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DAZN、アジアカップ日本代表戦独占配信のタイミングで値上げ発表の“狡猾”さ

DAZN、アジアカップ日本代表戦独占配信のタイミングで値上げ発表の狡猾さの画像1
DAZN(写真/Getty Imagesより)

 スポーツ専門ストリーミングサービスのDAZNは、2月14日から基本プラン「DAZN STANDARD」の月額料金を3700円から4200円に値上げすることを発表した。ただでさえ他のサブスクサービスに比べて高いと言われているDAZNのさらなる値上げ。そのタイミングについて、「狡猾だ」という声もあがっている。

 イギリスのDAZNグループが運営するDAZNは、2016年8月にサービス開始。当初は月額1890円だったが、2019年4月に1925円へ値上げ。その後も2022年2月に3000円、2023年2月に3700円とその料金は上がり続け、今回の値上げで、ついにサービス開始時の2倍以上である4200円となるのだ。

 日本国内でのDAZNにおいて、最大の人気コンテンツはサッカーだ。J1・J2リーグはDAZNが全試合を配信。さらにアジアサッカー連盟主催のサッカー大会も配信しており、現在開催中の『AFCアジアカップ カタール2023』もDAZNで全試合配信されている。

 このアジアカップには、史上最強といわれるサッカー日本代表も出場。決勝トーナメントを含めて日本代表は最大7試合を戦うが、そのうち3試合が地上波での中継がなく、DAZNのみでの配信だ。

「日本のサッカー界における最強のコンテンツが日本代表。その公式戦をDAZNが独占配信するタイミングということで、契約者を増やす最大のチャンスなわけです」(スポーツライター)

 現在の日本代表は、イングランドのプレミアリーグで活躍する三笘薫(ブライトン)、遠藤航(リヴァプール)、冨安健洋(アーセナル)、スペインのラ・リーガのレアル・ソシエダの久保建英、フランスのリーグ・アンの南野拓実(ASモナコ)、伊東純也(スタッド・ランス)など、欧州トップリーグの強豪チームに所属する選手が勢ぞろい。近年稀に見る勢いでファンを増やしている。

「2022年のW杯カタール大会後、若い選手も増えて世代交代が進むなか、好調さはキープ。ルックスがいい選手も多く、いわゆる“推し活”の対象としても支持されています。今回のアジアカップでの日本代表の活躍を見るべく、DAZNに新規入会する人も少なくないでしょう」(同)

 アジアカップの決勝戦が行われるのは2月10日。DAZNが4200円に値上げする前のタイミングだ。

「後々値上げすることが確定している状況なので、アジアカップのためにDAZNに入会するなら“今しかない”と感じるサッカーファンは多いはずですよ。アジアカップ前に値上げをしていたら、ユーザー増加に便乗する値上げだと批判されますが、アジアカップ後の値上げなら良心的にさえ見えますしね。アジアカップが終わったら、値上げ前に解約するユーザーも少なくないでしょうが、サブスクサービスにおいて重要なのは、1回でも有料会員にさせること。そのうち何%かが継続契約してくれれば万々歳です。“アジアカップ後の値上げ”とすることで、一旦入会のハードルを下げているというわけで、なかなか狡猾なタイミングです」(同)

今回追加された「DAZN BASEBALL」のビミョーな立ち位置

 Jリーグは地上波放送もほとんどなく、その動向をチェックするにはDAZNを契約するしかない。Jリーグのサポーターにしてみれば、足元を見られているような状況だが、DAZNは今回、基本プランの値上げとともに、野球コンテンツのみを視聴できる「DAZN BASEBALL」というプランの追加を発表した。料金は月額2300円で年間契約のみでの提供となる(支払いは月々)。

 DAZN BASEBALLでは広島カープ主催試合、オールスターゲーム、日本シリーズなどの一部試合を除く、NPB主催のプロ野球の試合が配信される。

「DAZNのメインのユーザー層がサッカーファンであるにもかかわらず、サッカー専門の安価なプランではなく、野球専門のプランだけが追加。とはいえすべての試合が網羅されているわけではなく、かなり微妙です。野球ファンからは《広島戦もなんとかしてよ》という声があがっていますし、サッカーファンからは《DAZN baseball、広島を口説けて無いのにそれするのか? なら先にサッカーからでしょ》というように、ブーイングも起きています」(同)

 そもそもDAZNの料金が値上がりするのは、サッカーの国際試合の放映権料が高騰していることも背景にある。

「アジアサッカー連盟は放映権ビジネスに積極的になっていて、放映権料が高騰。そんななか、DAZNは2021年にアジアサッカー連盟と2028年までの長期契約を結び、放映権料は8年間で推定20億ドルと言われています。円安の影響もあり、日本円にしたら2500億円から2800億円ほどの超高額契約です。またDAZNはJリーグとも2017年に10年間の放映権契約を2100億円で締結。さらに2023年にはその内容が見直され、2033年までの11年間で約2395億円という新たな放映権契約で合意しました。DAZNは、そういった巨額のコストを回収しなければならない。だからこそ値上げが必要で、そこをサッカーファンが負担している形だと言えます。ファンもこのコストを請け負わない限り試合が観られないということであり、もはや受け入れるしかない状態です」(同)

 放映権料が高騰する一方で、日本の地上波テレビ局はそのコストに見合わないと判断し、日本代表戦の放映を見送るケースが増えている。その結果、前述のようにアジアカップは日本戦の3試合がDAZNのみの配信、2022年のW杯カタール大会のアジア最終予選の日本戦もアウェイの試合はDAZNの独占配信で地上波では放送されなかった。

「サッカー日本代表の試合については、“公共財”として、地上波で無料放送できるような法整備が必要だという議論も進んでいます。実際に欧米では、代表戦は無料で見られる国も多いですしね。日本のサッカーの底上げ、サッカー文化の発展という意味では、日本代表の試合を無料で見られるようにするのはかなり重要ですし、今後“配信でしか見られない”という状況も徐々に変わっていく可能性もあるでしょう」(同)

 いくらDAZNが計算ずくのタイミングで値上げしたとしても、月額4200円は決して安いものではない。もし今後も値上げがあるようであれば、一気にユーザーが離れて、サービスが成立しなくなる危険性もあるだろう。

 単なるビジネスであればそれでいいかもしれないが、“公共財”としての側面があるスポーツを守るという意味では、このままでいいはずもない。巨額な放映権料を支払い、それを高い料金でユーザーに負担させるというシステムを見直すべき時期が、近づいているのかもしれない。

手山足実(ジャーナリスト)

出版業界歴20年超のベテランジャーナリスト。新聞、週刊誌、カルチャー誌、ギャンブル誌、ファンクラブ会報、企業パンフレット、オウンドメディア、広告など、あらゆる媒体に執筆。趣味はペットの動画を見ること、有名人の出没スポットパトロール。

てやまあしみ

最終更新:2024/01/24 09:00
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