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『80年代テレビバラエティ黄金伝説』が教えてくれる、“破綻”がテレビにもたらす福音

80sbook.jpg『80年代テレビバラエティ黄金伝説』(洋泉社MOOK)

 「コンビニの店員がアイスケースに入った」「宅配ピザのアルバイトがピザ生地を顔に貼りつけた」「大学生が某アミューズメントパークのアトラクションで迷惑行為」……昨今、急増しているこれら“SNSでの悪ふざけ自慢”。実際に店舗が休業に追い込まれたり、本人も学校を退学になるなど、単なるいたずらでは済まされない事態に発展することも多い。

 これらの行為に対して、「最近の若者たちは幼稚すぎる」「ネットリテラシーを知らない」など一元的に断罪することは簡単だ。ただ1976年生まれの筆者にとって、連日メディアを賑わすこれらの自己中心的で稚拙でくだらないイタズラを、他人事のように笑えない。私たちは若者がアイスケースに入るより数倍過激で数倍くだらなくて数倍危険なことを、かつてテレビの向こうに見ていたからである。

 『80年代テレビバラエティ黄金伝説』(洋泉社MOOK)のキャッチにはこうある。「早朝バズーカ!マムシ風呂!ポロリ!なんでもアリ!!過激でハチャメチャだったけど、刺激的な番組をもう一度観たい!!」。若者たちを熱くさせた80年代テレビバラエティ。新しいものが生まれては消えていったあの激動の時代を、タレント、番組、スタッフ、テクノロジーなどの視点から多角的に分析したのが『80年テレビバラエティ黄金伝説』である。『オレたちひょうきん族』のような大メジャー番組から、『ハロー・ジャガー』(千葉テレビ)に代表されるローカル魂溢れる局地的番組まで、等しい愛情と尊敬を持って言及している80年代バラエティ愛、いやテレビ愛に満ちたMOOKである。

 80年代、すべてがキラキラして浮かれていてバカっぽかったあの時代。テレビで見る大人たちはみな襟を立て、セーターを肩からぶら下げて、よく分からない業界用語を口にしていた。その軽薄さこそがオシャレで、土曜8時に『ドリフ』の6チャンネルから『ひょうきん族』の8チャンネルに推し変することは大人の階段を上ることを意味していた。一方で『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』のような泥臭いバラエティも全盛。もっと身近で視聴者を煽りながら、本当とウソの間にあるゾクゾクするような面白さを素人のローカルヒーロー化という形で示したり。ウソだと思っていた大仏魂が近所の団地にやって来て、それを兵藤ゆき姐がリポートしているのを生で目撃した時、一小学生だった私はテレビという化け物に玉砕したのだ。

 さて、本書でもかなりのページ数を割いて解説されている「フジテレビバラエティ」、そして「ビートたけし」。当時どうしても下に見られがちだった“お笑い”をテレビのメインに押し上げたのは、間違いなくこの2つのムーブメントだ。『THE MANZAI』『オレたちひょうきん族』『笑っていいとも!』などの番組を演出していた佐藤義和氏も本書のインタビューで「そのころお笑いって蔑視されている空気があったから『お笑い番組が世に出るにはどうしたらいいか?』ということを考えて、僕なりに実験をしていました」と語っている。思えば、佐藤氏自身が一般人から「サトちゃん」と呼ばれたり、独特の口調「○○だかだ~」が流行したり、フジバラエティにおけるスタッフのタレント化の先陣を切っていた。この内輪ノリを含め、ちょっと視聴者を突き放すような「この面白さ、分かる?」という挑戦的な姿勢が、『冗談画報』『夢で逢えたら』へと続き、80年代フジバラエティの黄金期を築いたのだろう。

 そして「これを今やるのは無理だよね……」という枕詞で説明される80年代過激バラエティの先頭にいたのが、ビートたけし。たけしの実験性とテリー伊藤の狂気がうなりを上げた『元気が出るテレビ』、リアクションを芸として認知させた『お笑いウルトラクイズ』……本書で振り返ると、あらためてたけしの“今まで見たことないもの”への尋常ならざるこだわりを痛感させられる。そして視聴者もそれを期待し、受け入れていたことも。その辺りを片岡鶴太郎はインタビューでこう述懐する。

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