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「東京国際アニメフェア2010」レポート

【TAF2010】『ホッタラケの島』を題材に国産フル3DCGアニメの制作過程を公開!!

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◆フル3DCGを主題としたシンポジウム

 過日、東京ビッグサイトにて開催され、好評を博した東京国際アニメフェア(TAF)2010。各メーカーの意欲的な取り組みが功を奏したか、過去最多の132,492人が来場。最新映像やスタッフ、キャストが出演するイベントを思いおもいに楽しんでいたが、その陰で、東ホールのブースから離れた会議棟では、ひっそりと16のシンポジウムが開かれていた。そのなかでも、特にアニメファンの興味を引くだろうと思われる、いくつかのシンポジウムについてレポートしていく。まずは3月25日に開催された、デジタルアニメ制作技術研究会、東京工科大学主催による「制作現場からの提言 国産フル3DCGアニメの発展と課題」から。


 1980年代の前半には『子鹿物語』や『ゴルゴ13』でのコンピュータ利用、あるいは3DCG使用が話題となったが、本格的なCG時代到来を印象づけたのは85年の『SF新世紀レンズマン』だった。大量の透過光をクッションとして2Dアニメと3DCGを組み合わせた映像は当時としては斬新であり、以来、日本では主にVFX(視覚効果)としてCGが用いられてきた。

 この手法はアニメーションのデジタル化が顕著となった00年ごろから激増。一方、欧米をはじめとする海外ではフル3DCGアニメへの移行が進んだ。03年以降のハリウッドでは、長編アニメはほとんどが3D作品となっている。日本でもフル3DCGアニメが増えつつあり、特に『アップルシード』を嚆矢としてトゥーンシェイディングを使った作品が目立つ。

 国産フル3DCG作品のうち『Freedom』『新SOS大東京探検隊』『ホッタラケの島 ~遥と魔法の鏡~』『よなよなペンギン』がアニメ制作会社によるもので、それ以外はゲームやCGのプロダクションによるもの。この日は2007年の『Freedom』『新SOS大東京探検隊』にも関わった高木真司氏ほか、『ホッタラケの島』のチームから三人が登壇。フル3DCGアニメ制作の実際を語った。

DSC_0086.jpg登壇者は左から株式会社プロダクション・アイジー安芸淳一郎氏、
株式会社ミディアルタのアニメーション監督・高木真司氏、
株式会社ポリゴン・ピクチュアズのプロデューサー・牧野治康氏

◆『ホッタラケの島』のプロデュース

 『ホッタラケの島』の特徴をデータスペック的に現すと、以下のようになる。

・国産フル3DCGアニメーション
・主にMaya、AfterEffectsを使用
・2D手描き背景画+3DCGキャラクター
・全編に渡りモーションは手打ち
・全1,358カット、エンドロール含み98分
・監督は実写畑の佐藤信介氏

 それまでは監督・演出だった高木氏がアニメーションプロデューサーとして関わることになった経緯から、具体的な説明が始まった。

 『ホッタラケの島』はプロダクション・アイジーの3D部門であるIGFXがCG制作の中核となっていたが、人手が足りず、ポリゴン・ピクチュアズ、ダンデライオン、ジーニーズ、東映アニメーションのCGプロダクション各社が参加。さらに09年5月以降の最終工程ではルーデンス、サンライズ荻窪スタジオ、アートナー、OLMデジタル、Z-FLAGが参加している。

 05年、フジテレビとプロダクション・アイジーの企画として映画制作がスタート。08年4月に高木氏がアドバイザーとして関わり始めたとき、制作体制にはいくつかの問題点があった。高木氏は言う。

「美術監督がおらず美術設定ができていなかったり、リグ(キャラクターを動かすためのセットアップ)やルック(見た目の設計)の方針が決まっていなかったり。インフラやシステムも不完全なものだったし、スタジオも20名規模で劇場用作品をつくるには狭く、そうした点は逐一アイジーの社長に報告していました」

 同年6月、09年7月に公開したい旨をアイジー社長の石川氏に告げられると、一年でやれるという手応えを得ていた高木氏は即答。それまでに制作体制を整えきれなかったのは公開時期が決まっていなかったがゆえでもあり、公開タイミングの決定は歓迎すべきことだった。7月26日に「予算規模に見合った」(高木氏)絵コンテが完成すると、必要な作業を計量し、ポリゴン・ピクチュアズを招聘。制作体制を仕切りなおした。高木氏もメディアルタでの仕事を休み、アニメーションプロデューサーとして『ホッタラケの島』に専念することになった。そしてここから制作のスピードが早まっていく。

 8月には当初に予定していたCGディレクターが都合により降板したため、ポリゴン・ピクチュアズの長崎高士氏に同職就任を要請、牧野氏にもラインプロデューサーになってもらい、体制を整えた。

DSC_0129s.jpgクリックすると拡大表示します

 高木氏が公開した工程表をご覧いただきたい【表A、B】。ピンク色に塗りつぶした、最初に立てたスケジュール【表A】では絵コンテやプリプロダクションなどの土台作りからポストプロダクションに到るまでの各工程が、次から次へと受け渡されるように、なだらかに設計されていることがわかる。

 ところが柑橘系に塗りつぶされた、実際のスケジュール【表B】では、各工程に1~2ヵ月の遅れが生じている(遅れは真っ黄色の部分)。結果としてライティングなどにしわ寄せが行き、後半の作業時間が圧縮された。

 進捗状況を折れ線グラフにしたのが【表C】である。

「まずはAnimatixというかたちで、ラフなムービー(※動画レイアウト、プリビジュアライゼーションとも呼ばれる)をつくらないと、あとの工程がどのくらい大変かもわからないので、これは9月くらいから立ち上げ、急速に進めて1月いっぱいには終わった、と。いちばん重要なのは最後のほうの作業をまいていかないと間に合いません、ということ。美術設定が年内に終わらないとあとあとに差し支えるので、スタッフにがんばっていただいて11月いっぱいに終わらせました」(高木氏)

 優先してここまでは早めにやっておかないと、あとの段階の作業に着手できない。その点をスタッフにはよく理解してもらい、最初の段階でキーとなる美術設定の作業を急いだ。

 その次がAnimatixのほか、キャラクターのモデリング、リギングなど。モデリングにはけっこうな時間を費やしたように見えるが、じつはモデリングすべき約200体のモデルのうち、メインキャラクター30体分については早々に仕上げてあった。メインのモデルさえつくりあげてしまえば、あとの工程にバトンを渡すことができるからだ。

 高木氏が気を付けたことは、演出家としては口を挟まず、監督が考えていることを引き出して制作体制に落としこんでいくこと。編集は6回おこなった。高木氏は言う。

「ここは重要だと思うんですけれども、キーになる時点で編集をおこなうことによってかなり欠番が出ましたし、セリフもその場で変えていただいて流れもよくなり、ストーリー的にも非常にわかりやすくなりました」

 初期の絵コンテでは冒頭、現実世界の場面が30分もあったという。これを大幅に削り、ブラッシュアップすることで、内容面での質的向上、作業面での速度向上が図れたわけだ。

 何をつくりたいかはクリエイターによって様々だが、集団作業において作品をどうつくるべきかという手法については、共有できる面が多いはず。マスプロダクションに従事するクリエイターにとり、参考になる話だった。

◆劇場用映画を何本も作ったアニメ制作者のノウハウ

 『ホッタラケの島』が実質一年強という短い制作期間にもかかわらず、ある一定のクオリティで長編をつくり、公開に間に合わせるという「作品」「商品」両面の成功を遂げた要因について、ポリゴン・ピクチュアズのプロデューサー牧野治康氏はこう語る。

「勝因は劇場用作品を何本も作ってこられたプロダクションアイジーさん、高木さんのノウハウ。それに、2Dのアニメのワークフローを基調にしながら、3DCGのアニメを作るのにどうしても必要なプラスアルファのノウハウを、最初に提示していただいたことです」

 プレスコ(事前の音声収録)では新人声優を集めて仮の音声を録音した。音声データも編集の度に更新されていったのだが、これらの素材がCG制作前にあるとないとでは大きく違うと牧野氏は言う。

「制作工程の見積もりや、アニメーターが動きをつける際の勘(どころに影響があり、余分なもの)が、格段に減っていくんですね。これ(音声データ)があったことが無用の混乱を生まずに、よしこれをやればいいんだという、正確な作業量の見積りにつながったと思います」

 佐藤信介監督は実写の監督であり、アニメーションのカットをいちから構築していくことは難しい。しかし若手のアニメーション演出家である塩谷直義氏が監督と組み、2Dアニメの経験を生かしたことも大きいという。またCG制作の前に、名だたるアニメーターのデザインなど、2Dのドローイングが豊富に用意されていたことも、制作現場としては助かったという。

 2Dの美術が入ったもともとの理由は省力化だった。背景をすべて3Dで処理していたら間に合わないからという物理的な側面が大きかったのだが、しかしこの2Dと3Dの組み合わせが、従来のピクサー系フル3DCGアニメにはない質感を生んだ。

「美術設定が遅れたという話がありました。世界を構築するためのバックグラウンドデザインを総括して美術設定というのですが、アニメーターさんに伝えるアニメーションのそれは、非常に詳しく描かれている。こういったものを提供していただけたことでCGがとても作りやすかった。いいコラボレーションだったと思います」(牧野氏)

 原画と動画に分かれたアニメの作画と異なり、3DCGではアニメーターは1工程をそっくり任される。しかしカットによるウマイ・ヘタのばらつきが作品のクオリティを下げることをおそれ、『ホッタラケの島』では、動かせるアニメーター、キャラクターの表情を豊かにつけられるアニメーターは、メインキャラクターの「動き」と「表情」に傾注。その他の作業は次のアニメーターに任せていくというワークフローを採用した。

 現場では途中で仕事を取り上げられた気分になり不満が募りはしたが、あえてこのやり方を押し通したことは結果から見れば正解だったのではないだろうか。

 コンポジット、カラーリングについてはそれぞれスーパーバイザーがついた。CG制作の経験が蓄積され、2Dと3Dをなじませるノウハウ、マット画背景とシェーディングした3Dキャラをなじませるノウハウが、2Dアニメ制作者にはたくさん詰まっているのだ、と牧野氏は言う。

 アニメーションのデジタル化に挑みつづけたプロダクション・アイジーのノウハウが3DCGプロダクションに伝播することで、質的向上が図れたということのようだ。

◆いくらあっても足りないレンダリングパワー

 最後にプロダクション・アイジーシステム管理・開発課の課長を務める安芸淳一郎氏から、制作インフラについての解説があった。

 CGソフトについてはMaya2008 Ext2を用いているが、リギングツールはポリゴン・ピクチュアズ出身者による独自のものを使用した。

 特殊、高価なソフトは使っていない。複数のプロダクションで一気に仕事を進めるうえでは、汎用性の高いソフトの採用は妥当な策だったのだろう。

 作業用PCの選定で重視したのは64bit環境であること。重いデータをかぎられた時間で処理しきらねばならなかったため、主要なPC・サーバ類は64bitで統一するという方針を最初に決め、機材を調達していった。

 関係各社すべてに64bit環境を押し付けるようなことになるが、当然のごとくマシンが足りないので貸してくれ、という答えも返ってくる。そこでたとえば、ポリゴン・ピクチュアズでコンポジットが佳境を迎えるという時期になれば、コンポジット担当者が何十台のマシンとともに出向する、という対応策をとった。

 それだけでなく「メモリが足りない」という要望も数多くあり、「メモリ挿し部隊」を編成、一日に200本を挿してこいと命令することも珍しくなかったという。

 また、レンダファームはこの映画のために20台を導入。ハードウェア面での地力が求められる映画であったことはまちがいない。

 ところがピーク時を見越して準備を進めたにもかかわらず、制作末期にはレンダリングパワーがまったく足りなかった。安芸氏によれば、IGFXにあるレンダファームの約3倍の物量が必要だったという。結局他社からもサーバ、PCをかき集めて対応した。

 では今後に3倍量のレンダファームを用意するのかといえば、ピークを迎えた2ヶ月間のためにあらかじめ買っておくのは費用対効果がよくない、と安芸氏は言う。ハードを直接借りるか、遠隔利用させてもらうか、ネット上のサービスを利用(クラウド)するか。レンダリングパワー対策は、長編フル3DCGアニメーションの制作が見込まれる各社にとり、重要な課題となるだろう。

 複数社での分業に必要なポイントとして、安芸氏は3つを提示した。

・データ構造の統一、素材データの同期
・インターネットを経由した遠隔レンダリング
・制作情報の共有

 デジタル映像の制作には、作業環境やデータの共有、統一といったシステム設計が不可欠であるという認識がみてとれる。

 以上、駆け足でシンポジウムを振り返った。長編フル3DCGアニメーション映画の制作工程が、ざっくりとではあるが、これだけまとめて開陳されることはあまりない。

 貴重な発表会となったのではないだろうか。

──Agenda──

1.パネラーの紹介
2.イントロダクション
3.事例紹介
-a.プロデュース
-b.ワークフロー
-c.バックボーン
4.ディスカッション
-a.フル3Dアニメの今後の課題
-b.質疑応答

──登壇者──

司会:
東京工科大学
メディア学部 講師 三上浩司

株式会社プロダクション・アイジー
システム管理・開発課 課長 安芸淳一郎

株式会社ミディアルタ
アニメーション監督 高木真司

株式会社ポリゴン・ピクチュアズ
プロデューサー 牧野治康

(取材・文・写真=後藤勝)

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とりあえず触ってみる。

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最終更新:2010/04/05 18:47

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