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言論・表現の自由を守るために──法学者・清水英夫が最後に助けたのは「AV業界」だった

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 6月に死去した法学者・清水英夫氏を偲ぶお別れ会が、9月21日、千代田区の東京會舘で開催され、700余名あまりが参加した。

 清水英夫氏は、2003年に設立された放送倫理・番組向上機構(BPO)初代理事長のほか、日本出版学会会長、出版倫理協議会議長などを歴任。常に言論と表現の自由を擁護する立場からの発言と活動を行ってきた人物である。

 法学者でありながら象牙の塔に閉じこもって研究をするのではなく、常に言論と表現の自由、そしてマスコミの自由と責任に対する活動を続けてきた、清水氏に対しては、その活動を表する人々もいれば、これを批判的に受け止める人々も居る。批判的な立場からは「肩書きマニア」と揶揄されることもあった。また、清水氏が出版倫理協議会議長の職にあった96年に導入された成人向け出版物への自主規制マークの導入は、表現の自由への権力の介入を防ぐ有効な手段になりえず、一部の出版社の首を絞める結果となった、と批判する人もいる。

 しかしながら、そうした批判があったとしても、清水氏が常に言論・表現を行う人々の側に立ち、これまでその自由を守ろうとしてきたという事実は、変わらない。

 その清水氏の晩年の大きな業績のひとつが、08年の日本映像倫理審査機構(現・映像倫理機構)最高顧問に就任したことだ。この組織は、日本ビデオ倫理協会(ビデ倫)が07年に警視庁による前代未聞の強制捜査を経て、新たに設立されたビデオ映像の法的、倫理的な審査を行う団体である。

 この組織に清水氏が招かれた経緯を、日本映像倫理審査機構の事務局長を務めた酒井政雄氏は、次のように語る。

「ビデ倫の事件があり、これからどうしようかという時に有識者会議の座長にお招きしました。その時、清水先生から“第三者を入れた組織に変えなさい”とアドバイスを受けたのです。半分以上は業界関係者ではない、第三者を加えた組織です。そこに参加して頂ける識者も清水先生から、実際にご紹介して頂きました……いわば、今の映像倫理機構の枠組みは清水先生に作っていただいたんですね」

 新たな組織を立ち上げるにあたり、不安な部分もあった。そこで、枠組みを作ってもらった清水氏に、ぜひ顧問を務めてもらいたいと酒井氏はお願いした。しかし、この時すでに86歳を迎えていた清水氏は、なかなか首を縦に振らなかった。

「鷺沼のご自宅まで、4回は足を運びましたね。最高顧問に就任していただいてからは、ウチの事務所が半蔵門線沿いにあったので、ほかの用事で出てこられた時も、時間が空いたときには、事務所で過ごしてもらうことが多かったですね」

 ふと、疑問も感じた。日本映像倫理審査機構最高顧問に就任するまで、清水氏の勤めてきた役職は出版・放送業界の、いわば社会的な地位も名誉もあるものであった。そんな経歴がありながら、アダルト業界の業界団体の役職に就くことに躊躇はなかったのだろうか? 酒井氏は次のように語っている。

「清水先生は“表現の自由は必ず尊重されるもの”だとおっしゃり、アダルトへの偏見はまったく持っていませんでした。ですから、普通なら二の足を踏みそうな、ビデ倫が警視庁から強制捜査を受けた翌年にもかかわらず最高顧問に就いていただけたんだと思っています」

 日本映像倫理審査機構は2010年に、コンテンツ・ソフト協同組合(CSA)と合流して新組織・映像倫理機構(映像倫)となり、現在に至っている。この映像倫はアダルトビデオからコンピューターゲームまで幅広い作品の審査を行う組織となった。この映像倫もまた、第三者機関としての独立性を第一に掲げている。自主規制を業界のメーカー同士という仲間内ではなく、第三者を含めて行うべきとの清水氏のプランは、どれほど有効なのだろうか。国士舘大学法学部教授で映像倫代表理事の片山等氏は語る。

「今でも、様々な業界団体で“警察の天下りを受け入れたら取り締まられないんじゃないか”って話がよく出ますよ。……出版業界でもね。しかし、それが安全策にならないってことはビデ倫事件で明らかになってしいます。でも、清水先生がおっしゃったように、業界外の方を招いた第三者機関にすると、どうでしょうか。審査を透明化して公平にやっていることをちゃんと世間に示すことができるようになりました。これによって、警察も手を出しにくくなるし、業界内での自主規制について自ら話し合う機会を持つこともできるようになったのだと考えています」

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