると、積極的に行動していくのも筋が通ってないような。
女王の容態を診たドリトルは、水槽のタコと会話して彼女が毒を盛られていることを知る。部屋にはレディ・ローズが好いてはいない貴族のバッジリー卿や彼が雇っている医師マッドフライもいるので、誰が毒を盛っているのかはすぐにわかりそうなのに、ドリトルはレディ・ローズに女王から離れないようにとだけことづけ、こっそりナナフシを額縁に忍ばせる。最後にはナナフシがバッジリー卿とマッドフライの会話を聞いていて犯行が発覚するのだが、ナナフシの声はドリトルにしかわからないんだから、証拠にするには弱すぎる。
女王を治す「エデンの樹の果実」のなる場所は、リリーが残した日誌の中にあるというドリトル。日誌の中にあるのがわかってるなら、場所もわかるんじゃないの?
リリーは海難事故に遭い、日誌だけを父の海賊王ラソーリが回収したというが、嵐の海の中からどうやって日誌だけ回収したのか不明だし、それをドリトルがなぜ知っているのかもよくわからない。
マッドフライの襲撃に遭ったドリトルは船を失い二進も三進もいなくなるが、ドリトルを嫌っていた海賊王ラソーリが自分の船を貸してやるに至っては、ご都合主義にもほどがある!
この手の作品に不可欠な「前振り」もしくじっている。トミーに傷つけられ、ドリトルの治療で治るものの、「あいつのせいで酷い目に遭った!許さねえ!」とトミーを敵視するリスとの間に何かエピソードが起きるのかと思ったらそんなことはまったくなく、最後に危機を救ってやるぐらい。適当すぎ!
最後にはドラゴンまで登場し、ドラゴンの心(と体の不調)の病をドリトルが治すのだが、ありえないぐらい下品なギャグが出てきて子供でも苦笑するんじゃないでしょうか。ちなみにこの劇中のギャグはほとんど滑っています。
支離滅裂かつ都合の良すぎる展開に、生かし切れていない動物たち。これをつくった監督・脚本はスティーヴン・ギャガン。ギャガンといえばソダーバーグの『トラフィック』の脚本家ですよ! 3つの異なる物語を同時に進行させて最後に結び付くようにする手腕はゴールデングローブとアカデミー賞にノミネートされたほどで、そのギャガンがこんなにどうしようもない脚本を書いて監督したとは信じられない。そもそもなんで起用されたんだ。
ひょっとしたら『アベンジャーズ/エンドゲーム』で完璧すぎる結末を見たロバートが「こんなの適当でいいよ!」とでも言ったのだろうか。
聞くところによると、試写を見たユニバーサルの幹部が撮り直しを命じたそうで、その理由は「ギャグがつまらん」だったという……完成品よりつまらないギャグってどういうものだったんだろう……。
こんな体たらくの作品だが、『金曜ロードショー』を見る視聴者のみなさんに唯一の見どころをご紹介しましょう。それは吹き替え陣が豪華ってこと。
ロバート役はおなじみの藤原啓治。彼は本作の日本公開前に亡くなったため、これが遺作になった。動物役にはオウムの石田ゆり子をはじめ、小野、ホッキョクグマ中村悠一、ダチョウ八嶋智人、アヒル朴璐美、イヌ斉藤壮馬、リス黒田崇矢、キリン花澤香菜、キツネ沢城みゆき、モモンガ茅野愛衣、トンボ杉田智和、アリ井上和彦、ウサギ諏訪部順一、ネズミ増田俊樹、トラ池田秀一、クジラ武内駿輔、タコ泊明日菜、オランウータン宮崎敦吉、ドラゴン高島雅羅!
人間側も大塚明夫、大塚芳忠、森功至、瀬戸麻沙美、福原綾香、遠藤璃菜……と若手、中堅、ベテラン勢ぞろいのオールスターキャスト。
このメンツのやり取りが聞けるだけで、吹き替えファン大満足。字幕で見たらなんてこのない内容だけど(失礼)、吹き替え版で魅力が何十倍にもなる作品なのだ。金曜ロードショーでこそ本当の魅力が発見できる『ドクター・ドリトル』テレビの前に全員集合だ。
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