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時代劇のエンタメ化で、時代考証は犠牲にされがち!?

20080206_oooku.jpg豪華絢爛な大奥も、実は間違いだらけ!?
DVD版『大奥』/フジテレビ

※我々が持っている歴史知識は、テレビや映画から得たものも多い。しかし、そこで伝えられている歴史は、本当に正しいのだろうか? 時代劇の歴史考証が専門の山田順子氏に話を聞いた。

──「時代考証」って、具体的にはどういう形で作品作りにかかわるんですか?

山田 基本的には、台本が上がってきたときに、セリフや事実関係がおかしくないかをまずチェックします。セットや小道具など美術発注の相談を受けるのも、この段階ですね。時代劇に慣れていない俳優さんがいらっしゃるようだったら、私はリハーサルで、座り方、歩き方、お辞儀の仕方なども指導します。スタジオでは、美術が指導した通りになっているかをチェック。放送時にテロップが入る場合は、編集に立ち会うこともあります。ここまで現場に顔を出す考証家は珍しいかもしれません。私はもともとテレビ畑の人間なので、現場が好きなんです。

──そうはいっても、エンターテインメント性や制作上の都合で、歴史考証通りにいかない場合もありますよね?

山田 もちろんです。大きくいうと今の時代劇は、京都・太秦の東映京都撮影所で作る場合と、関東周辺のスタジオで作る場合の2パターンに分けられるんですよ。それでちょっとネックになっているのが、この京都・太秦の撮影所が再現しているのが文化・文政期(江戸時代後期)の江戸だということ。まだ戦国時代の風俗が残っているはずの『水戸黄門』(本来なら元禄期)も、『暴れん坊将軍』(本来なら江戸時代中期)も、すべてが文化・文政期の仕様になってしまうんです。もちろん、こだわる場合には別仕様のセットや服装を指定することもできるんですけれど、かなり手間がかかる。それに何より、視聴者がイメージしている「江戸」を描こうとすると、どうしても粋で洒落ている文化・文政期の江戸になってしまうんです。

──学説の変遷に、ドラマが影響されたケースは?

山田 昨年のNHK大河ドラマ『風林火山』で内野聖陽さんが演じていた山本勘助。実は、一時は架空の人物だと言われていたんです。それが、『天と地と』(69年放送、上杉謙信の生涯を描いた大河ドラマ)のブームの頃に、山本勘助の名前が書かれた信玄直筆の手紙が発見されて、彼の存在が証明された。それがなかったら、大河ドラマの主人公になることはなかったかもしれませんね。『風林火山』前半のドラマオリジナル部分では、最近出た学説を入れているようです。時代考証家は歴史研究家ではないので、真実を追究するというよりは、いろんな説がある中で、いちばん妥当性のあるものを選びます。

──最近の作品で「時代考証的に、これはおかしい」という例を挙げるとしたら?

山田 『風林火山』のGacktが演じた謙信は言わずもがなですが(笑)、 映画『大奥』(06年)にはツッコミどころがたくさんありましたね。ラストで生島新五郎が磔の刑になっていますが、史実では三宅島に遠島(島流しの刑)になっただけなんです。事実が不明な部分を想像で作るのはいいけど、史実として残っているものを曲げてしまうのは、フィクションといえ、ちょっとね……。月光院と天英院が大奥の廊下で鉢合わせしてにらみ合うというシチュエーションも、広い江戸城の廊下では起こるはずありません。演出家も「あり得ないよな」と言いながら作っていたという噂を聞きました(笑)。

  『武士の一分』(06年)の時代考証はとてもしっかりしていたけれど、唯一難があったのはスケール感。いくら地方の下級武士とはいえ、あのクラスだったら、もっと広い庭を持っていたはず。お殿様が城の四畳半くらいの部屋で食事をしていたのも、実際にはあり得ない。その「スケール感」に極端にこだわったのが、溝口健二監督です。『元禄忠臣蔵・前編』(41年)では、全長60メートルの松の廊下を再現し、それをノーカットで延々撮った。これが10mの廊下だったら、緊張感も何もありません。そこまでこだわれたのは、当時、映画がエンタメ産業の頂点に位置し、莫大な予算をかけられたということもあったでしょう。予算をセットに割くのか、役者に割くのかという配分も、今とは違っていたかもしれませんね。

 最近は、制作サイドよりも、タレント事務所側の力が強くなっているということもあって、時代考証の正確さよりも、役者の見栄えを重視している場合も多い。07年版の『椿三十郎』で、織田裕二の前髪が現代のシャギー風なのは、ちょっと納得がいかなかったですね(笑)。

 また最近では、エンタメ作品としての制作側の意図とのせめぎ合いもあり、時代考証家はだんだんと排除される傾向にあります。しかし、間違った歴史をそのまま日本の歴史だと思われるのは、とても残念なこと。本当に歴史ドラマを楽しんでもらうためにも、しっかりした時代考証は必要だと思います。
(「サイゾー」2月号より)

山田順子(やまだ・じゅんこ)
コピーライター、CMディレクターを経て、放送作家となる。時代劇番組やクイズ番組などに多数かかわり、江戸東京博物館のインタラクティブ映像なども担当。著書に『時代考証 おもしろ事典 TV時代劇を100倍楽しく観る方法』(実業之日本社)がある。

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最終更新:2008/02/07 09:15
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