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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第50回

権力の集中が悪習を招いた検察の改革は成功するのか?【前編】

──ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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──戦後、一度も手を付けられることがなかった検察制度が、ついに見直されることになった。周知の通り、冤罪や証拠改ざんなど、不祥事に端を発する今回の動きだが、検察問題に詳しい成城大学法学部の指宿信教授は「検察に権力が集中しすぎたことが問題」だと、制度そのもののあり方に異議を唱えている。昨年11月に「検察の在り方検討会議」が行われたが、「改革に向けた動きは評価できるが、検察だけではなく、裁判所の見直しも必要だ」と、指宿氏は続ける。起訴すれば有罪率は99・9%という絶対的な力を持つ検察は、拡大した病巣を自ら取り除くことはできるのだろうか?

【今月のゲスト】
指宿信[成城大学法学部教授]

神保 今回はマル激でも2003年頃から繰り返し議論してきた、検察と日本の刑事司法の構造問題を取り上げます。刑事司法の問題はその国や社会の正義の根幹を成す問題でもあるので、実は警察、検察にとどまらず、現在、日本が抱える多くの問題の根っこにある問題と考えていいのではないでしょうか。

宮台 その通りです。統治権力と市民社会の関係性をめぐる、日本独特の問題がよく表れています。いまだに起訴便宜主義が許され、有罪率は99.9%。取り調べの可視化も進まない。「日本の社会はよくこれを放置してきたな」と思わざるを得ません。

 そして、これが大切な話なのですが、これらの問題は検察だけを悪者にして済む話ではありません。僕らがなぜ、国家と社会の関係を、今に至るまで歪んだまま放置してきたのかを考えると、そこから日本人と日本社会の民度が透けて見えるし、口惜しいです。

神保 2010年11月に、検察制度の改革を議論する「検察の在り方検討会議」が発足しました。検察をどう改革すべきかを考える上で、まず現状の問題点をしっかり押さえておく必要があります。それをきちんとやっておかないと、例によって上辺だけの改革でお茶を濁されて終わってしまう可能性もある。そこで今回は、検察制度改革についての私案も出されていて、可視化問題に詳しい成城大学法学部教授の指宿信さんにお越しいただきました。

 さっそくですが、「検察の在り方検討会議」でのここまでの議論を、どう評価しますか?

指宿 「取り調べの可視化」も「証拠品の開示」を含め、現在マスメディアで取り上げられているような問題は、一通りカバーしていると思います。今回、いわゆる大阪特捜事件をきっかけにこうした議論が出てきましたが、検察改革は戦後一度も公的に議論されたことがなかった。特捜だけではなく、検察全般や、それを監視する法務省、あるいは裁判所との関係まで見直そうとしている点は評価できます。

神保 会議のメンバーを見ると、ジャーナリストの江川紹子さん、元東京地検検事の郷原信郎さんなど、現在の検察の在り方に批判的な方も入っていることは入っています。しかし、議長を含めた総勢14人のメンバー構成を見ると、必ずしも改革派が過半数を占めているわけでもなさそうですね。

指宿 現状では、検察改革派と擁護派がいい勝負をしていますが、元検事や元判事など、人数的には検察側にシンパシーのある人が多く、最終的には改革派が負けてしまうかもしれません。付け加えるならば、冤罪被害者がメンバーに入っていないことも問題でしょう。実際に「自分に有利な証拠が開示されなかった」という経験を持つ人が会議に加われば、議論もより深まるはずです。

宮台 こうした審議会においては、事務局の存在も重要です。事務局が多くの場合、議論の帰趨を方向づけるからです。事務局の構成メンバーを、どうご覧になりますか。

指宿 事務局には優秀な人が揃っています。しかしながら、「年度内にミッションを終える」という報道もあるように、会議が非常に急いだ状態で運営されているため、生煮えのまま結論に至ってしまうのではないかという危惧もある。事務局が優秀でも、調査の時間と予算が十分でなければ、「多くの人を集めて議論しました」というだけで終わってしまうことも考えられます。

神保 あらためて、現在の検察が抱える問題について議論していきたいと思います。大きくどんなものが挙げられますか?

指宿 刑事手続き上の問題としては、「捜査」「起訴」「公判」のそれぞれに問題が挙げられます。「捜査」においては、特捜検察が独自捜査を行い、それを検察内部でチェックする仕組みになっているのがおかしい。また「起訴」については、公訴権を検察が独占しています。そして「公判」においては、刑事裁判の99.9%という有罪率からもわかるように、裁判官が検察の仕事をチェックできていない。実際に有罪・無罪を決めているのは、裁判官ではなく検察官です。

 有罪になった人を刑務所に入れ管理する仕事をするのは法務省だし、死刑を執行するときには検察官が立ち会う。こうした極めて広範にわたる権力を持っているのが、日本の検察の特徴です。

神保 廃止も含め、特捜部をどうするかも、重要な論点になると思います。特捜部案件は捜査の機能と捜査の在り方をチェックする機能を両方とも検察が持っているため、本来のチェック機能が働かない。村木厚子厚労省元局長をめぐる郵便不正事件でも公判部から捜査の在り方を問題視する声が内部的には上がっていたようですが、結局それを無理やり起訴してしまっている。特捜機能の維持の是非はともかくとして、最低でも特捜を検察から分離する必要がありませんか?

指宿 特捜検察はそもそも”起訴ありき”──不起訴や起訴猶予はあり得ないという前提で、捜査を行っているのが問題です。「そんな特捜部は潰してしまえばいい」という話も出てきていますが、そこで重要になるのは、「ホワイトカラー犯罪」(社会的に高い地位にある者が、その立場を利用し、職業上において行う犯罪)を的確に捜査し、起訴することができる機関をほかに作れるのか、ということです。

 警察は街で起こる犯罪など、主に被害者がいる事件の捜査は得意ですが、明確な被害者のいない脱税事件などは不得意。ホワイトカラー犯罪を専門に扱う機関が必要であることは間違いありません。もっとも、それは検察内部の機関である必要はありません。それも、なんでも一手に引き受ける特捜的な組織は望ましくなくて、「証券だったら証券、国税だったら国税」と、目標をはっきりとさせた監視組織を作ったほうが効果的だと思います。

神保 しかし、経済事案については証券取引等監視委員会もあるし、国税局もある。特捜でなければ扱えない事件として考えられるのは、疑獄事件くらいではないでしょうか。

指宿 また重要なのは、今は暴力団事件がホワイトカラー犯罪化していることです。暴力団犯罪は警察と検察の狭間にあって、もともとの担当は警察ではあるのですが、犯罪の構造を解明するには特捜部のような強い力が必要になる。単に特捜部を廃止してしまうと、巨悪が力をつけていってしまうのではないか、という危惧があります。検察以外にも、「県警」のように活動範囲を制限せず、横断的な捜査を行う機能を持つ機関があってもいいのでは、と思います。

最終更新:2011/01/24 10:37
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