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『君が心をくれたから』第1話 ロマンチックかと思ったら、きっつい自己啓発だったよ

第1話 赤い傘と花火の約束 | TVer

 フジテレビ月9は『君が心をくれたから』。永野芽郁と山田裕貴という、令和の今をときめく2人を主演に迎えて「“過酷な奇跡”が引き起こすファンタジーラブストーリー」だそうです。

 舞台は長崎。高校のときに、付き合ってないけど仲のいい友達だった雨ちゃん(永野)と太陽くん(山田)には、それぞれ夢がありました。高校卒業後、雨ちゃんは東京に行ってパティシエに。太陽くんは実家の花火工場で父親に弟子入りします。

 そんな2人には、高校時代にかわした約束がありました。

「10年後の大みそか、太陽くんの作った花火を2人で見よう」

 10年たって、その約束を果たすために雨ちゃんは長崎に帰って来たのでした。雨ちゃんはパティシエとしてまるで通用せず、クビになっています。太陽くんも色覚障害があって赤色が判別できないという理由で、花火職人をあきらめています。そんな2人が再会し、互いに支え合いながら挫折を乗り越えて愛を育んでいく……と思ったら、太陽くんが車にはねられて瀕死の状態に。

 するとそこに黒ずくめの「案内人」日下(斎藤工)が現れ、雨ちゃんに「おまえの心を奪う。引き換えに太陽くんの命を助けてあげよう」と言い出し、雨ちゃんはそれを受け入れる。これから3カ月かけて、雨ちゃんは案内人に五感を奪われていくことになる。そんなお話。さてさて、どうなることやら。

■ロマンチックを期待していたんですが

 前クール、本格クライムサスペンスをやろうとして大いに失敗していた月9でしたが、今回はイントロダクションを読む限り、シンプルにロマンチックなラブストーリーっぽかったので、そういうのを期待していました。

 案内人云々はとりあえず置いといて、この作品が恋愛とか心とかをどういうふうに扱っていたかという話から。

 出会いから、かなり気持ち悪いんです。

 雨ちゃんは暗い性格の女の子で、友達も一人もいません。ある雨の日、傘を持っていない雨ちゃんが昇降口でたたずんでいると、太陽くんが現れて、「相合傘で帰ろう」と誘います。

 こういう女子が知らん男先輩に急にそんなことを言われたらドン引きするところですが、次のシーンではすんなり1本の傘におさまる2人。このへんからすでに気持ち悪い。そんな簡単に付いてくわけねーだろ、コミュ障ナメんな、と思ってしまう。

 で、別れ際に太陽くんが言うのです。

「お天気雨の日に赤い傘に2人で入ったら、運命の赤い糸で結ばれるんだよ」

 怖。

 あのね、「偶然何かが起こったとき2人でいたら、その2人は運命かもね」という話ならわかるんですが、この状況、太陽くんが作ってるわけです。「赤い傘に入れよ」と言っておいて「入ったんだから、これ運命な」と言い出してる。

 ほかにも、川の飛び石で遊んでいるときに太陽くんが雨ちゃんを抱きしめたシーンとか、線香花火が先に落ちたらなんでも言うことを聞くという約束とか、太陽くんがあらかじめ都合よく決めたルールを、あんまり頭が切れない雨ちゃんになんとなく飲み込ませて、罠にかける形で雨ちゃんの心に侵入していくような段取りがいくつも見られました。

 作為的に偶然を装って、ウソの奇跡を演出してる。さらに、いきなり服を着たまま川に飛び込んだり、全校放送で雨ちゃんひとりに向けて愛を叫んだり、いかにも衝動的な人間ですよ、計算なんてひとつもしてないですよ、というアピールも忘れない。

 これ、完全にアレですよ。秋葉原でかわいい女の子がキモオタに声かけて、高額な絵画を売りつけるときにやる手法ですよ。全然ロマンチックじゃない。

 まさか月9の主人公を意図的にこういう「怪しいセミナーのちょっと偉い人っぽい手法で女の心に入り込むキャラ」として造形するわけないですから、これはもう脚本家の恋愛観がそういうものだと、そういうのが素敵だと思って作ってるということで、早くも絶望的な気分になってきます。ロマンチックを見たかったのに。

 さらに、ドラマの縦軸として描かれる雨ちゃんの「心」についてですが、雨ちゃんは母親にブン殴られて包丁を突き付けられるという「ザ・虐待」サバイバーでした。おかげで自己肯定感が低く、自分が大嫌いです。

 そのわりに、誘われたらすぐ相合傘には入るし、長崎に帰った初日には名前も知らない若い男のクルマに平気で乗り込んじゃう描写があったり、ちょっと危うい女の子。これも、意図的に「錦糸町あたりでガルバにスカウトされて、何も考えずに付いていったらピンサロだったけどまあいいやと思って働いてそうなキャラ」として造形するわけないので、ああ心理描写より段取り優先の脚本だなと絶望してしまう。

 さらに、太陽くんも雨ちゃんも花火職人やパティシエに向いてないことは自覚してるのに、「心を変える」とか「あなたは必要な人間」とか、そういうキラキラワードでもって再び挫折した道に引き戻されることになります。2人に必要なのは、明らかに「心を変える」ことより「環境を変える」ことでしょう。まだ若いんだから、わざわざ向いてない仕事を苦しみながら続ける必要はない。コミュ障の陰キャでも、色覚障害でも、毎日楽しく生きていけるような環境を求めればいい。それなのに、このドラマは人生における目標設定の変更を悪と断じて、2人を不幸であり続けさせようとしている。

「心を変える」「あの子の心を変えて」「心をくれたから」

 うるせえんです。こんなのは恋愛劇ではなく、きっつい自己啓発界隈の世界観なんですよ。こういう雰囲気も素敵だと思って作ってるんだろうから、しんどいなぁ。まだ第1話ですよ。

■死神の登場でさらにカオスに……

 案内人の見た目は『Sweet Rain 死神の精度』(08)の金城武とまったく同じです。雨が降ってるのも同じ。で、やってることは『笑ゥせぇるすまん』の喪黒福造と同じ。いや、喪黒福造より筋が通ってないだけヤバい。

 事故に遭って死にかけている太陽くんを助けたければ、「心を奪わせろ」と言う。そうすれば、奇跡を起こしてやると。

 えーと、なんで?

 喪黒は、基本的にはですけど、対象者の欲求を満たすことと引き換えに社会的立場や平穏な生活を脅かすような状況に陥れる人物でした。このドラマの案内人は、他人の命を人質に取って、おまえが犠牲を払えと迫っている。まず、この時点で倫理がヤバいです。提案もヤバいし、受け入れる雨ちゃんもヤバい。ただでさえ「私は必要ない」って思ってる自己肯定感の低い人にこんな要求しちゃダメ、絶対。

 さらに「心を奪う」方法として、3カ月かけて雨ちゃんの五感を奪っていくという。味覚、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、それを雨ちゃんは順番に失っていくことになる。「五感が心を育む」から、五感を奪えば心を奪えるというロジックだそうです。

 いや、あのさ、世の中には生まれつき目の見えない人や耳の聞こえない人がいますよ。事故や病気で五感のうちのいくつかを失っている人もいます。そういう人たちは心が育まれてないってことです? 心が欠けていると言いたいのですか?

 言いたくはないんでしょう、それはわかります。パティシエ志望の女が味覚を失ったら泣けるよな、花火を扱うドラマで女が視覚を失ったら泣けるよな、月9だからキスだってするでしょう、この女は触覚がないんだぜ、泣けるよな。そういう「泣ける」最優先の安直な発想で設定を作ったら、マジで創作者以前に人間として大切にしなきゃいけない倫理観や良識が蔑ろになったドラマができちゃった。そんな感じがします。

 というわけで、今夜は第2話。お楽しみに!

(文=どらまっ子AKIちゃん)

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子です。

最終更新:2024/01/31 12:11
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