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社会がみえる映画レビュー#6

映画『Winny』東出昌大が演じてこその「信用はできないが純粋な青年」の説得力

映画『Winny』東出昌大が演じてこその「信用はできないが純粋な青年」の説得力の画像1
(C)2023映画「Winny」製作委員会

 映画『Winny』が3月10日より公開されている。本作は2000年代に違法アップロードによる著作権侵害などで社会問題となった、ファイル共有ソフトWinnyの開発者である金子勇を追ったサスペンスドラマだ。

 注目は、逮捕された実在の人物を実名で描いていることと、東出昌大が「信用できない青年」を見事に演じていることだろう。しかも、企画から約4年の歳⽉をかけて完成に辿り着いた力作であり、予備知識がなくても万人が楽しめる優れたエンターテインメントでもあった。さらなる魅力と特徴を記していこう。

エンタメとして面白い構図

映画『Winny』東出昌大が演じてこその「信用はできないが純粋な青年」の説得力の画像2
(C)2023映画「Winny」製作委員会

 物語の主人公は実質的に2人。著作権法違反幇助の容疑で逮捕されたWinny開発者の金子勇(東出昌大)と、サイバー犯罪に詳しい弁護士の壇俊光(三浦貴大)だ。弁護団を組んだ彼らが警察の不当逮捕をどのように訴え、立ち向かっていくのか、その過程がグイグイと興味を引くようになっている。

 物語の始まりには、その金子勇という開発者が、そもそも罪に問える立場なのか? という問いかけもある。つまり、Winnyそのものは簡単にファイルを共有できる革新的なソフトであり、違法のアップロードやダウンロードはその「悪用」だという考え方だ。

 予告編でも「もし、俺がこのナイフで刺殺したとするやろ? 誰が捕まる?」「犯人に決まってるやろ」「せやろ? このナイフを作った人を罪に問えるっかちゅう話や」というわかりやすい例え方をしたセリフがある。ここから、観客も弁護士と同じ立場で、客観的かつ論理的な視点で物語を追えるようにもなっているのは上手い作りだ。

 恐ろしいのは、金子勇を尋問する警察官たちが詳細な説明もないまま「誓約書」を書き写させたり、「裁判所の発言は嘘です。弁護士に入れ知恵されました」という文言にも同意を取らせようとすること。金子勇はそれらに疑問を抱かなかったり、「後で書き直せますよね」と聞きつつも警察の言いなりになったりするため、当然のようにそれらは裁判で不利な証拠になってしまう。

 では、弁護団はその不利な状況から、どのように金子勇の無罪を主張するのか? その過程は一種の頭脳戦でもあり、相手の嘘を暴こうとする過程はスリリング。敏腕弁護士が提示する「恋愛」に例えたテクニックも興味深い。「法廷もの」のジャンルにある面白さを多分に期待しても、裏切られることはないはずだ。一見関係のないようにも思える、吉岡秀隆演じる警察官のパートが、どのように「リンク」をしていくのかも注目してほしい。

「大丈夫かな?」と心配になる人物として描く意義

(C)2023映画「Winny」製作委員会

 さらなる特徴であり美点は、この金子勇という人物を、聖人だとか正義の人だとかいった、一辺倒な人物として描いてはいないことだろう。

 何しろ、劇中の金子勇は、「えっ……この人、大丈夫かな?」と心配になってしまうことばかりをする。例えば、警察に半ば強制的にサインを書かされたことを「なんでもっと早く言ってくれなかったんですか」と言われても、「すみません」と言いつつヘラヘラしていたりして危機感がない。裁判中にすごいアイデアを思いついたと言うと、周りに構わずにパソコンにのめり込んだりもする。どうにも社会性が欠如しているように思えるのだ。

 前述したように観客は弁護士と同じ客観的な視点から物語を追い始めているし、金子勇が故意に著作権侵害の蔓延を目論んでWinnyを開発したのでは? と疑いを持たせる場面もある。そのために、どうにも不安な言動ばかりする金子のことを「著作権侵害を蔓延させようとしているクズの犯罪者」か、それとも「革新的なソフトを作り出し社会のために貢献しようとした優れた開発者」かと、疑心暗鬼になりながら観るという物語の構造がある。

 しかしながら、金子勇は裁判とは関係ない豆知識を楽しそうに話すこともあるし、サンマを食べるのが苦手な自分の特性を自虐的に笑ったりするなど、どうにも憎めない場面も多い。というよりも純粋無垢な性格であり、それこそが金子勇というその人の魅力にも思えてくる。

 実在の人物を描くにあたって、観客に容赦なく疑いをかけさせるというのは挑戦的であるが、ある意味ではとてもフェアでもあると思う。恣意的に観客を誘導しすぎることなく、金子勇という人のことを「もっと知りたくなる」ような工夫がされているのだから。

現実の東出昌大にも重なる役

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(C)2023映画「Winny」製作委員会

 そして、この「危機的状況なのにヘラヘラしたりして心配になってしまう」「でも憎めないしもっと知りたくなる」主人公を演じるのが東出昌大ということは、ある意味では皮肉的で、ある意味でこれ以上の適役はないとも言える。

 何しろ、現実で許されざる不倫がスキャンダラスに報じられ、山にこもっての狩猟生活まで、マスコミの報道もあって世間からのバッシングを浴び続ける東出昌大の立場は、問題の本質がまったく異なることを前提として、やはり社会問題で槍玉にあげられた金子勇というその人に重なって見えたのだから。

 そして、東出昌大は良い意味で周りに馴染んでいない、変人かそれに近い役を演じるのが実に上手い。『桐島、部活やめるってよ』や『草の響き』では精神のバランスを崩した役を、『聖の青春』や『OVER DRIVE』では天才を、『寄生獣』や『スパイの妻』では非人間的なサイコな役にも見事にハマっていた彼が、今回は社会性が欠如していて人間的に信用がおけないところもあるけど、それでも「放っておけない」「信じたくなる」絶妙なバランスのキャラクターに扮しているというのは、その集大成的にも思えてくる。

 変人であるため考えが読みにくくもあるキャラクターなのだが、だからこそ「ここぞ」という時の複雑な表情から、その内面が大いに伝わる東出昌大の演技そのものも素晴らしかった。単なる利害関係でもなく、純粋な友情というのも少し違う、「人生」をお互いに捧げたような関係を築いていく、三浦貴大演じる弁護士との掛け合いも期待してほしい。

生きた時間に、光を当てる

映画『Winny』東出昌大が演じてこその「信用はできないが純粋な青年」の説得力の画像4
(C)2023映画「Winny」製作委員会

 松本優作監督は公式サイトで「未だ世間にさらされていない金子勇という天才技術者と、彼を支え、共に戦った壇さん始め弁護団の皆様が生きた時間に、私は光を当てたい。この映画が、わたしたち人間が、より自由に、平等に生きてゆくための試金石となることを願って」というコメントを残している。

 この言葉通り、当時からスキャンダラスに報じられた社会問題そのものではなく、その中心にいた人たちへ「光を当てる」ことこそが本作に課せられた使命なのだろう。新聞やニュースなどでは知り得ることはないであろう、彼らの「感情」を映画で目の当たりにできたことに、確かな意義を感じられた。シンプルに面白い映画を求める方はもちろん、これまで知り得なかった人たちの「生きた証」を知りたいと思う方にも、ぜひおすすめしたい。

タイトル:『Winny』
監督・脚本:松本優作
出演:東出昌大 三浦貴大
皆川猿時 和田正人 木竜麻生 池田大
金子大地 阿部進之介 渋川清彦 田村泰二郎
渡辺いっけい / 吉田羊 吹越満
吉岡秀隆
企 画: 古橋智史 and pictures プロデューサー:伊藤主税 藤井宏二 金山
撮影・脚本:岸建太朗 照明:玉川直人 録音:伊藤裕規 ラインプロデューサー:中島裕作 助監督:杉岡知哉
衣裳:川本誠子 梶原夏帆 ヘアメイク:板垣実和 装飾:有村謙志 制作担当:今井尚道 原田博志 キャスティング:伊藤尚哉
編集:田巻源太 音響効果:岡瀬晶彦 音楽プロデューサー:田井モトヨシ 音楽:Teje×田井千里
制作プロダクション:Libertas 制作協力:and pictures 配給:KDDI ナカチカ 宣伝:ナカチカ FINOR
製作:映画「Winny」製作委員会(KDDI Libertas オールドブリッジスタジオ TIME ナカチカ ライツキューブ)
原 案: 朝日新聞 2020年3月8日記事 記者:渡辺淳基
2023 │ 127min │ color │ CinemaScope │ 5.1ch
(C)2023映画「Winny」製作委員会

ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2023/03/17 22:37
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