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宇野常寛インタビュー

「批評のジェノサイズ」著者が語る、サブカルチャーの悪習と御用ライターの罪と罰(中編)

uno1127.jpg『批評のジェノサイズ』
(著:宇野常寛、更科修一郎/サイゾー刊)

前編はこちらから

──それでは、今年のサブカルチャーの各ジャンルからベスト作品、気になった作品、ワースト作品などを挙げていただければと思います。

宇野常寛(以下、宇野) 映画からいきましょうか。去年の代表作が『ダークナイト』、『ノーカントリー』だとするなら、今年の映画でその2作に相当するのは『レスラー』と『グラン・トリノ』になると思うのですが、僕は圧倒的に去年の2作を推します。今年の2作はもちろん完成度は高いし、良い映画であることは間違いありません。ただ、明らかにどちらもおじさんの自己憐憫映画になっているという点で甘くなっています。国内ではイデオロギー的に共感するという理由で、すごく党派的、盲目的に褒められているように感じますね。

 同じイーストウッドものだったら『チェンジリング』のほうが完成度は高いわけですし。『ダークナイト』『ノーカントリー』的行き詰まりと『グラン・トリノ』『レスラー』的自己憐憫だったら、僕は間違いなく前者を取る。特に新解釈されたジョーカーのキャラクターが象徴する『ダークナイト』のそれは、こうした自己憐憫みたいなものを切断しているところがカッコ良かったわけですからね。

 今年の映画で一番面白かったのは『母なる証明』です。『批評のジェノサイズ』でも扱っている”母性のディストピア問題”、つまり「セカイ系」というものがリベラルな優しい思想などではなく、母的な異性にすべてコミットメントのコスト、あるいは責任を負わせる転嫁システムであるということを完璧に描いていて、そのことが映画に圧倒的な緊張感を与えている。

 つまり、『レスラー』や『グラン・トリノ』のようなマッチョイズムの軟着陸を可能にしているのが、『母なる証明』で描かれている母的な承認なんです。あのナルシズムがどうやって成立しているかということを表現として描き切っていて、演出もストーリーも完璧。やっぱりポン・ジュノはすごいな、と。これが今年のベストですね。

 邦画では『愛のむき出し』。これは極めて90年代的というか、新興宗教とストリートカルチャーの話で、「なんだか、(社会学者の)宮台真司さんがガンガン来てた頃の話だなぁ」と思って観ていたら、宮台さんが新興宗教の幹部役で説法していたので本当にビックリしました(笑)。この作品は遅れてきた90年代の総括としてはかなり究極のところまで行っています。セカイ系とか言うのなら、このレベルまでやってから言ってくれと思いますね。

 ワーストを挙げると、まあ『アマルフィ』はダメでしたよね(笑)。もうちょっと作りようがあるだろうと。その他、残念だったのは『MW』ですね。手塚治虫の名作を原作に使って、監督はテレビ界では演出の実力があるとされていた岩本仁志を起用したのに、出来上がってみたらただのでかいテレビドラマ、いやそれ以下になってしまったというのは、かなりまずい。これで完成度の高いものが出来上がっていたら、テレビ局製作の映画でもやるじゃん、という雰囲気ができたのかもしれないのに、結果的にテレビ局製作の映画はやっぱりダメだ、ということをむしろ印象付けてしまった。そういう意味では業界的にも残念な映画でしたね。

──続いて、今年1年のマンガはいかがでしたか?

宇野 マンガは1年単位だと語りづらいものがあるので、連載中のものに限って挙げます。まず、よしながふみの『大奥』(白泉社)。これはもはや横綱相撲といった感がありますね。現代の日本って政治的なダイナミズムはないし、階級格差も少ない、移民と触れる機会もなくて民族格差を感じることもほとんどない、当然戦争もしていない。そんな中で残された本質的な問題は、”コミュニケーション”か”ジェンダー”ぐらいしかないんですよ。それを真正面に据えて、しかもあそこまで面白く読ませながら独自の深い世界観を出せるのは、よしながふみを置いて他にいないと思います。

 その他には、いくえみ綾の『潔く柔く』(集英社)が、完結に向けて動いていて面白くなってきています。セカイ系対バトルロワイヤル系という話に近くなっていて、「もし、すべての人間がセカイ系だったら関係は網状化=バトルロワイヤル化するだろう」ということを描いているんですね。つまり、ケータイ小説的なエピソードが日本のあちこちに起こっていて、それが複雑に絡み合っているという話なんです。そこでは、自分だけの「オンリーユーフォーエバー」的なものは、自動的に相対化されてしまうわけですよね。そのダイナミズムが面白い。恐らく、いくえみ綾はそれを描こうと意識していたわけではなく、結果としてこうなっているだけだとは思うんですが、非常に大河ドラマ的な展開もあり、ゼロ年代的群像劇のある種の完成形であると感じます。

 あとは金田一蓮十郎の『ニコイチ』(スクエアエニックス)ですね。死んだ恋人の息子を引き取ったサラリーマンが、女装をして母親を演じながら子育てをするというコメディ作品です。今の日本では終身雇用制が崩壊し、夫婦共働きが当たり前になって、戦後的な核家族はもう通用しなくなっています。かといって『サマーウォーズ』のような大家族には絶対に戻ることはできない。そこで、新しい家族のビジョンとして変形した核家族像が求められているわけですが、この作品はまさにそれを描いているわけです。そういった意味で『ニコイチ』は現代日本の想像力の最先端を行っている作品ですね。

 続いてワーストですが、ダメなマンガは無数にあるので、過剰評価されているという点で青野春秋の『俺はまだ本気出してないだけ』(小学館)を挙げておきます。いまだに「才能のない自分をいかに愛するか」という自意識の話しかしないくだらないやつらはいっぱいいるんですが、その最新バージョンがこの作品。もういいんじゃないですか、こういうのは。太田出版的メンタリティっていうかね。

──それでは、次にアニメについてお願いします。

宇野 まず、『エヴァンゲリヲン新劇場版:破』に関しては、『エヴァ序』に比べると格段に良くできていて僕も感心しながら観ました。ただ、内容的には最近のガイナックス作品のみならず、2000年代のいろんなサブカルチャーの後追い的な想像力だという印象があって。例えば、「食べる」というモチーフで90年代的な厭世観を克服しようという表現は、割とゼロ年代前半ではメジャーな手法で、完全によしながふみや木皿泉、『仮面ライダーアギト』の世界です。それに新キャラも西尾維新くさいし。もちろん、製作側は意識していたとは限りませんが、結果的にはそうなってしまっている。つまり、おとなしく良くまとまっている作品なんですが、新しさはまったくない。逆に昔のエヴァは、まったくまとまっていなかったけれど新しかったわけですよ、当時としては。まあ、それでもリメイク作としてはそれが正解なので、そういった意味に限れば、僕は肯定派です。

『サマーウォーズ』も良くできていますが、『時をかける少女』のような大きなインパクトはありませんでした。早くも自己模倣がはじまっていますし、内容的にもややヌルい。グローバルな権力対家族という構図はいいんですが、その家族はあんなアナクロなものではないだろうと。僕の考えでは、先ほどの『ニコイチ』のほうが『サマーウォーズ』より新しい。

 テレビアニメで話題になったのは『東のエデン』(フジテレビ系)、『けいおん!』(TBS系)、『化物語』(MXテレビほか)、『戦国BASARA』(TBS命)あたりですか。どれも良くできていたと思いますが、ただ、そこそこという印象も確かにありますね。

『崖の上のポニョ』、『スカイ・クロラ』、『コードギアス 反逆のルルーシュ』、『らきすた』があった去年と比べると、今年のアニメは全体的に小粒だった感がありますね。これらの去年の作品を今年の作品に対比させると、それぞれ『エヴァ破』、『サマーウォーズ』、『東のエデン』、『けいおん!』になるんでしょうが。
後編に続く/構成=橋富政彦)

批評のジェノサイズ

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最終更新:2009/11/30 11:36

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