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『パイレーツ・オブ・カリビアン4』目新しさが全くない劣化版

『パイレーツ・オブ・カリビアン4』目新しさが全くない劣化版の画像1
日本テレビ系『金曜ロードショー』ウェブサイトより

 記録的猛暑が続く中、日本テレビ系『金曜ロードショー』は暑さを吹っ飛ばす企画を連発。先週は空の冒険に出かけたが、今回は海だ!ディズニーランドの人気アトラクションを実写映像化したシリーズの第4弾、『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』を放送。
 
 自由を愛する海賊ジャック・スパロウが永遠の命を授ける「生命の泉」と聖杯を巡って最恐の名を欲しいままにする伝説の海賊、黒髭一行、そして因縁の相手であるヘクター・バルボッサ、異教の象徴を破壊しようとするスペイン海軍らと大激突!
 
 手にしたものに永遠の命を授けるという「生命の泉」の情報を得たスペイン国王フェルナンド6世(セバスチャン・アルメスト)は、ただちに探索の命令を海軍に下す。
 
 対立する英国王ジョージ2世(リチャード・グリフィス)も「生命の泉」を先んじて手に入れるため、ロンドンに訪れていたジャック・スパロウ(ジョニー・デップ)と相棒のギブス(ケヴィン・マクナリー)を捕え、「生命の泉」探索の命を下す。ジャックに同行するのは因縁の相手にして海賊であったヘクター・バルボッサ(ジェフリー・ラッシュ)。彼はいまや、英国王に忠誠を誓う公賊になっていた。
 
 海賊は権威には媚びねえと逃げ出したジャックは、自分の名を騙る偽物が船の乗組員を集めているという話を聞く。街で偶然出会った父のティーグ(キース・リチャーズ)から「生命の泉」にたどり着くには、二つの聖杯が必要だと聞かされる。
 
 偽ジャックを騙っていたのはかつての恋人、女海賊アンジェリカ(ペネロペ・クルス)だった。彼女の配下によって捕まえられたジャックは目覚めると、船の水夫として働かされていた。その船は史上最悪にして最強と恐れられた伝説の海賊、黒髭(イアン・マクシェーン)の「アン女王の復讐号」であった。
 
 黒髭はゾンビを操って船を動かすことができるほどの男だが、近いうちに「義足の男に殺される」という予言を受けていた。予言を回避するため「生命の泉」を求める黒髭。彼が永遠の命を得るために必要な「生命の泉」と「人魚の涙」を手に入れれば奪われた海賊船ブラックパール号を返してやるとアンジェリカに持ち掛けられるジャック。アンジェリカは黒髭の娘なのだ。
 
 スペイン海軍、ギブスを連れたバルボッサが率いる英海軍、そして黒髭の一行。「生命の泉」を手にするのは果たして……。
 
 このシリーズは前作『ワールド・エンド』で完結とされていたが、ここ数年のハリウッド映画はマーベル・シネマティック・ユニバースのように長期にわたるシリーズ化が定番になっており、シリーズ三作品で約30億ドルを稼いだこのシリーズを簡単に終わらせるのは、ディズニーも惜しいと思ったのだろう。柳の下の泥鰌は何匹もいる! 当然のように第4弾の構想が発表された。
 
 終わったシリーズの続きをやるって無理があるんじゃないかって?
 
 ところが前作『ワールド・エンド』のラストはジャックと相棒のギブスが「生命の泉」の地図を持っているところが出てくるから。その時に続編は決まってたんだろうなあ。
 
 主役であるジャック・スパロウも続投。しかしメインキャラであったエリザベス役キーラ・ナイトレイ、ウィル役オーランド・ブルームは降板を発表。いくら人気シリーズとはいえ、いつまでもこのシリーズに出ていられないってことかな?
 
 ジャックにとって永遠のライバルにして最大の敵であるヘクター・バルボッサ役ジェフリー・ラッシュは第2作『デッドマンズ・チェスト』で電撃的に復活し、今回もジャックの前に立ちはだかる。ところが決して権威に媚びない海賊だったバルボッサは、英国王ジョージ2世に忠誠を誓い「サー」の称号を与えられ、私掠船の船長という地位を手にしていた。私掠船とは政府が公認して他国の船を襲ってもいいとされている海賊のことだ。
 
 ジャックがそんな立場に落ちぶれた(しかも愛船ブラックパール号を失っている)バルボッサにがっかりするように観客もガッカリする。ガッカリするのは登場人物の変容ぶりだけではない。映画の出来そのものにもガッカリする。
 
 そもそも『パイレーツ・オブ・カリビアン』において自由を愛する海賊ジャック・スパロウの目的は呪いから解き放たれ、永遠の命を求めるというものであった。しかし永遠の命を手に入れた代償として不自由な生活を送らねばならず、あまりにデメリットが大きすぎるのだ。
 
 冒険を共にした仲間のために永遠の命を捨てたジャックの姿で三部作の幕を閉じたのに、『生命の泉』ではまた、ジャックが永遠の命のために戦うという話になっている。それじゃあ前作までと同じじゃないか!
 
 『生命の泉』は前作までの焼き直しになっているだけで目新しさが全くない。権威に膝を屈した(復讐という目的のために従うフリをしているだけにせよ)バルボッサなど、これまでの登場人物が劣化した有様を見せつけられ、新登場のキャラクターには魅力がない。
 
 アンジェリカはエリザベスの焼き直しだし、さんざん「伝説」「史上最恐」と煽りに煽られた黒髭はめちゃくちゃ弱くて、挙句最後に卑怯な真似に出て絶命する。二つの聖杯を使った永遠の命を得るトリックは聞いた瞬間にオチがわかるのでさもありなん。
 
 しかもこの映画、原作が存在するのだ。SF作家ティム・パワーズが1987年に発表した『幻影の航海』がそれで、黒髭というキャラクターやブードゥーのゾンビ、生命の泉といったモチーフが使われているだけで話は異なる。ディズニーが原作の映画化権を持っていたことで採用されたのだが、これが『パイレーツ・オブ・カリビアン』の原作に使われることを、パワーズは全く知らなかった!
 
 『幻影の航海』は海賊の時代に終わりが来ることを予感させるような結末になる。この映画も「シリーズもいよいよ打ち止めかな……」と予感させて終わっちゃうのだった。
 
 しかし世の中を甘く見てはいけない。『生命の泉』はシリーズ最大のヒット作『デッドマンズ・チェスト』に次ぐ興行成績を記録し、6年後に続編『最後の海賊』が作られる。柳の下の泥鰌は何匹でもいるのだから。

しばりやトーマス(映画ライター)

関西を中心に活動するフリーの映画面白コメンテイター。どうでもいい時事ネタを収集する企画「地下ニュースグランプリ」主催。

Twitter:@sivariyathomas

しばりやとーます

最終更新:2023/08/11 20:23
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