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『ウェブはバカと暇人のもの』著者インタビュー

中川淳一郎氏に聞く「ブロガーイベントはなぜ終わったのか」

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 数年前から多数の企業が商品のプロモーションとして企画したブロガーイベント。ブログ上での口コミを狙い、注目度の高い個人ブログを運営するブロガーを集めて行うイベントだが、これが最近下火だという。一時期はIT関連企業だけでなく、サントリーなど大手メーカーがこぞって関心を示し、代理店も積極的にブロガーイベントの企画・運営に乗り出した。なぜここへ来て、開催数が減ってきたのか。ネットを利用した企業の販促の行方は。今年4月発売の『ウェブはバカと暇人のもの 現場からのネット敗北宣言』(光文社新書)でネット上のバイラルマーケティングへの過剰な期待に疑問を示した中川淳一郎氏に話を聞いた。

──ネットを使った企業の販促について『ウェブは……』の中で苦言を呈していらっしゃいます。

中川氏(以下、中) 一般人ブロガーを集めたブロガーイベントに、最近まともな企業は手を出さなくなってきています。理由は大きく分けると2つ。1つは、実際のところバイラルマーケティングが成り立っていないこと。ブログ本文の後に、他の参加者のブログを紹介するリンクを貼っても、結局それをクリックしている人の多くは関係者だけといういびつな状況です。そのことにようやく企業が気付き始めた。

──もう1つは?

 例えばコスメやファッション関係のブロガーイベントで「高感度でお洒落好き、日頃から自分磨きを心がけている女性100人に集まってもらいました」と唱っても、ふたを開けたらスタイリッシュとはほど遠い外見の女性たちだったりする。さらにネットに熱心に書き込む人は、「懸賞マニア的側面のある暇人」や「単に時間があるから行っている」というだけの人も多い。その商品に対する思い入れが高いわけでもないのに、企業が思い描く商品のイメージがそれで伝わるのか、ということです。

──商品のターゲット層と、ブロガー・ブログの読者層が乖離してしまっている状態ということでしょうか。

 はい。例えば安くてコンビニで売っているガリガリ君が新しい味を発売するからといってブロガーイベントを開催するならばアリだと思う。でも、数万円もする美顔器を、ヒマで低所得な人が多いと思われる一般ブロガーを通した販促で売ろうとするのは間違っていないかと。

──芸能人ブログを使った販促はどうでしょうか。

 「MOSDO!」(※1)では元モーニング娘。の辻と矢口のブログを使い、テレビCMでも2人が携帯でブログを更新する様子を流しました。彼女たちは「ブログ界」である意味最強に近い存在で、見る人が多い。だから効果が期待できるということだったのでしょう。2人のブログに「辻ちゃんかわいい」「おいしそうだね!」なんて素直なコメントをつける人たちにとっては充分影響力があったと思います。

──それでは、企業がブロガーイベントの次に注目しているものはあるのでしょうか。

 ネットの編集者たちからすると今さらという感もあるかもしれませんが、ヤフートピックス(※2)に載ることです。ヤフーがニュースの配信元を増やし始めたことをきっかけに、ヤフトピで取り上げられる企業が増えた。多くの企業で「ヤフトピで取り上げられたら、いきなりサーバーが落ちた」という経験があります。そこで「ヤフーすごい」「何とかもう一回ヤフーで取り上げられないか」という考えになる。ヤフーが一番効果があるが、ヤフーでなくても、他のポータルサイトで取り上げられるか取り上げられないかでかなり違うことが認知されてきました。

──今まではその効果が広く認知されていなかったと。

 そもそも僕は、ネットを分かっていない人が分かっているふりをしているのがネットマーケティングな気がしてならない。コンバージョンレート(※3)とか、CTR率(※4)とか、難しい言葉を言って「オレってすげーんだゾ! インターネッツに詳しいんだゾ!」ってやりたいだけじゃないかと。2年前は「あしたのハーモニー(※5)みたいなのできない?」、1年前は「ユニクロック(※6)みたいなのできない?」ってみんな言ってました。話題になっているものに取りあえず乗っかれと。今なら「ツイッターとかミクシィアプリで何かできない?」。僕自身はツイッターの何が面白いのか全く分からないんですが……。

──ツイッター、話題ですね。

 何が面白いか分からなかったので、この前ビール5リットル飲んで完全に酔っ払った状態で捨てアカ取ってツイッターに卑猥なことを書き続け、有名ツイッターユーザーに返信しまくりました。ちょっと書くだけで、海外のエロスパムツイッターユーザーがバシバシオレをフォローしてくれて面白かった。隣に酔っ払った友達が隣にいたので、そいつと一緒に延々卑猥なことを書きまくったら楽しかった。でも、一人でやろうとはまったく思いません。

──今後、企業のネット戦略として有効なものがあるとしたら何でしょう?

 例えば押尾学の事件は「押尾、やっちゃったなwwww」ってブログ上でもすぐに伝染していく。結局、ネットの興味は下世話で身近でニュース的なものに向いています。そこにヒントがある。

──……というと?

 企業自体が編集部を作って、自社の商品情報をPVを取るような面白いニュースにして各ポータルサイトに配信すればいい。ポータルサイトも企業を取り込みたいから契約するのではないかと思います。

──PVを取るニュースとは、どんなものでしょう。

 ポータルサイトはシビアにPVが取れる記事をトップに持ってきます。一定時間経ってPVが取れなかったらすぐに下ろす。酒井法子や押尾の記事がずっとヤフトピに乗り続けるネットの中で真面目に「このリッチなアロマテイストが……」なんて説明しても絶対読まれないし、ヤフトピにも上がらない。もっとどんどんバカなことをやってネットにすり寄っていけばいいと僕は思っています。例えば、サントリーの「プロテインウォーター」CMに出てくるゴリマッチョ・細マッチョの浴衣を製造元であるサントリーの女子社員が着てみました……とかね。

──今現在、企業によるネットの試みで注目しているものはありますか?

 「ブラザー社員のブログ(http://d.hatena.ne.jp/brotherblog/)」や日刊スポーツの「販売局員の築地ランチ日記(http://enjoy.nikkansports.com/blog/top-blog.html)」は面白い。「サントリートピックス(http://topics.blog.suntory.co.jp/)」は、まだ宣伝っぽさが多過ぎて面白くないけど、もっと面白くすればポータルサイトに配信するニュースができるのでは……という意味で今後に期待したいと思っています。後はやはり、クレイジーワークスの村上社長(http://v.japan.cnet.com/blog/murakami/)、最近あまり更新していないけど、はてなの近藤社長(http://d.hatena.ne.jp/jkondo/)ら、社長ブログは面白かった。なぜかというと、社長のブログは何を書いても誰にも怒られないから。下っ端がいろんな目を気にしながら書く企業ブログはやっぱりつまらないだけですね。

──ありがとうございました。
(文=小川たまか[プレスラボ])

(※1)ダスキンとモスフードサービスの共同事業。第二弾商品として今年5月に「ドーナツバーガー」を発売した。
(※2)Yahoo!のトップページで紹介されるニュース。
(※3)企業サイトの訪問者数に対する、そのサイトでサービス(商品購入や会員登録など)を受けた人の割合
(※4)クリック率とも。クリック数をインプレッション数で割った数値。
(※5)2007年6月創刊、2008年6月に終了したトヨタ自動車が発行するウェブマガジン。編集長はタモリ。
(※6)ユニクロが2007年に第1弾を発表したブログパーツ。「カンヌ国際広告祭」でグランプリを獲得するなど、世界三大広告賞を総なめにしたことでも話題に。

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最終更新:2009/08/14 18:04
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