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今週の『金曜ロードショー』を楽しむための基礎知識73

『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』人気にあやかりこすられすぎ問題

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金曜ロードショー『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』日本テレビ 公式サイトより

 お盆休みも終わって夏も終わりに向かってまっしぐらという時期ですが、それに合わせて(?)、今週の日本テレビ系『金曜ロードショー』がお送りするのは、人気シリーズの完結編(?)『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』! 自由を求める海賊、ジャック・スパロウ最後の航海となる……のか?

 このシリーズはテーマパークのアトラクションを実写映画にするという大胆な試みの元、製作された。「映画は水もの」とよく言われるが、海の上、海賊をテーマにした映画は大昔ならまだしも、昨今では大予算を投じながら興行はずっこけるという作品ばかりだった。しかし製作側も予想外の大ヒットを記録して、シリーズ化に踏み切る。

 史上最大規模の予算を投じてつくられたこのシリーズは、良くいえばスケール感の巨大な、悪く言えば大風呂敷を広げすぎて畳むことができなくなっていく。

 一本だけだった作品は大ヒットを受け、三部作で完結という流れに。さらに「この作品はまだ稼げる」と考えたディズニーによって、柳の下の泥鰌は何匹でもいるとばかりに作られたのが4作目、そしてこの5作目だ。

 4作目『生命の泉』はヒットしたが批評家界隈の評価は下落。4作目が評価されなかった理由はそれまでのシリーズの焼き直しのような展開にし、各キャラクターの劣化した様を見せられ、シリーズを継続する意図も理由も感じられなかったからだ。

 同じ轍は踏まないぞ、ということでこの5作目にディズニー側はさまざまな挑戦を試みる。

 まず監督を前作のロブ・マーシャルから、新鋭のヨアヒム・ローニング、エスペン・サンドベリにバトンタッチ。この二人はノルウェー人。海賊の本場、ノルウェー人が海賊の物語を実写化するのだ。

 ローニングとサンドベリは、大型の筏で南太平洋約8000キロの航海に挑戦した実在の人類学者、トール・ヘイエルダールの航海についての映画『コン・ティキ』(2012)を製作し、作品は外国語映画作品としてアカデミー賞、ゴールデングローブ賞に同時ノミネート。ノルウェー映画で同時ノミネートを果たした初の作品となった。

『コン・ティキ』はほとんどの場面を実際の海洋上で撮影しており、急激な天候の変化などに悩まされたそうだが、本当の海が持つリアルさが表現されていた。

 長年続いたシリーズの新作を、ハリウッド経験のない外国人監督に任せるとは大胆な起用だが、ディズニー側もマンネリを避けて新しい空気を取り込みたいと思ったのかだろう。

『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』のあらすじ

 物語は少年が夜の海に潜る場面から始まる。海の底には朽ち果てた船があり、船体にはフライング・ダッチマン号と書かれている。船は海上に上昇。その船で少年は海賊ウィル・ターナーに出会う。ウィルに「父さん」と呼びかける少年。彼は『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』で10年に一度しか陸地に上がることができない呪いをかけられたウィル(オーランド・ブルーム)の息子ヘンリーだった。

 ヘンリーは父ウィルの呪いを解く伝説の遺物「ポセイドンの槍」を探し求めており、「ジャック・スパロウなら槍を見つけてくれる」と告げ別れる。「ジャックに近寄るのはやめろ」という父の声を後にして。

 数年後、青年になったヘンリー(ブレイトン・スウェイツ)は英国海軍の船でこき使われており、船が危険な「魔の三角海域」に突入することを知らせても身分が違うと船を支配する貴族たちには相手にもされない。やがて海域に突入した船はスペインの幽霊船「サイレントメアリー号」と接近。‟海の処刑人”と恐れられる船長アルマンド・サラザール(ハビエル・バルデム)と彼が率いる亡霊海兵たちに襲われ全滅する。

 たった一人生き残ったヘンリーはジャック・スパロウを探していることで助命される。サラザールは自分たちをこんな亡霊にしたのはジャックのせいだと言い、ヘンリーにジャックへの伝言を渡す。ジャックが持つ「所有する者が本当に必要な物の場所を指し示すコンパス」を持ってこい、と……。

 その頃、ジャック(ジョニー・デップ)はすっかり落ちぶれており、過去の存在となっていた。多額の懸賞金は最低金額に下落して、本人も一文なし。起死回生を狙った銀行強盗も大失敗。最後までついてきた仲間たちもついに、ジャックを見捨てて離れていく。

と、この流れはまるで『パイレーツ・オブ・カリビアン』のシリーズをメタで観ているようで面白い。最高の海賊として名を馳せていたジャックだが、シリーズが延々と続く中で人気も落ちぶれ、作品の評価は下落。

 作品ではこの後、最後まで大事に持っていたコンパスを、酒のボトル一本のために手放してしまう。それがために魔の三角海域に囚われていたサラザールと手下たちは解放。

 ちなみに撮影中にジャックを演じたデップは妻、アンバー・ハードにDVを受けたと訴えられていた。以前からアルコール中毒と浪費癖で破産寸前と言われていたデップは、人気シリーズに出演しながら仕事も私生活も最悪という状況だった。

 ジャックの落ちぶれぶりはほとんどデップの私生活と重なって、『最後の海賊』は自虐的な物語として始まる。

 そして物語は「魔女」と疑われた天文学者カリーナ(カヤ・スコデラリオ)が、ポセイドンの槍の在り処を知っていること、父親の解放のために槍を手に入れたいヘンリーを中心に進んでゆく。

 そう、『最後の海賊』の主人公はもちろんジャックだが、彼はあくまで話の中心ではなく、脇で周囲を騒がせるトリックスターとして動き回る。これは一作目で見せていた本来のジャックの役回りではなかったか。

『パイレーツ・オブ・カリビアン』はシリーズ化し、デップ演じる海賊ジャック・スパロウが人気が出すぎたために、彼を中心とする物語になってしまっていた。生真面目な人間を茶化したり、真面目に振舞うよりはふざけていることのほうが多く、真意を明かさない物言いが多いジャックのキャラはデップの真骨頂といった存在だ。

『最後の海賊』は前作『生命の泉』が失敗した”原点回帰”に再び挑戦している。

 そして『生命の泉』では実現しなかったオーランド・ブルームとキーラ・ナイトレイの再登場も実現させた。カリーナはジャックの永遠のライバル、ヘクター・バルボッサ(ジェフリー・ラッシュ)の娘という過去があり、「親の子を思う物語」という縦軸を通して、物語に厚みを持たせている。

 監督のヨアヒム・ローニングとエスペン・サンドベリはこのシリーズに雇われ、シリーズの新機軸に挑みつつ、前作までのつながりをきちんと継承するという、繰り返し言うが前作『生命の泉』がやろうとして、できなかったことに挑んでいることは評価できる。

が、それが決定的な面白さに繋がっていないことだけが残念なのだった。

 それはもう、このシリーズが擦られすぎて煙もでない「ようかいけむり」(そんなおもちゃが昔あったのよ)みたいなもので、どうやってもこれ以上は面白くならないのかもしれない。

 それでもディズニーは「まだいける! まだ煙は出るんだ!」とシリーズを擦り続ける。現在は続編とスピンオフが企画されているという。

『最後の海賊』のラストも以前に出たと思しきキャラクターの再登場を匂わせていた。だが迂闊に信用してはいけない。『生命の泉』のラストも女海賊アンジェリカが再登場するような匂わせをしていたが、『最後の海賊』にアンジェリカは全く出てこなかったのだから……ありゃ一体なんだったの?

 ちなみに今回の悪役、サラザールを演じているハビエル・バルデムはアンジェリカを演じたペネロペ・クルスの夫。今回わたしは出てないけど、旦那は出てるってことで、一応繋がりを表現しているのかな……?

しばりやトーマス(映画ライター)

関西を中心に活動するフリーの映画面白コメンテイター。どうでもいい時事ネタを収集する企画「地下ニュースグランプリ」主催。

Twitter:@sivariyathomas

しばりやとーます

最終更新:2023/08/18 22:00
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