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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.342

物づくりに取り憑かれた若者が流す狂気の血涙! 原作とは異なる展開が待つ実写版『バクマン。』

bakuman_movie02モニター越しに指示を出す大根監督。映画撮影は『モテキ』『恋の渦』(13)に続いて3作目となり、落ち着いた演出だった。

 楽園感を決定づけているのは、亜豆が姿を見せる校舎の踊り場シーン。窓から初夏の陽射しが差し込み、亜豆役を演じる小松菜奈のまだ何色にも染まっていない透明感がいっそう映える。揺れ動くカメラアングルは、亜豆のことを小学生のときから想い続けてきたサイコーの心臓のバクバクぶりを伝えている。劇場版『モテキ』で主人公宅にお泊まりした長澤まさみをこのうえもなくエロチックに撮った大根監督のこだわりのカメラワークだ。『モテキ』の長澤まさみがエロスの女神だったように、『バクマン。』の小松菜奈演じる亜豆はサイコーにとっての創作の女神となる。美しい女神に見初められたことで、サイコーはそれまで口にできなかった漫画家になるという夢を現実世界に解き放つことができる。

 ミューズである亜豆との交際、そして結婚を目指して、サイコーの筆が走る。シュージン原作、サイコー作画の処女作『Wアース』は、少年ジャンプの編集者・服部(山田孝之)のアドバイスを取り入れ、新人コンクールである手塚賞に入選。パーティー会場では、同期入選した漫画家仲間たちと出会う。パーティーの夜、サイコー&シュージンの仕事場に新人漫画家たちが集まって、気炎を上げる。原作にはない、この「トキワ荘」オマージュシーンは、笑いと男のロマンが詰まった格別なものとなっている。サイコー&シュージンは夢の第一歩である「漫画家になる」というハードルはクリアすることができた。だが、2人は漫画家デビューするよりも、漫画家であり続けるほうがずっとずっと大変なことに気づかせられる。週刊連載はベテラン漫画家でも超ハードワークだ。さらに少年ジャンプには「アンケート至上主義」という厳格なシステムが待ち受けている。漫画家がどんなに苦心して描き上げても、読者からの支持がなければあっけなく連載は打ち切られる。最新のプロジェクションマッピングやCGを取り入れて、サイコー&シュージンと天才漫画家・新妻エイジ(染谷将太)とのアンケートバト
ルが華麗に描かれるが、彼らが闘っている舞台はそれこそ大勢の漫画家たちの夢の残骸が積み重なってできた墓場でもある。プロの世界に身を投じたサイコーは、肉体と精神をジリジリと蝕まれていく。

 亜豆は創作の女神、理想の女性像ゆえに、サイコーと亜豆の関係は原作以上にうまく進展しない。サイコーは心身ともに疲労困憊し、血尿を出して倒れる。それまでの夢のようにキラめいていた世界が、一転して悪夢モードへ突入する。初めての連載漫画『この世は金と知恵』は編集長の佐々木(リリー・フランキー)の命令で休載を余儀なくされる。もしかしたら、これまでの出来事はクラスで目立たない高校生のサイコーが脳内で勝手に思い描いていた妄想だったのではないのか。そんな想いさえ、観ている側は抱く。サイコーが入院しているのに家族は誰も姿を見せない。ひょっとしたら、サイコーに「漫画家になろう。博打しようぜ」と持ち掛けてきたシュージンも、「いつまでも待っているから」と約束してくれた亜豆も、サイコーが夢みた幻だったのではないだろうか。やはり夢は夢の世界で見るべきものなのか。

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