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【秋ドラマ】『潜入兄妹』第1話 香港ノワールへのオマージュに富んだサスペンス 「美学」で押し切れ

竜星涼(GettyImagesより)

 さて、秋ドラマがスタートです。日本テレビ系の土曜10時は『潜入兄妹 特殊詐欺特命捜査官』。

 過去に同枠で放送された『大病院占拠』、『新空港占拠』、『ボイス 110緊急指令室』のスタッフによるオリジナル作品で、脚本は病院と空港を占拠したときと同じ福田哲平さん。

 主演には『VIVANT』(TBS系)で敏腕の公安、春クールには『ACMA:GAME』(日本テレビ系)でゴキゲンな青年を演じていた竜星涼くんと八木莉可子さんのダブル主演となります。

 それにしても、いろんなドラマを見ていると、いろんな作品を作りたい人がいるんだなぁと感じます。今回は、ゴリゴリの香港ノワール。緑がかった青空に、コンクリート打ちっぱなしの建物群。薄暗い中華料理店の厨房で炎に包まれる大きな鉄鍋。もう、今にも物陰からアンソニー・ウォンが顔を見せそうな雰囲気です。

 そして第1話にして、さっそくお気に入りのキャラクターができました。巨大詐欺組織「幻獣」で、問題を起こした人員を始末する“始末屋”として登場したヒゲ人物(フェルナンデス直行)。この人が始末に使っている銃がいいんです。たぶんだけど、銃身にエアポンプがつながってて、空気で弾丸を撃ち出すコンプレッサー銃なんですよね。映画『ノーカントリー』(07)で無差別殺人犯アントン・シガーが家畜を殺す用のコンプレッサー銃で人を殺しまくっていて、要するに始末されるべき人間は家畜みたいなもんだという、そういう美学を感じる銃です。

 ノワールの美学は人殺しの美学です。そして、美学を抱いて生まれてきたドラマは、とりあえず信用してみようという気にさせてくれます。

 そんなわけで第1話、振り返りましょう。

■「潜入った(はいった)」

 5年前、目の前で何者かによって父親を惨殺された兄の警察官・キイチ(竜星)とパソコンオタクの妹・ユキ(八木)という渡良瀬兄妹。父を殺した人物は、手に鳳凰のタトゥーを入れていました。

 キイチは勤めていた警察を辞め、ユキはその能力を生かして天才ハッカーとなり、5年間にわたって独自に父の仇を捜していました。ネットに詳しくてパソコンを使えるユキはまだしも、キイチがどうやって食っていたのかわかりませんが、とにかく兄妹は父の仇を撃つべく、復讐に人生を投じていたわけです。

 とある詐欺事件をきっかけに、警察のお世話になることになった兄妹。そこで、父が実は巨大詐欺組織「幻獣」に潜入捜査官として潜り込んでいたことを聞かされ、上層部から父の跡を継いで潜入捜査官になることを打診されます。一度は拒否したキイチでしたが、妹のハッカー・ユキが刑務所にブチ込まれるのを避けるため、捜査に協力することにしました。

 キイチが「幻獣」の募集する闇バイトの面接に赴くと、そこにはキイチのスマホをハッキングして情報を知ったユキの姿が。なし崩し的に、兄妹2人で詐欺集団に協力することになりました。

「幻獣」には、その組織の頂点である「鳳凰」の下に「青龍」「朱雀」「白虎」「玄武」という4人の幹部がいます。キイチたちが今回、参加することになったのは玄武の手下であるミナミ(入山杏奈)のチーム。ちなみにこのミナミから400万を掠め取ろうとした末端のチンピラ2人が、例のコンプレッサー銃で始末されたりしていました。下手を打つと、兄妹もアレでやられることになるわけです。

 ミナミに渡されたマニュアル通りに、闇金相手に詐欺を実行しようとする兄妹でしたが、見事に失敗。今度は闇金に捕まってしまいました。しかしキイチはミナミたちについて口を割らず、さらに闇金連中が実はミナミの仕込んだ人間であることを見破ります。

 この一連、ミナミが「口の堅いメンバー」を選出するためのテストでした。見事、テストに合格して「幻獣」の末端に潜入することに成功した兄妹。その瞬間、ユキは「潜入った(はいった)……」とつぶやくのでした。

 アジトに集められた兄妹たちは玄武に面通しされることになりますが、玄武は警察署の防犯カメラ映像(たぶん簡単に手に入るのでしょう)から、兄妹が警察に捕まった翌日に闇バイトの面接に来ていたことを看破。キイチの背後に、コンプレッサー銃の始末屋が立つのでした。

■シンプルにプロットだけでサクサク進む

 人の死や犯罪組織を描くノワールだけに、このドラマは人物たちの細かい情緒や逡巡は極力排除してシンプルにプロットだけで進行していきます。兄妹に潜入を命じる警察上層部は強引かつ不可避な方法でキイチを納得させますし、闇バイトの面接会場で妹を見つけ、帰らせようとする兄の苦悩も展開で押し潰していく。結果、とてもスピーディーでスリリングなドラマになっていました。第1話で潜入に成功した途端、2人が「警察の犬」だとバレるラストも引きは十分。申し訳程度の次回予告も意味不明でステキです。

 正直、脚本だけ見たら作り込みの甘いところもたくさんありそうな感じはします。でもそこはやっぱり香港ノワールですからね、ケレン味あふれるガンアクションとか、脂ギトギトの美味そうな中華料理とか、そういう「美学」でもって押し切ってほしいと思います。今んとこ、けっこう好きよ。けっこう好き!

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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最終更新:2024/10/07 13:56
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