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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.342

物づくりに取り憑かれた若者が流す狂気の血涙! 原作とは異なる展開が待つ実写版『バクマン。』

bakuman_movie03画面に映るかどうかビミョーな細部にまで、大根監督のこだわりが詰まっている。エンディングのクレジットロールまで目が離せない。

 フワフワとした夢の世界は終わりを告げ、これから先はサイコーの狂気が物語を押し動かしていく。病院をこっそり抜け出したサイコーは仕事場へと戻り、下書きしか済んでいない原稿の仕上げに取り掛かる。シュージンは仕事場で待っていた。よかった。相棒はちゃんと存在していた。この後は、少年ジャンプの黄金則である“努力・友情・勝利”を原作以上にクローズアップしたオリジナルのクライマックスとなる。このクライマックスシーンの後半、サイコーは一滴の涙をこぼす。この涙は決して、シュージンら仕事仲間との友情に感動して流した温かい涙ではない。プロの漫画家としての狂気と執念、アマチュアとして漫画家に憧れていた自分自身の少年期との決別を感じさせる、実に複雑な苦みのある一滴となっている。

 サイコーを演じた佐藤健が本番中にふいに涙を流したことに、大根監督は驚いたそうだ。脚本にはなく、演出でもそのような指示は出していなかった。だが、佐藤健が演じたサイコーがひと粒の涙をこぼしたことで、フィクションの世界である『バクマン。』が血肉の通った現実世界のものへと変わっていく。ほとんどのコミック原作の実写化企画は、原作の世界観から抜け出せずに原作ファンを一瞬だけ楽しませるものに終わっているのに対し、実写版『バクマン。』は主演俳優が流したひと粒の涙によって、原作世界のテイストとも、大根監督が考えていたものとも異なる作品へと変貌を遂げた。サイコーが流した狂気の涙は、とてつもなく重い。そして、その狂気や言葉にならない感情こそが、漫画や映画というフィクションの世界を突き動かしている最大の原動力なのだ。
(文=長野辰次)

bakuman_movie04

『バクマン。』
原作/大場つぐみ、小畑健 脚本・監督/大根仁 音楽/サカナクション 出演/佐藤健、神木隆之介、染谷将太、小松菜奈、桐谷健太、新井浩文、皆川猿時、宮藤官九郎、山田孝之、リリー・フランキー 
配給/東宝 10月3日(土)より全国ロードショー公開 
(c)2015映画「バクマン。」製作委員会
http://bakuman-movie.com

最終更新:2015/10/02 17:10
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