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忘れられない『ムショぼけ』の夏―北村有起哉さんとの対談公開を控えて

マンガ『ムショぼけ ~懲役たちのレクイエム~』
マンガ『ムショぼけ ~懲役たちのレクイエム~』

2021年に放送されたドラマ『ムショぼけ』(朝日放送)。そのドラマの続編ともいえる小説『ムショぼけ2~陣内宗介まだボケてます~』(サイゾー)も好評を博したが、さらに同作はマンガとしても展開され、この度、単行本が発売される。これを記念して特別対談を実施されたが、ここにたどり着くまでの、固定概念を打ち破ることからスタートした『ムショぼけ』プロジェクトを作者が振り返る――。

『ムショぼけ』が切り開いた尼崎というロケ地

 あの年の夏は熱かった。まるで学生時代に過ごした夏のような思い出として、今も私の心に大切な思い出としてしまってある。もう、あんな夏を過ごすことはできないのではないかと感じるほどに。それほど、私の生まれ故郷、兵庫県尼崎市で2021年に撮影したドラマ『ムショぼけ』は特別であった。

 先日、小学館で、その『ムショぼけ』の主演を務めた北村有起哉さんと対談を行ってきた。同作のマンガ化と単行本出版を記念しての企画だ。北村さんとは同作の撮影以来、約3年ぶりにお会いしたが、まったくそんな感じがなく、あの撮影がついこの前のように感じながら、対談は予定時間を延長して、大いに盛り上がったのだった。その模様は近日中に「NEWSポストセブン」と当サイトでお届けできる予定だ。

 私は、すべての固定概念をぶち破ってきた。藤井道人監督プロデュースでドラマ『ムショぼけ』をやると決まったとき、まだ本はできていなかった。ただプロットは一気に書き上げていたので、それを持って、原作小説の出版とそのドラマ化の打診を懇意にしている小学館の編集長に持っていったのだ。

 小説が書き上がってもいないのに、そのドラマ化契約を出版社とテレビ局が結ぶことなど異例であった。それでも私の熱意に応じてくれた編集長が汗を流してほうぼうと調整してくれ、小学館と朝日放送の間で契約にこぎつけてくれたのだ。

 もちろん契約が決まったからには、私も期待以上のものを書き上げる自信はあった。そして締切までに小説を書き終えて、ドラマも無事に放送されたのである。

 放送後、ドラマの舞台となった尼崎の人々からの反響はすごいものがあった。私にとって世の中の広さなんてどうでもよくて、地元である尼崎で反響を勝ち取れば、結果として世間にだって通じると思っていた。ドラマ『ムショぼけ』を尼崎で撮影し、この土地の個性と魅力が伝わったことによって、その後、数々のドラマが尼崎で撮影し出したのだ。その道筋を作ったのは、みんなで作った『ムショぼけ』である。

 今思うと、主人公の陣内宗介を演じるのは、北村有起哉さん以外は考えられなかった。刑務官は板尾創路さんじゃないとダメだったし、ヒロインは武田玲奈さん、宗介の娘役は鳴海唯さんじゃなかったら、ドラマ『ムショぼけ』は、尼崎を舞台にここまで騒がれてフィーチャーされることはなかったと思う。

 私はドラマだけでない。あらゆる垣根を人脈と情熱で超えてきたのだ。小説『ムショぼけ』は小学館から出版し、小説『ムショぼけ2』はサイゾー。マンガ『ムショぼけ』は秋田書店から連載を開始させたのだ。朝日放送の人々をはじめ、固定概念に囚われず、みんなが快く了承してくださった。

 生きていく上で、もちろんお金は必要だ。だがそれだけではつまらないし、作品作りにはもっと大事なことがあって、感動や話題はたかだかお金ごときでは生まれない。

 私は、この作品の成功にすがるつもりもなければ、もちろんここで終わるつもりもない。だけどこの先、私の作品がどれだけ売れなくなっても、『ムショぼけ』を生み出したという自負だけは背負って生きていける。『ムショぼけ』がなければ、『インフォーマ』も『ブラザーズ』も誕生していなかったのだ。

 いつかまた『ムショぼけ』の続編をやれたらいいなと思っている。それまで私は走り続けていくだけである。

 3月18日に、秋田書店からマンガ『ムショぼけ』の1巻が発売される。その後、前述した北村さんとの対談も公開されていくだろう。

 それらを読んで『ムショぼけ』をまた思い出してもらい、マンガ、ドラマ、小説のそれぞれに接してもらえれば、うれしい限りである。

 ドラマ『ムショぼけ』の製作に奔走したあの夏は、本当に熱かった。この作品に携わってくれたスタッフや俳優部の人たちは、みんな元気にしているだろうか。私にとっては、ムショぼけに携わってくれた一人ひとりが愛おしい人々である。

(文=沖田臥竜/作家)


マンガ『ムショぼけ ~懲役たちのレクイエム~』

秋田書店/759円(税込)

TVドラマ化もされた人気小説『ムショぼけ』を原案に描かれる任侠炎上ロマン! 自称元ヤクザのアウトロー系YouTuber・ヒロは、14年の服役を経て大阪刑務所より出所したある男に会いに行く。その男の名は陣内宗介。時は遡り平成9年。そこには徳島組の組員として熱く奔走する彼らの姿があった…。舞台は兵庫・尼崎。懲役を終えた一人の男の青春と懺悔。

作家。2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)や小説『インフォーマ』(サイゾー文芸部)はドラマ化もされ話題に。最新刊は『インフォーマ2 ヒット・アンド・アウェイ』(同)、『ブラザーズ』(角川春樹事務所)。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。

Twitter:@pinlkiai

最終更新:2024/03/17 19:27
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