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伝説の番組が続々DVD化 

テレビドキュメンタリーの旗手が自作解体!? DVD『田原総一朗の遺言』

81lLzgnqacL._AA1412_.jpg『田原総一朗の遺言~タブーに
挑んだ50年!未来への対話~』

 ジャーナリスト・田原総一朗。御年77際ながら、若手論客をタジタジにするその活躍は『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)などでもおなじみだが、彼が稀代のドキュメンタリー作家であったことは、最近の水道橋博士の発言によってようやく知られるところとなった。BS JAPANで放送され、ポニーキャニオンからDVD化された『田原総一朗の遺言』は、そんな田原のドキュメンタリー作家としての過去を知ることができる番組だ。

 もともと東京12チャンネル(現テレビ東京)のディレクターであった田原。彼は、その中で『ドキュメンタリーナウ!』や『ドキュメンタリー青春』といった番組を手がけていた。今回DVD化されたのは、学生闘争が最高潮を迎えた早稲田大学内で行われた山下洋輔のライブを追った『バリケードの中のジャズ』、ジャーナリストによる報道のあり方を追求し、ギャラクシー賞を受賞した『総括! 知る権利』、そして、歌手・藤圭子の赤裸々な姿に迫った『私は現在を歌う』など7タイトル12作品。今後も連続ピストル射殺事件の永山則夫やピンク女優作家の鈴木いづみなどを追ったタイトルが発売される予定だ。

 はたして、ドキュメンタリー作家・田原が目指したものとは何だったのだろうか。

 例えば1973年に制作された『永田洋子 その愛 その革命 その・・・』という作品。あさま山荘に立てこもった連合赤軍の主犯格として東京拘置所に拘留されていた永田洋子。田原は、彼女に接見し、獄中書簡を交わす仲となったウーマンリブ活動家・田中美津に永田の手紙を朗読させる。

ch1_11102711083700.jpgDVD『田原総一朗の遺言 ~永田洋子と連合赤軍~』
発売元:テレビ東京/販売元:ポニーキャニオン
(C)2012テレビ東京

 殺人にまで発展した内ゲバ事件に対しては否定するものの、同じ活動家として永田に対するシンパシーを理論的に説明する田中美津。しかし、田原はそれでは満足しない。「永田のどこに魅力を感じるの?」「僕はバカだからわからない」と鋭く斬り込みながら、田原は活動家特有の「理論」ではなく、田中自身の言葉で永田を語らせようとする。そして、番組の終わりには「時間だから」と田中のコメントを強制的に終了。田中は一瞬憤慨した表情を見せ、抗議するものの、結局「何か田原さんに乗せられたような気がする」と笑顔を見せてしまう。

 田原自身「(連合赤軍が)なんでこうなったかがわからない。だから徹底的に追求したかった」と振り返る連合赤軍事件。当時、大手メディアでは彼らを「非人」として扱う風潮が強くあり、田原のような視点から連合赤軍を切り取ることはタブーとみなされていた。田原の活躍は現在よりもはるかに自由に番組制作をできた当時のテレビ界をしても異端だったそうで「他局ディレクターからも『よくやった』と言われた」と、往時を語る。

「僕が東京12チャンネルに入ったころは、テレビがとてもいいかげんな時代だったの。ステータスも全然なかった。特に東京12チャンネルはできたばかりの『テレビ番外地』みたいな、インディーズ的な会社だった。誰にも相手にされないから、今のニコニコ動画みたいにいろんな番組が自由に作れたんですよ」(日刊サイゾー『田原総一朗が「震災報道」に見た既存メディアの問題点と可能性とは』)

 DVD化の予定はないものの、フリーセックスを掲げる若者コミューンの結婚式の様子を追った作品『日本の花嫁』では、花嫁と自身のセックスまでもカメラに収めている。「日本初のAV男優」(水道橋博士)と評価されるこの活躍、しかし、田原にとってはあくまで取材の一環だった。

「こっちは取材をしたいんですよ。そのためにはなんでもやりますよ。あのね、取材ってのは最終的にどこか命を張るという部分がないとダメですよ。だから向こうもこっちを信用する。そういうもんです」(同前)

 だから、どんなに辛辣な追求や仕掛けを駆使しても、田中美津は「田原さんに乗せられた」と笑ってしまう。理念や思想ではない。人間の本当の姿を見せ、奥深くの声を聞くために、田原はドキュメンタリーを制作した。それは、ジャーナリストとしてペンを取る今でも変わることはないだろう。

 『朝生』の議論の方法や、田原の司会術には疑問を呈する向きも多い。しかし、彼は政治コメンテーターではなく、ドキュメンタリストであるということを理解すれば、番組の見方もまた違ったものになるだろう。政治的な高説や、空疎な社会理論ではなく、田原が聞きたいのは人間としての言葉だ。その声を聞くことができるまで、田原はしつこく、粘り強く、そして方法を選ばずに相手を追求していく。その姿勢は、ジャーナリズム不在といわれる日本のマスコミに最も必要とされる姿なのではないか。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])

田原総一朗の遺言 ~タブーに挑んだ50年!未来への対話~
ジャーナリスト生活50年を迎えた田原総一朗氏が1970年代、東京12チャンネル(現・テレビ東京)のディレクターであった時代に手掛け、今もテレビ東京にひっそりと保管されている約60本のドキュメンタリー番組の中から選ばれた珠玉の作品を、田原総一朗、水道橋博士と、時代の証言者であるゲストと共に振り返りながら討論をする。
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最終更新:2013/09/09 14:56
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