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アジア・ポップカルチャーNOW!【vol.3】

「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる”タイ初の日本漫画家”タムくん

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 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』……子どもの頃、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火を付けていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。

第3回
漫画家・ウィスット・ポンニミット(タムくん)

 作品集の出版や雑誌の連載、ライブイベントなど、そのマルチな活動が日本でも注目され、多くのクリエイターたちにも愛されているウィスット・ポンニミットこと、タムくん。彼は、タイで初めての漫画家だ。それも、誤解を恐れずに言えば「日本漫画」の系譜に載っている。日本で生まれた、極めて特殊な「文法」や「作法」を持つジャパニーズコミック。生まれも育ちもタイでありながら、これらを自然に作品に内包させるタムくんは、「タイ初の日本漫画家」でもある。

dora.jpgドラえもん (1) 』小学館

 そのタムくんも、子どもの頃に日本の漫画を見たときには、わけが分からなかったという。右から左へ逆行して進む(諸外国では左から右に読むのが普通)ストーリー、登場人物がコマからはみ出たり、あげく、突然目玉に炎がメラメラ……。「今、だいたい45歳から上ぐらいのタイ人は、日本の漫画は読めない(技術を持っていない)と思う」。彼が初めて出会った”理解できる”漫画が、『ドラえもん』だった。「このコマは”食べる前”、次のコマが”食べた後”。絵で分かるから、こういう順番で読めばいいんだと理解できたんだ」。それから、『キャプテン翼』『シティーハンター』など、大好きな作品を繰り返し読むうち、めきめきとマンガ・フォース(?)を上げていく。小学生のころ、『キン肉マン』を真似して描いた。男子仲間を喜ばそうと、あり得ない筋肉を描いたり、ちょっぴり下ネタを入れたり。そして、高校生になると、自分の経験に基づいたオリジナルのストーリーを作るようになる。


tam01s.jpg tam01s.jpg tam01s.jpg※クリックすると拡大されます。 「マムアン」(コロムビアミュージックエンタテインメント/デイリーコミック)より

 「漫画は”楽”。自分が表現したいことが一番うまくできる。でも、タイでは”漫画家になる”なんて言ったら、馬鹿にされるから。じゃあ、インテリアデザイナーにしようかなと(笑)。漫画は趣味」。大学では、インテリアデザインを専攻。ミュージシャンとしての顔も持つタムくんは、友達のバンドに助っ人として参加したりもしていたが、それでも自分の気持ちが「本当だな」と思えるのは、漫画だった。卒業前に遊び半分で発表した作品が評判になり、図らずも、漫画を職業にすることとなる。

 タイの若い世代の中でも、タムくんに憧れるフォロワーは引きも切らない。「漫画家になりたい、という人は増えた。でも、タイには、漫画家になるためのシステムもないし、それにタイ人って”チームを組む”ってことがとても苦手なんです。アシスタントの都合に合わせて気を使うより、自分でやっちゃった方が早いしね」。売れっ子漫画家(=タムくん)に弟子入りして漫画を学ぶ「タムくん2世」が現れるのは、もう少し先のことのようだ。「それと、僕は日本という、自分の作品にとってすごく”いいシステム”でやれてしまっているから、ちょっとずるいのかも、って思う」

※クリックすると拡大されます。「ラブエレベーター』(『ロマンス』太田出版より)
※クリックすると拡大されます。「ロマンス』(『ロマンス』太田出版より)
※クリックすると拡大されます。「ゴルフ』(『ロマンス』太田出版より)

 そう、漫画を発表するだけでなく、今回の来日でも、谷川俊太郎との詩のイベントでピアノ演奏をしたり、細野晴臣とライブ共演したり、インタビューを山ほど受けたり……日本では忙しく動き回っているが、とても楽しそう。だけど「日本だけ、は嫌。日本には”余裕”がないよ。タイでは、物事が進むのはチョー遅い!」と、タムくん。「漫画のシステムも、きっとタイにもできるでしょう。その前に、僕が死んじゃうかもだけど(笑)」。だけど、彼にとってなくてはならない母国・タイ。「だからタイでのんびりして、また日本にくるのがいいんだ」

 最新作『ロマンス』(太田出版)も、日本とタイを往復する中で生まれた。「ラブストーリー」をテーマにしたこの短編集に集められたのは、舞台がタイでも、日本でも、全くどこか別の国や惑星で繰り広げられても全く違和感のない、極めて普遍的な「愛」の物語。丸っこく可愛らしい絵と、シンプルな日本語の台詞は、子どものころ読んだ童話の世界にどこか似ている。そこに隠された真実に気づいたときの驚きも、懐かしさを伴う新鮮さにあふれている。読み進むほどに、タムくんの宇宙的規模の愛の世界に、ヒリヒリしたり、心地よく満たされたり。クセになってしまうほどの、幸せな「漫画体験」なのだ。
(取材・文=中西多香[ASHU])

ウィスット・ポンニミット
1976年生まれ。バンコク、シラパコーン大学デコラティブ・アート学部卒。98年漫画家デビュー。04年~06年まで日本に留学。『ヒーシーイットアクア』(ナナロク社)で平成21年度(第13回)文化庁メディア芸術祭のマンガ部門で奨励賞を受賞。著書に『タムくんとイープン』(新潮社)『帽子の下の煙』(マガジン・ファイブ)『ロマンス』(太田出版)などがある。「IKKI」(小学館)「Cut」(ロッキング・オン)「オーディオテクニカweb」などで連載中。現在は日本とタイを行き来している。
http://soimusic.com/wisut/mainpage.htm>

なかにし・たか
アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com >

ロマンス タムくんのラブストーリー短編集

ほんわか。

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最終更新:2012/04/08 23:20
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