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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.217

金髪美女への偏愛が傑作サイコホラーを生んだ!? 映画界最強のバディムービー『ヒッチコック』

Hitchcock3.jpg初代“絶叫クイーン”ジャネット・リー役にスカーレット・ヨハンソン、
巨匠監督のパワハラに悩むヴェラ・マイルズ役にジェシカ・ビール。似てる?

 かくして1か月で撮り終わった『サイコ』はかつてない恐怖映画になるはずだった。ところが、関係者を集めて試写を開いたところ、想像していたものとはまるで違うものとなっていた。「とんでもない凡作だ」とアルフレッドは愕然とし、劇場公開は諦めてテレビ映画として放映することを考えたほどだった。こんなときこそ、名編集技師であるアルマの出番である。アルマは客観的な視点から生きたショット、死んだショットを見事に選別し、映倫が文句を付けてくるだろう問題カットを除きつつ、テンポよく巧みにフィルムを繋ぎ合わせていく。夫が反対するのを説き伏せて、シャワーシーンにバイオリンの効果音を加える。ダイヤモンドの原石がカッティングされて輝きを放ち始めるように、『サイコ』はまさしく最高の恐怖映画として完成した。今さらながらアルフレッドは妻アルマに頭が上がらない。

 『サイコ』が空前の大ヒットとなったアルフレッドは、次回作として動物パニック映画『鳥』(63)の準備に取り掛かる。『鳥』のヒロインに抜擢されたのはCMモデルだった新人ティッピ・ヘドレン。ブロンド好きなアルフレッドは続いて『マーニー』(64)にもティッピを起用して、尋常ならざる愛情を注ぐことになる。ヴェラ・マイルズから袖にされたのに、このオッサンはちっとも懲りてない。“サスペンス映画の神様”として崇められるアルフレッドだが、カメラが回っていないとどうしようもなく性格の歪んだ醜悪な神様だった。

 『サイコ』は母親への思慕と若い女性への嫌悪感から心が2つに引き裂かれた殺人鬼の哀しい物語だが、アルフレッドはアルマと心をひとつにすることで“ヒッチコック”という映画史に名前を刻む偉大なるアイコンとなりえた。アルフレッドは最大の理解者アルマと出会えた、映画史上もっとも幸運な男だった。ガヴァシ監督のデビュー作『ヒッチコック』は、映画界最強のバディムービーと称するべきだろう。
(文=長野辰次)

Hitchcock4.jpg
『ヒッチコック』
原作/スティーヴン・レベロ 脚本/ジョン・J・マクロクリン 監督/サーシャ・ガヴァシ 出演/アンソニー・ホプキンス、ヘレン・ミレン、スカーレット・ヨハンソン、ジェシカ・ビール、ダニー・ヒューストン、ジェームズ・ダーシー、トニ・コレット 
配給/20世紀フォックス映画 4月5日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー (c)2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved 
<http://www.foxmovies.jp/hitchcock>

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