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ドキュメンタリー監督・松江哲明の「こんなマンガで徹夜したい!」 vol.08

非モテもイケメンもごちゃごちゃ言わずに『モテキ』を読め!

moteki_matsue.jpg待望の2巻が8月21日発売予定。

童貞の絶望と希望を描いた傑作ドキュメンタリー『童貞。をプロデュース』の監督・松江哲明。ディープなマンガ読みとしても知られる彼が、愛してやまないマンガたちを大いに語る──。

 僕の十八番は大江千里の『格好悪いふられ方』。シングルは発売日に買った。深夜、布団を被ってウォークマンで熱唱していたら、寝ていた母親から「泣いてんの?」と心配されたのも懐かしい中2の夏。大江千里が好きだった理由は、徹底して失恋ソングだったから。恋に焦がれ、キスやそれ以上のごにょごにょに憧れて、女子とは二言三言交わしただけで惚れちゃって、けどフラれ、モテなんてものとは遠くて、大江千里の「♪いつかばったり出会ったら友達みたいに笑えるさ」に「そういうもんだよな」とカッコつけていたあの頃。彼は僕の心の代弁者だった。

 しかし『モテキ』(久保ミツロウ/講談社)を読んでハッと気付かされた事実。大江千里が歌っていたのは「モテない男の歌なんかじゃなくて、結局他の女と結婚できる能力のある奴の歌」だったのだ。『モテキ』の主人公・藤本幸世が雨のロックフェスで、気になる女性がかつての彼氏と肩を寄せているのを発見し、「オシャレなカップル同士でフェスに来る奴全員、絶滅しちゃえよおおお」と絶叫しながら走り逃げた時に気付いた、この大江千里論は僕の童貞時代の記憶を刺激するのに十分過ぎる台詞だった。

『モテキ』は開かれた漫画だと思う。

 オタク、二次元、リア充、草食系、肉食系、イケメン、美女、童貞、非童貞、処女、非処女……つまりは恋を一度でもしたことがある人ならば刺激せずにいられないポイントに満ちている。恋に苦しみ、異性の不可解な行動に悩み、セックスに支配されるのにモテるもモテないも関係ないのだ。極端な話、人気俳優の彼だって、グラビアアイドルだって下半身に支配されざるを得ないという意味においては、僕らと大差ないと思うのだ。違うと思うのなら『モテキ』を読んでもらったらいいと思う。きっと僕らと同じ箇所で笑い、悶絶し、共感するだろうから。もし本作を読んで「ふーん」の一言で済ませられる人がいたら、本当に苦労のないモテる人なんだと思う。しかし、そんな人生ちっとも楽しいとは思わないけど。

 とにかく「自分はこっち側、彼はあっち側」と区別している内は、その状況のままでしかないし、他者と関わらない限りは自分がどっちかなんてわからないだろうし、いつまでも「どうせヲタですから」なんて自己申告してたって仕方ないのだ。

 幸世にはモテ期が都市伝説的に訪れたが、彼が本当のドラマと向き合っているのは、女性と関わった「その後」なのだ。モテの後に振り返り、自分と彼女たちとの距離感を考える彼は着地を求めている。僕はまだ1巻までしか読んでいないのだが、必ずや彼が成長し、モテ期と決着を付けることは間違いない。幸世の最後の一歩を踏み出せないヘタレっぷりにイライラさせながらも、どこかでホッとさせられるのは、本作にチラリと見え隠れする自己批判と自己肯定のバランスが絶妙だからだと思う。主人公と描き手の距離感に単にモテをキーワードだけにしていない、鋭い視点がコマの間に見え隠れする。それは脱童貞を目指しながらも、過去の失敗に縛られて、人と深く関わることを怖れている幸世に対し「そんなんじゃダメだろう。けど仕方ないよね」というセックスを経験し、人と関わり、傷つき、それでも人と関わりたいという欲望を隠せない僕らと同じ視点に描き手も立っているからだと思う。

 最後に『モテキ』を一度でも読んだことがある人と話すと必ず話題になるのは「で、誰派?」というネタ。土井亜紀(ツンデレ)、中柴いつか(サブカル同志)、小宮山夏樹(悪女)、林田尚子(元ヤン)といった登場する女性キャラによって己の趣味を語り合うのだ。それによって自然と過去の女性との関係を思い浮かべることになり、センチメンタルな気分になるというオチにしかならないのだが、それも本作が持つ痛みの強さ故、だと思う。だから僕にはまったく縁のないホストクラブな人たちにも聞いてみたい。「僕は土井亜紀派なんですけど、こういうタイプの女性ってどうですか?」と。きっとその時『モテキ』は、派閥や属性を超えたコミュニケーションを生むに違いない。
(文=松江哲明)

松江哲明(まつえ・てつあき)
1977年、東京都立川市出身。99年、在日コリアンである自身の家族の肖像を綴ったドキュメンタリー『あんにょんキムチ』を発表。同作は国内外の映画祭に参加し、山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波特別賞、平成12年度文化庁優秀映画賞などを受賞。また、07年に公開した『童貞。をプロデュース』が大きな話題を呼ぶ。新作『あんにょん由美香』が7月11日よりポレポレ東中野でレイトショーにて公開中。『ライブテープ』が近日公開予定。ブログ<http://d.hatena.ne.jp/matsue/>

モテキ 1

小宮山夏樹だな

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●連載ドキュメンタリー監督・松江哲明の「こんなマンガで徹夜したい!」
【Vol.07】『湯けむりスナイパー』の変わらない繰り返しこそが人生の豊かさだ!
【Vol.06】『バクマン。』が示す「友情・努力・勝利」の変化とは?
【Vol.05】『AV烈伝』がエグる、AVに生きる人たちのセキララな姿
【Vol.04】AV女優さんが読んで感じてほしいセクシー漫画『ユビキタス大和』
【Vol.03】山本直樹が描く、セックスの「気持ち良さ」と「淋しさ」
【Vol.02】覚えてますか? 教室の隅で漫画を描いていた「大橋裕之くん」のことを
【Vol.01】この世でもっとも”熱い”マンガ、『宮本から君へ』を君は読んだか?

最終更新:2009/08/19 11:00

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