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『君が心をくれたから』第5話 ファンタジーの中で「不幸」を描く上でのモラルの話

第5話 すべて魔法のせいにして | TVer

 フジテレビ月9『君が心をくれたから』5日放送分は第5話。物語も中盤に差し掛かり、嗅覚と味覚を失った雨ちゃん(永野芽郁)、お次は触覚を失うそうです。

 感触がなくなったら「立って歩けなくなるの?」と雨ちゃんは心配そうですが、実際に雨ちゃんから次々に五感を奪っている死神のお答えは「わかりません」。わかんないのか、なんて無責任な。

 以前、このレビューで死神がこうして五感を奪っていくのは初犯じゃないだろうな、と書きましたが、どうやら初犯のようです。初犯にして、斎藤工のこの落ち着き。すげえ怖い。

 ちなみにドラマがこの「五感を失う」現象を「病気」と呼び始めましたので、実際の病気に即して考えてみますと、先天性無痛無汗症という症状に近いようです。この場合、痛みを感じないけど運動は麻痺しない。つまり、雨ちゃんは触覚を失っても歩けるということになりますが、まあそこはファンタジーなのでね。症状については都合のいいようにするのでしょう。

 そんなこんなで、いよいよ自分が要介護になる覚悟をした雨ちゃんは大好きな太陽くん(山田裕貴)を遠ざけようとしますが、月9の中盤ですのでそうは問屋が卸しません。おばあちゃん、太陽くんの妹、当て馬にされた市役所のイケメンらが奔走し、まだお互いに気持ちがあることを確認させた上で2人を引き合わせます。

 それでも雨ちゃんはバスに乗って去ろうとしますが、ここで太陽くんのポテンシャルが爆発。数キロにわたってバスを自走で追いかけるという驚異的な脚力・持久力を発揮し、めでたく再会となりました。花火職人より陸上競技でオリンピック目指したらいいよ。まだまだ身体も絞れそうだしな。

■そんなことはいいんです

 そんなことより、なんか、一線を越えてきたなと感じさせる回でした。

 これまでも「お涙」最優先の安い展開に批判的な立場のレビューを書いてきましたが、それも自分で作ったファンタジー設定の中で遊んでる分には別によかったんです。

 やれ案内人だ、やれ奇跡だ、やれ五感を失うだ、そういう空想の中で子ども騙しをやってる分にはよかった。いちおう大人としてレビューを書くという仕事なので矛盾点や軽率な部分にツッコミを入れてきたけど、ファンタジーの中では雨ちゃんの「不幸」もドラマのオリジナルな「ファンタジー不幸」なので、それに乗って泣けるなら泣けばいいし、笑いたければ嘲笑すればいいという性質のものだった。

 しかし前回あたりから、介護とか病気とか、そういう現実世界の現象として雨ちゃんの不幸を扱い始めている。やべえな、と前回思って「ファンタジーとして五感を奪うなら、ファンタジーとして悲劇を描け」「作り手の都合に合わせてリアリティの線を引き直すな」といったことを書きましたが、そんな懸念を天下の月9は軽々と超えてきました。

 自分で歩けなくなる可能性を認めた雨ちゃんが、障害者施設の下見に行くシーンがあります。

 ここで雨ちゃんは、窓際の車椅子を眺めながら「幸せな未来」「笑っていられるような素敵な未来」「未来にワクワクしてる」というかつての自分と、この施設で暮らしている人々を対比します。

「幸せ」「素敵」と「心身障害」を対立軸に置いたということです。

 彼らを「不幸だ」と言い切ったということです。

 ファンタジーとして不幸を描けと言ったのは、まさにこのことで、現実の中で障害を抱えている人たちを登場させて、その人たちをサンプルにして「あんな風になったら不幸だ」「ああはなりたくない」とだけは、絶対に言っちゃいけないんです。フィクションだろうが、ティーン向けのラブストーリーだろうが、それは絶対にダメなんです。

 ドラマを作る仕事というのは、人間や社会といった現実を道具として使う商売です。だからこそ、現実を踏みにじってはいけない。おまえが作ったわけでもない誰かを、勝手に「不幸だ」と決めつけてはいけない。そんな論法でもって「さあ泣け」なんて、間違っても言っちゃいけない。それは物語を作る人の最低限のモラルでありマナーだ。

 で、ふと思ったんですけど、このドラマ見てこんなこと考えて怒ってんのって、日本中で私1人なんじゃないかね。だって、ちょっとでもそう思ったら見るのやめるもんね、普通。

 日銭稼ぐのも楽じゃないですな、ふー。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子です。

最終更新:2024/02/06 16:00
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