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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.342

物づくりに取り憑かれた若者が流す狂気の血涙! 原作とは異なる展開が待つ実写版『バクマン。』

bakuman_movie01「週刊少年ジャンプ」を舞台にした『バクマン。』を撮影中の大根仁監督。自他共に認める漫画マニアぶりが発揮された映画だ。

 若手人気キャストを一堂にそろえ、軽快な主題歌が流れる。大ベストセラーコミックの実写映画化『バクマン。』は、一見すると明るく爽やかな青春サクセスストーリーに感じられるが、それはあくまでも表向きのパッケージにすぎない。カラフルなパッケージを破いてみると、中からは汗臭くてドロドロとした、少年が大人へと成長を遂げていく過程の通過儀礼に挑む物語が待ち構えている。ポップカルチャー花盛りな現代社会に、もはや創世記の神話ともいえる『まんが道』の世界を、大根仁監督は最新の意匠で現代に甦らせた。

 日本一の発行部数を誇る「週刊少年ジャンプ」の舞台裏を細やかに描いた同名原作コミックは、絵がうまいサイコーと文才のあるシュージンとの中学時代のコンビ結成から、高校生で漫画家デビューを果たし、後からデビューした新人漫画家たちに追われる立場になるまでを全20巻で綴った大河ドラマとなっていた。初監督作となった劇場版『モテキ』(11)をスマッシュヒットさせた大根監督は、情報量の非常に多い『バクマン。』の実写化にあたり、何よりもスピード感を重要視している。面白い漫画と出会うとページをめくる手が止まらなくなる、漫画世界に没頭してしまう、あの悦楽感を実写映画で試みている。2時間という枠に収めるため、舞台をサイコーとシュージンの高校時代に変更し、漫画家デビュー&初めての連載に挑んだ高校2年から高校卒業までの2年足らずの日々を凝縮して描いている。

 人気漫画家になるという夢に向かって突き進む青春ストーリーに疾走感を与えるため、登場キャラクターは原作からかなり絞った形となった。サイコー(佐藤健)の家族も、シュージン(神木隆之介)の実家も映画版には一度も出てこない。サイコーの叔父である亡くなった漫画家・川口たろう(宮藤官九郎)が、回想シーンに現われるのみ。家族から小言を言われることもなく、実家にご飯を食べに戻ることもなく、叔父が遺した仕事場でサイコーとシュージンは一心不乱に漫画を描き続ける。漫画家デビューを果たし、連載漫画がアニメ化された暁には、学園いちの美女で声優を目指す亜豆美保(小松菜奈)とサイコーは結婚するという約束を交わす。そんな10代の少年ならではの夢を叶えるため、サイコー&シュージンは大人への通過儀礼に挑む。

 家族が姿を見せず、実家という生活空間が描かれない。大根監督いわく“ビー・バップ・スタイル”だそうだ。ヤンキー漫画『ビー・バップ・ハイスクール』は20年間も連載が続いた大長寿コミックだったにもかかわらず、主人公トオルとヒロシの家族や家庭はいっさい描かれなかった。ヤンキー仲間たちとのおバカな日常生活がまるで楽園のように描かれていた。大根監督もあえて、サイコーやシュージンの家族や家庭を見せないことで、青春期特有のフワフワとした至福感、高揚感を映像化している。

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