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オトナの「J春映画」レビュー#1

なにわ男子・高橋恭平『千輝くん』のせつない唇が、オトナのアンチエイジングに効きすぎた!

なにわ男子・高橋恭平『千輝くん』のせつない唇が、オトナのアンチエイジングに効きすぎた!の画像1
イラスト/二平瑞樹

 若手ジャニーズタレントと恋に落ちる、メインターゲット=中高生の恋愛映画ーー俗にいう「キラキラ青春映画」を侮るなかれ。オトナのあなたにこそ、ぜひ観てほしいのです。この連載では、ジャニーズ青春映画、略して“J春映画”の魅力を全力でお伝えしていきます。

 酸いも甘いも噛み分けたオトナだからこそ、俯瞰してピュアな恋愛模様に酔えるというもの。忘れていた胸キュンに癒され、憂いはふっ飛び、きらめく多幸感が全身に満ちていく……そんなめくるめく映画体験をご一緒に!

劇場内に走った動揺など知るよしもない千輝くん

ーー最後に“片思い”をしたのは、いつだったでしょうか。

 私はBBA(※)業界にたゆたって久しく、残念ながらそんな「キュン!」とはトンとご無沙汰しております。だが、このままではハートの老化待ったなし。

 心の足腰が立たなくなる前に、ときめきをチャージしたくなりました。

 折しも、うってつけの青春映画が公開されています。それは、なにわ男子・高橋恭平さん主演の『なのに、千輝くんが甘すぎる。』(3月3日公開)

 手痛い失恋をしたヒロインの如月真綾(畑芽育)は、学校一のイケメンモテ男子・千輝彗(高橋)から、「好きな人、無理に探すくらいならオレに片思いすれば?」と持ちかけられます。

「ちょっと、何言ってるかわからない」というYOUのために解説すると、「失恋の傷を癒すなら新しい恋で上書きするのがいい。無理に“好きな人”を探すのは大変だろうから、自分を相手に“片思いごっこ”をしてはどうか」、という意味です。

「すげえ自信だなオイ」とビックリしますが、千輝くんは毎日、学校中の女子から「好き好き!」言われて“モテ慣れ”している上、ある出来事が原因で“好き”という気持ちを信用していません。

 なので、この申し出をした時点では「自分に“なんちゃって好意”を向ける女子がひとり増えたところで構わないし、それで彼女が立ち直れるなら結構」くらいに思っていたと推察されます。

 一方の真綾も、失恋したことで急に空虚になった毎日を“千輝くんに片思い(ごっこ)”することでハリのあるものにできるなら、乗っからせてもらおうと受け入れます。「好きな人を見かけた回数を数える」「匂いを嗅ぐ」「下駄箱チェック」「好きな人の好きなものを好きになる」……など、片想い業界のミッションをがんばってこなす健気な真綾。その姿に在りし日の自分がダブり、思わず目を細めてしまいました。

 しかしながら、ミッション達成の数をポップに“☆”でメモに記す真綾に、「えっ、“正”の字じゃないんだ……」と隔世の感を覚えたBBAは、私だけじゃないはず……。
 
 ともあれ、このあたりまではほほえましく、楽しくスクリーンを眺めていられたのです。劇場は友だちと連れ立ってやって来た高橋くん推しの女子が大半で、皆ポップコーンやホットドッグを片手に「どれ、推しの主演っぷりを見届けてやりますか」的な余裕を醸していたのに……!

 体育の授業中に訳あって倒れた真綾に千輝くんが駆け寄り、迷いなくお姫様だっこをしてグラウンドを去ったシーンから、劇場内の空気が一変しました。軽やかに響いていたポップコーンの咀嚼音は静まり、私の隣席の少女は終映までポップコーンに手を突っ込んだままでした。

 何が、あったのか。

 ここから、千輝くんと真綾は「これは“ごっこ遊び”だから」としてきた気持ちの底に芽吹いたものを知るのです。同じように、“推しの演技”を高みから見ていた女子たちも、千輝くんと真綾の恋を自分事のように感じ、息を詰めてしまったのだと思います。

 “片思いごっこ”とか、“推しのお仕事観察”とか、建前の盾があると人は強気になれるもの。建前を取り払って恥をかいたり何か失うくらいなら「このままでいい」と思うこともあるでしょう。それでも、やっぱり本心は素直で清らかで。

 場内の動揺などスクリーンのなかの千輝くんは知るよしもなく、真綾の頬に触れたり、うなじに口づけたり、「待ってやめて身がもたない!」と悶えそうなアプローチをこれでもか!と繰り出します。こともなげに真綾のジュースを味見するなど、間接キスも鮮やか。真綾が必死に守る片思いのボーダーを、しれっと飛び越えてきます。

 千輝くん、いや高橋さんの唇は艶やかで紅く形よく、罪深い官能美に満ちていて、見る者をさらにせつなくさせるのでした。まったくけしからん少年よ。

 で、そんな千輝くんと真綾がまわりから放っておかれるはずもなく、真綾に密かな思いを寄せるクラスメイト・手塚(板垣李光人)、千輝くんとお似合いのマドンナ的女子・花咲(中島瑠菜)さん、真綾の親友・知花(莉子)らがふたりの恋にさざ波を立て、そして彩ります。

 本命に対抗する美形の彼、ライバルの美少女、腹心の親友と“胸キュン映画3点盛り”が整っているのは安心しますが、さらに感心したのは彼らそれぞれが“自分の人生の主役”であると伝わってきたことです。

 たとえ恋が実らなくても、わだかまりがあっても、自分と向き合いすがすがしく成長する少年少女の姿が丁寧に描かれていて、とっても好もしい。ある人は「好きな人の恋人にはなれなかったけれど、これからはいちばんのファンになる」と気持ちを切り替え、自分の恋に美しく決着をつけました。こういう潔さは、いろいろ濁りがちな大人はぜひとも見習いたいところ。

 そして、“ごっこ”から抜け出して本当の恋に踏み出した千輝くんと真綾が迎えるエンディングは、糖度120パーセント超えの体感! ひからびたBBAの胸にも、ありがたい潤いがもたらされました。

 苦しくて涙しても、手放しがたい甘さに絡めとられてどうにもできなくなる。それが、片思いの困ったところと言えましょう。大人のみなさまも愛すべき“片思い”を追体験できる、ほのぼのと平和なロマンス譚です。

みきーる(文筆家、女子マインド学研究家)

文筆家、女子マインド学研究家。メンタルケアカウンセラーⓇ。 大人世代のヲタクを〝BBAヲタ=Beautiful Brilliant Age=「美しく輝く世代」〟と定義し、明るく前向きな推し活を提案する。応援歴30年超のジャニーズファンでもあり、現在はアイドル、推し事、恋愛や女性の悩みをテーマに執筆活動を続けている。著書に『「戦力外女子」の生きる道』(ワニ・プラス)、『ジャニヲタあるある』、『ひみつのジャニヲタ』(共に青春出版社)、『大人のSMAP論』(速水健朗氏・戸部田誠氏と共著・宝島社)等がある。

みきーる

最終更新:2023/03/16 20:00
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