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歴史エッセイスト・堀江宏樹の「大河ドラマ」勝手に放送講義

『光る君へ』冒頭に登場する陰陽師・安倍晴明の本職は「呪術師」か「天文学者」か

──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ

『光る君へ』冒頭に登場する陰陽師・安倍晴明の本職は「呪術師」か「天文学者」かの画像1
ドラマ公式Instagramより

『光る君へ』の第1回、みなさんはいかがご覧になったでしょうか。

 オープニングの手と手が絡みつく意味深な映像、そしてその背景で熱っぽく奏でられているのは、ラフマニノフの名曲を下敷きにしたとすぐにわかるように作られた楽曲でした。セルゲイ・ラフマニノフは20世紀前半を代表するクラシックの作曲家で、『光る君へ』のメインテーマ曲のベースとなっていると思しき『ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 Op.18』は、マリリン・モンローが映画『7年目の浮気』の中で身体をクネクネさせ、気持ちをアツくさせる音楽……とかセリフで言っていたアレです。

 平安時代が舞台の大河のテーマ曲といえば、笙など神秘的な響きの雅楽器を起用してみるとか、あるいは普通にクラシックで使われる洋楽器を使っていても雅楽っぽくしてみるとか、そういうのが「常道」かな、とは思っていました。ですが、冒頭からラフマニノフ風の音楽をバーンとぶつけてきた時点で、『光る君へ』の本編もいろいろと通例どおりとはいかないのだろうと予測していました。

「史料にない部分は想像で埋める」というのが通例としたら、平安時代に生きた紫式部を知るための史料は多いとは言えず、例年の大河よりさらに創作的要素が強くなるはずと思ってはいたのですが、大石静先生は本当に質、量ともに限られた情報でさえも自分の描きたいストーリーに合致するように取捨選択し、自由に物語を構築していくという大胆な手法を取るようです。

 たとえば紫式部――というか、ヒロインのまひろ(落井実結子さん)の母親・ちやは(国仲涼子さん)が藤原道兼(玉置玲央さん)に後ろから刺殺されてしまったラストに驚愕した読者も多いでしょう。紫式部の母は早くに亡くなったとされますが、こうした殺され方をしたとは史料には書かれていません。道兼にも記録上、殺人経歴はありませんが、1000年以上も前の話ですし、史料に書かれていないだけで実際にはあったかもしれないと推測することはできます。

 また、まひろには弟がいるのに、姉はいないようです。姉も早い時期に亡くなったとされているのですが、女性との密接な関係を好んだといわれる紫式部にとって、慕っていた姉を失った心の痛手はとても大きかったと思われます。そして筑紫の君という年上の女性を姉に見立て、彼女もちょうどかわいがっていた妹を失った後だったので、2人は「仮想姉妹」となって(見ようによっては「百合姉妹」っぽく)交流し合ったという美しくも興味深い逸話があるわけです。

 しかし、姉が出てこないということは、紫式部本人が『紫式部集』などで認めたこの手の逸話を潔く切り捨てたことに等しい。ですがこれは、後に紫式部が藤原彰子の女房になった時代にも同僚女性と特に親密な交流をした『紫式部日記』に書かれた有名な逸話さえもバッサリ省略される可能性が高くなってきたことを表しています。

 ということで、今年の本コラムの連載については創作部分がかなり強くなりそうで、例年通り「史実とはここが違う」的な話をしても無粋になるだけかなぁと感じています。三郎(木村皐誠さん)とまひろのシーンなどは好みだったので、ドラマのいちファンとして、つらつらと心に映るよしなしごとを書き連ねつつ、興味を引いたトピックについて軽く解説を加えていくスタイルがよさそうかな……と思います。今年もどうぞ本連載をよろしくお願いいたします。

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