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バフィー吉川の「For More Movie Please!」#6

アカデミー賞への皮肉!? 悪意に満ち満ちたおバカ風刺劇『逆転のトライアングル』

アカデミー賞への皮肉!? 悪意に満ち満ちたおバカ風刺劇『逆転のトライアングル』の画像1
Fredrik Wenzel © Plattform Produktion

バフィー吉川の「For More Movie Please!」
第6回目は『逆転のトライアングル』をget ready for movie!

 人間など生まれながらに平等ではない。立場や環境が変われば男性優位にも女性優位にもなることはあっても、貧富の差やルッキズムという点においては、極端なことを言うと、無人島にでも流されない限りは“逆転”が不可能である。

 だったら無人島を舞台にしてみよう! という風刺劇が映画『逆転のトライアングル』。2月23日より公開中だ。

 そもそも本作のチャールビ・ディーンという監督は、『フレンチアルプスで起きたこと』(2014)や『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(2017)などの過去作を観てもわかるように、作品自体が風刺的なのだから、今回の題材からして悪意に満ちていることは一目瞭然。

 共産主義的な考え方や社会システムへの批判など、社会問題にメスを入れながらも、ポスタービジュアルにも使用されている富裕層たちが食事中に船酔いしてゲロをしまるシーンに加えて、トイレが逆流して汚物まみれにシーン、インフルエンサーが自撮りしているときに虫がブンブンうるさいなど、小学生が書いたような下品ネタもちょこちょこ入れてくる。

 それによって極端なプロパガンダ作品ではなく、結局のところおバカなブラックコメディになっているのが、今作の愛される理由だろう。

 そして富裕層や権力者が集まるアカデミー賞において、それらの当事者に向けられた風刺的な作品が評価されるというメタ的なジョークになろうとは予想していたのだろうか……。
今回のアカデミー賞は、前哨戦の流れから『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が圧勝というシナリオが出来上がっていただけに、あまり評価される機会が与えられなかったが、それでほっとしているアカデミー会員の富裕層たちもいるのではないだろうか。

【ストーリー】
モデル・人気インフルエンサーのヤヤと、男性モデルカールのカップルは、招待を受け豪華客船クルーズの旅に。リッチでクセモノだらけな乗客がバケーションを満喫し、高額チップのためならどんな望みでも叶える客室乗務員が笑顔を振りまくゴージャスな世界。しかしある夜、船が難破。そのまま海賊に襲われ、彼らは無人島に流れ着く。食べ物も水もSNSもない極限状態で、ヒエラルキーの頂点に立ったのは、サバイバル能力抜群な船のトイレ清掃婦だった……。

環境や立場が逆転したら人間は嫌なヤツになってしまうのか?

 世界の経済を動かしているのは、わずか数%の富裕層や権力者たちであり、ほとんどの人間はそのマネーゲームの中で踊らされているだけに過ぎない。信じたくはないが、それが現実だ。

 同じようなテーマの作品としては、去年公開された『ザ・メニュー』もあるが、富裕層やインフルエンサーという存在にイラ立っている映画人は結構いるものだと実感するし、最近やたら増えてきている気がする。

 そういった社会システムの見たくない部分を見ないようにして、微かな希望の中で私たちは生きているのだが、新型コロナによって、普段は見えない、見ないようにしていたものが明確に見えるようになってしまったのも理由のひとつではないだろうか。

 例えば経済学者トマ・ピケティの著書を元にドキュメンタリー映画化された『21世紀の資本』(2019)の中で、人は権力を持つほど性格が悪くなっていくという実験をボードゲームの「モノポリー」を通して行っていた。結果は見事なまでにその通り。

 富裕層は中間層、貧困層に対して差別するだけではなく、中間層も貧困層を差別する。さらにそれだけではなく、貧困層も同じ貧困層の中で、より下を見つけ出して差別するという、もともと人間に備わったと言うべきなのか、差別意識はどんな極端な環境においても形を変えるだけでなくならない。

 たかがゲームでそうなのだから、実際はもっと悲惨だ……。

 今作の中でもトイレ清掃員のアビゲイルが無人島で権力を持ったとき、ひたすら嫌なヤツとして描かれている。今まで大変な経験をしてきただろうというバックボーンが見えるが、同じような経験は他人にさせたくないという意識よりも、他者にも味わわせたいという意識に変換されてしまうのが大半だという皮肉にもなっているのだ。

 そして、富裕層たちが酷い目に合うのを見て楽しむこと自体も逆に差別だとしたら、いよいよどう観ていいのかわからなくなる。どちらの立場からも人間の嫌な部分が炙り出されるような構造となっているのだから、人間不信になる作品なのは間違いない。

 リューベン・オストルンドにとって初の英語作品がこんな皮肉だらけで権力者たちに対して嫌味なもので良いのかと心配になってくるものの、評価を恐れず作家性を重視したことは見事だといえる。

 

『逆転のトライアングル』
2月23日(木・祝)よりTOHOシネマズ 日比谷 他で公開中

監督・脚本:リューベン・オストルンド 
出演:ハリス・ディキンソン、チャールビ・ディーン、ドリー・デ・レオン、ウディ・ハレルソンほか
配給:ギャガ
原題:Triangle of Sadness|2022年|スウェーデン、ドイツ、フランス、イギリス|カラー|シネスコ|5.1chデジタル|147分
映倫:G
公式サイト:https://gaga.ne.jp/triangle/ 
Fredrik Wenzel © Plattform Produktion

バフィー吉川(映画ライター・インド映画研究家)

毎週10本以上の新作映画を鑑賞する映画評論家・映画ライター。映画サイト「Buffys Movie & Money!」を運営するほか、ウェブメディアで映画コラム執筆中。NHK『ABUソングフェスティバル』選曲・VTR監修。著書に『発掘!未公開映画研究所』(つむぎ書房/2021年)。

Twitter:@MovieBuffys

Buffys Movie & Money!

ばふぃーよしかわ

最終更新:2023/03/15 11:00
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