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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.21

身長15mの”巨大娘”に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』

moneri-.jpgドリームワークス初の本格的3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』。
巨大化したスーザンをはじめ、モンスターや巨大ロボットのスケール感、
秘密基地の奥行きが3D映像で堪能できる。
(c)Monsters vs.Aliens ™ & © 2009 DreamWorks Animati on L.L.C. All Rights Reserved.

 マリア・シャラポワの身長が183cm(2004年ウインブルドン優勝時)と知って、思わず「うほっ」と声が出た男性もおられるのではないだろうか。少年期に『The かぼちゃワイン』のエルちゃんの前屈みの姿勢が妙に気になっていた”高身長萌え”である。そういう趣味はないという人でも、『南くんの恋人』(テレビ朝日系)で手の平サイズになった高橋由美子や深田恭子に”ミクロ萌え”を覚えたことはあるのでは? ならば、その逆もまた真なり。ドリームワークス製作の夏休み映画『モンスターvsエイリアン』は、マニアが手を叩きたくなるような3Dフルデジタルアニメーションだ。なんたって、身長15mを超える”巨大娘”がヒロインなのだ。

『モンスターvsエイリアン』の主人公スーザンは、ごく普通のアメリカ娘。地元ローカル局のニュースキャスターとの結婚式を控え、幸福な生活を手に入れるはずだった。ところが式の直前に謎の隕石がスーザンを直撃し、式の途中でスーザンはみるみる巨大化。せっかくのウェディングドレスはびりびりに。教会の屋根を突き破る、身長15m21cmの巨大女と化してしまう。自分の身体的異変よりも、招待客たちが逃げ出して結婚式が中断したことを心配する乙女心がナイスだ。だが、危険物と見なされたスーザンは米軍に捕獲され、家族から隔離された秘密基地での生活を余儀なくされる。そこでスーザンが出会ったのは、アメーバ状の軟体生物ボブ、ゴキブリと遺伝子融合してしまったコックローチ博士、気弱な半魚人ミッシング・リンク、放射能を浴びて巨大化した昆虫ムシザウルスといった分かりやすいモンスターたち。スーザンも”ジャイノミカ”というモンスターネームを付けられて、嫌々ながらモンスター軍団入り。やがて彼女たちは地球侵略を狙う凶悪エイリアンに立ち向かうことになる。

monneri_sub.jpgエイリアンに立ち向かうため、団結したモンスター
たち。東宝特撮映画『怪獣総進撃』(68)を思わせ
る設定だ。ちなみに日本語版は、スーザンにベッ
キー、軟体生物のボブにバナナマン日村を起用
している。

 実物大ガンダムに近いサイズのスーザンが米国のB級SF映画『妖怪巨大女』(58)のオマージュなら、ボブは『人喰いアメーバの恐怖』(58)、コックローチ博士は『蠅男の恐怖』(58)、ミッシング・リンクは『アマゾンの半魚人』(54)、ムシザウルスは東宝特撮映画『モスラ』(61)が元ネタとなっている。カビ臭いB級映画と笑うなかれ、『人食いアメーバの恐怖』はスティーブ・マックイーンの初主演作。『アマゾンの半魚人』の続編『半魚人の逆襲』(55)は、クリント・イーストウッドのデビュー作である。『モスラ』の原作は福永武彦(池澤夏樹の父、声優・池澤春菜の祖父)らが手掛けており、文学的な香りが漂う。イマジネーションに溢れた50~60年代のB級特撮映画は、映画界の偉大なる財産なのだ。

『妖怪巨大女』も熱烈なマニアがおり、ダリル・ハンナ主演でリメイク版『ジャイアント・ウーマン』(93)が製作されているほか、ロジャー・コーマン製作総指揮で『アタック・オブ・ザ・ジャイアント・ウーマン』(95)というお色気コメディも製作されている。日本では66~67年に放映された『ウルトラマン』の第33話『禁じられた言葉』でフジ隊員が巨大化したエピソードが有名だが、『ドラえもん のび太の宇宙小戦争』(85)ではしずかちゃんが巨大化しており、日本にも”巨大女マニア”マーケットが存在することが伺える。

 ちなみにスーザンがエイリアンの操る巨大ロボットとサンフランシスコで超ド派手なカーチェイスを繰り広げるくだりは、スティーブ・マックイーンの代表作『ゲッタウェイ』(72)を意識したもの。『未知との遭遇』(77)、『E.T.』(82)といったドリームワークスの総帥スピルバーグ監督作品のパロディシーンもあり。でもって後半のUFO内での攻防は、宮崎駿監督の『天空の城ラピュタ』(86)っぽい。ひっくり返ったおもちゃ箱みたいに男の子の夢がぎっしり詰まった作品なのだ。

 さて、身体的な変化からパニック状態に陥ったスーザンだが、でっかくなったのは身長だけではなかった。エイリアンのファーストアタックを何とか防いだスーザンは、行き場のないほかのモンスターたちを伴って実家への里帰りを許される。大きくなった娘を、両親はうれしそうに小さな家から飛び出して出迎える。親が娘を慈しむ気持ちは、15mを超える娘の大きな不安をすっぽりと覆い尽くす。肉親の深い愛に触れたスーザンは、小さな幸せだけを追い掛けていた自分の今までの狭い視野を変えることになる。平凡な女性から、観音菩薩のごとき博愛の境地に目覚めるスーザン。大きな体に大きなハートが入っていく下りが、本作の主眼だろう。スーザンは”ジャイノミカ”としての運命を受け入れ、異形の仲間たちと再び危機を迎えた地球を救うための戦いに身を投じる。

 ひとりの平凡な人間が巨大化することで、精神面に変化が現れる様を描いた作品に、さいとう・たかをが64年に発表したSFコミック『デビルキング』(リイド社)がある。謙虚さを失った人類に警告を発するため、マッドサイエンチストが貧しい男性を金で買収した上で巨大化手術を施し、愚かな人間たちに神として崇めさせようと企む壮大なストーリーだ。巨大化した男は、やがて博士や周囲のコントロールを離れ、自分自身の意思で神として振る舞うようになっていく。『ゴルゴ13』でブレイクする前のさいとう・たかをが28歳のときに手掛けた大野心作である。未読の方にお勧めしたい。

『ウディ・アレンの重罪と軽罪』(90)の中で「最後に女性の中に入ったのは、自由の女神に行ったときだ」というウディ・アレンならではのジョークがあるが、やはり巨大娘は男性にとって胎内回帰願望のニュアンスが含まれるようだ。高身長フェチを自覚していない人でも、巨大化したスーザンの胸の谷間で一度はゴロ寝してみたいと思うのではないだろうか。美しい双丘のふもとでは、まるで大地の女神に抱かれたような原始的な夢心地が味わえるに違いない。

 マリア・シャラポワに話題は戻るが、22歳の彼女は今も成長を続け、03年は175cmだった身長が、04年には183cm、06年からは公表188cmとなっている。でも体重はずっと59kgで据え置き。嫁入り前の娘としては、体重60kgオーバーが記録に残るのは耐えられないらしい。試合中は”シベリアン・サイレン”と称されるほどの雄叫びを発する割には、意外と恥ずかしがり屋さんなのだ。巨大娘のそんなシャイな一面もまた、男心を「うほっ」とさせるのである。
(文=長野辰次)

monneri_sub02.jpg

『モンスターvsエイリアン』
監督/ロブ・レターマン、コンラッド・ヴァーノン 声の出演/リース・ウィザースプーン、ヒョー・ローリー、セス・ローゲン、ウィル・アーネット、レイン・ウィルソン、スティーヴン・コルバート、ポール・ラッド、キーファー・サザーランド 配給:パラマウントピクチャーズ ジャパン 7月11日(土)より新宿ピカデリーほか全国ロードショーhttp://www.mon-eri.jp (携帯版 http://mon-eri-m.jp

マリア・シャラポワ ~素顔のままで~

クール&セクスィー

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最終更新:2012/04/08 23:06
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