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板野一郎監督が激白! 大ヒットSF映画『第9地区』と”板野サーカス”の意外な接点とは?

itano01.jpg『第9地区』宣伝隊長に就任した板野一郎監督。

 ワールドカップが開催される直前の4月に日本公開され、話題を呼んだSF映画『第9地区』が早くもDVD&Blu-Rayでリリースされる。

 本作は南アフリカ出身のニール・ブロムカンプ監督による、リアルなヨハネスブルグの描写が話題となったが、気合いの入ったSF描写も注目された。というのも、ブロムカンプ監督は1980年代に『伝説巨神イデオン』、『超時空要塞マクロス』などのSFアニメにて「板野サーカス」と呼ばれるスピーディーかつ大胆な演出で一世を風靡した板野一郎監督の大ファンであり、作中にその演出をオマージュしたシーンが存在するためだ。

 というわけで、その熱い想いを受け取った板野一郎監督自らが『第9地区』宣伝隊長として出撃! 本作の魅力を大いに語った。

──まずは『第9地区』の感想をお願いします。

「一本の映画として、上っ面だけじゃない一級品という印象です。そして中身がある映画だと思ったのでぜひ協力したいと思いました。今年見た映画の中で好きな作品が2本あるんですが、それが『トイストーリー3』と、この『第9地区』なんです」

──具体的にどういう部分に惹かれましたか?

「まずは、報道カメラを通したドキュメント風な演出から導入して、マスコミの一定の方向に世論を誘導するいやらしい見せ方を描いたところですね。そして自分より劣ると思ったものを下に見るという主人公の嫌な部分を描いているところです。例えば第9地区に行って、エビ(作中における宇宙人の呼称)にワイロを渡して立ち退きのサインを取ろうとするところですよね。いかにも国連軍みたいな白い装甲車で現れて、結局人間の近くに宇宙人がいると邪魔で迷惑だから、もっとひどい所に移動させちゃおうというのを主人公は知っていて、それに加担している」

──確かにそういう場面を、淡々としたカメラワークで捉えているのが非常に印象的でした。

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「でも主人公がウィルスに感染して、人間とエビのハイブリッドになっていって、だんだん彼らの気持ちも分かっていくようになる。そこで映画は報道のドキュメンタリっぽい見せ方から、だんだん主人公目線に変わっていく。そして、最終的にエンタテインメントに仕上げていくっていう流れが秀逸ですよね。でも、そういった荒唐無稽な設定の中で、弱くて駄目な主人公がだんだんと立ち直っていって、きれいな人間に洗われていくというのが、きちんと描かれています。その辺を、報道っぽい演出をうまく使って、デフォルメされた宇宙人や円盤を生活になじませながら、最後まできれいにエンタテイメントとして見せてくれた作品だなと思いますね」

──その生々しい描写も監督が南アフリカ出身というのもあるんでしょうね。

「そうですね。露骨な人種差別問題を映画でやっても企画は通らないし、お客さんもお金を出してくれない。そこで、その辺を宇宙人という形にデフォルメして、宇宙人だろうが地球人だろうが、白人だろうが黒人だろうが変わらないというところにちゃんと落としこんでいると思いました」

──ちなみに、板野監督が一番印象に残ったシーンはどこですか?

「やっぱりラストカットですね。全部を見たから、あのシーンが希望だと感じたんですよ。最初、エビになる前は地球人でなくなってしまうのが嫌で、エビなんか大嫌いだと思っていた。でも、信じていた友達からも見捨てられた一方で、エビは自分の身を呈して守ってくれた。それを見て、エビ達の方が「人」として信頼できる。エビを同じ「人」として認めた。でもやっぱり自分は人間だから、いつか元の姿に戻ることを諦めない、というラストが僕は好きですね」

──決して相手を、エビを否定するわけではなく、認めたうえで、自分は地球人だという矜持を守っているという姿は美しいですよね。

「宗教も肌の色も、国も全然違って言葉も通じないかもしれないけど、人としてエビを認めたってことですよね」

──本当のグローバリズムって、そういうことかもしれないですよね。例えば白人、黒人、黄色人種みんなそれぞれ認めながらも、でもやっぱり自分の肌の色にプライドを持って互いを尊重し合う。

itano06.jpg©2010 District 9 Ltd. All Rights Reserved.

「だから映画本編の後、マンデラ大統領が提唱した「レインボーカントリー」に第10地区がなっていってくれるといいなって思いますね。この映画を見る限り、ただ白人社会が黒人社会になったというだけじゃなくて、南アフリカが本当の意味で変わっていくことを監督は願っているんじゃないかな」

──そういえば、主人公がだんだんと人間じゃなくなっていくという部分は、板野監督の作品である『ブラスレイター』と非常に近い要素ですよね。

「そうですね。僕が悪魔、ニール監督が宇宙人、というデフォルメをして、人間の汚さ、美しさを描こうとしている志は似ていると思います」

──ちなみにニール・ブロムカンプ監督は板野サーカスのファンということで、いわゆる”納豆ミサイル”が発射されるシーンが作中にあります。自分がかつて生み出した演出が、こういう形で使われているのを見て、どう思いましたか?

「光栄ですね。自分たちは作品を通じて、社会的に見てほしいことや聞いてほしいことをオブラートに包んで訴えかけていたので、それを分かった人が板野サーカスに感化されて作品を作ってくれるのはうれしいです。いつも言っているんですが、板野サーカスっていうのは撒き餌なんですよ。派手な撒き餌。僕の作品は割と後味悪いんですけど、かっこいい撒き餌の戦闘シーンをエサにして、最後まで見てもらう、みたいな感じで自分の場合は見る人をすごく選ぶんですけど、『第9地区』の場合は誰でも感動できるエンタテイメントに仕上がっているので、これは世界に評価される作品だと思いました」

──なるほど。それでは、今回『第9地区』を知って興味をもったという人たちに向けて、メッセージをお願いします。

「板野サーカスが好きな人はぜひ見てください。もし好きでなくても(笑)、映画として僕も今年のベストに挙げられるくらい完成度の高い映画です。特に映画監督になりたい人にはおすすめです。カメラワークや技術だけでなく、いろんな勉強ができる。将来、こういう業界に入りたい人は、いいお手本になりますよ。『アバター』とは違いますから」

──『アバター』って言っちゃって大丈夫ですか(笑)。

「分かんないですけど(笑)。『アバター』は絵がきれいだけど、あっちはアトラクションみたいな感じです。3Dで見て、「楽しかった!」って感じですね。一方で『第9地区』は、技術とかCGのなじませ方がうまいとかだけじゃなくて、一本ちゃんと芯の通った完成度の高い作品だと思います」
(取材・文=有田シュン[株式会社n3o]/撮影=毛利智晴)

●『第9地区』”新エイリアン”デザインコンテスト 最優秀賞決定!

itano04.jpg(左)『最優秀賞』(ニール・ブロムカンプ監督 選評)
東京デザイナー学院マンガ科 森 一弘さん
(右)『ワーナー賞』(ワーナー・ホーム・ビデオ 選評)
バンタン電脳ゲーム学院 ゲームグラフィッカー学部
笹生 琴さん

 『第9地区』ブルーレイ&DVDセットリリースに際し、スペシャル企画「”新エイリアン”デザインコンテスト」が開催されました。このコンテストには、バンタンデザイン研究所、バンタンゲームアカデミー、東京デザイナー学院に通う約200 名の若きクリエーターが参加。約2カ月の応募期間を経て、選抜された10 作品がハリウッドに届けられ、ニール・ブロムカンプ監督によって最優秀賞が選出されました。先日行われた授与式では、板野監督も特別ゲストとして飛び入り参加し、若きクリエーターたちの快挙を称え、プロになるためのアドバイスを伝授しました。

『第9地区 ブルーレイ&DVDセット(初回限定生産)』
8 月11 日発売
税込3,980 円
発売・販売元:ワーナー・ホーム・ビデオ 提供:ワーナー・ブラザース映画/ギャガ
©2010 TriStar Pictures, Inc. All Rights Reserved. ©2010 District 9 Ltd. All Rights Reserved.
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『ブラスレイター』
発売中
Vol.1:税込4,725 円、Vol.2 ~ Vol.12:税込5,775 円
発売元:(株)ゴンゾ 販売元:東映株式会社 東映ビデオ
©2008 GONZO・Nitroplus / Blassreiter Project
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最終更新:2010/08/11 18:00
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