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【バック・トゥ・ザ・80'S】Vol.6

合体のロマンに全国の男子がハマりまくった! 「合体シリーズ」「ミニ合体シリーズ」今昔物語

gattai02.jpg今も再販されている人気ロボット・アトランジャー。
「合体シリーズ」の顔のような存在だ。

 アナログとデジタルの過渡期であった1980年代。WiiもPS3もなかったけれど、ジャンクでチープなおもちゃがあふれていた。足りない技術を想像力で補い、夢中になって集めた「キン消し」「ミニ四駆」「ビックリマンシール」……。なつかしいおもちゃたちの現在の姿を探る! 

 「合体」。それは男のロマンである。もちろん性的な意味ではなく、メカニック的な意味で、だ。

 何種類かの飛行機や自動車がグリグリっと形を変え、グワシッ! と組み合わさり、1体のマシンにパワーアップするギミックに心をたぎらせた少年は今も昔も数知れず。どんなに時代が移り変わろうとも、戦隊ヒーローやアニメに登場するロボットの合体シーンは、作品のハイライトとして多くの少年に夢と希望を与えている。

 そんな、もはやDNAレベルで「合体萌え」を刻まれたとしか思えない全国の男子を熱狂させたプラモデルシリーズが、1970年代から80年代にかけて存在していた。その名は「合体シリーズ」と「ミニ合体シリーズ」。

gattai01.jpgアオシマが誇るオリジナルロボット・アトランジャー!
今回は青島文化教材社のご厚意で、社内に残るキットを貸していただきました。

 発売していたのは「創造のプラモデル」というキャッチコピーを掲げ、近年も「痛車」や「小惑星探査機はやぶさ」などかゆいところに手の届くキットをリリースする模型メーカー・青島文化教材社だ。

 ばら売りされているプラモデルを4体集めて合体させると、「アクロバンチ」や「トライダーG7」などのかっこいいロボットになってしまう! そのコレクション性と合体のダイナミズムに子どもたちは酔いしれた。

 よりリアルな合体を追求した高価格な「合体シリーズ」と、1個100円というリーズナブルな価格設定が子どもたちの懐に優しかった「ミニ合体シリーズ」の両輪で、青島文化教材社は子どもたちに新たな「創造」を提供し続けたのだ。今回はそんな「合体シリーズ」「ミニ合体シリーズ」を振り返ってみよう。

■逆転の発想と子ども目線から生まれた「合体シリーズ」と「ミニ合体シリーズ」

gattai03.jpg筆者の持っているガンプラ(約15センチ)と大きさを比較。
この力強さ、この巨大さこそアオシマよ!

「そもそも『合体シリーズ』は、『マッハバロン』のプラモデルを売る時に、主役のロボットしか版権が取れなかったことからスタートしたんです」

 このように語るのは、74年の「合体シリーズ」スタート時から企画開発に携わっていた青島文化教材社の堀井康吉氏だ。

「『マッハバロン』シリーズを始めるに当たり3~4社で競合となったのですが、うちは何種類かあるメカのうち、主役ロボットの『マッハバロン』しか版権が取れなかったんです。そこでなんとか商品点数を増やすために『合体』というアイデアが生まれたんです」

 ゼンマイ仕掛けやモーターを搭載した動くプラモデル全盛の当時、動力のない合体プラモデルを発売した同社には、「売れるのか」と疑問視する声が業界内から上がったそうだが、予想に反して「マッハバロン」は大ヒットを記録した。

「当時、お母さんたちから頂いていた『無駄なパーツが多くてもったいない』『シンナーを使わせないで』という意見を参考にして、余ったパーツを合体させて新しいメカを作れるようにしたり、接着剤を使わずにパーツをはめ込むために穴の規格を統一したりと、プラモデルのマイナス面をすべてプラスに逆転させるように心掛けました」

 発想の転換が功を奏したのだ。

 子どもたちには、「合体」という斬新なプラモデルの遊び方を提示し、保護者には安全で無駄のないプラモデルというアピールを行った「合体シリーズ」は、瞬く間に全国のおもちゃ屋や駄菓子屋の棚を埋め尽くした。

gattai04.jpgなぜか4体のメカが合体する「ミニ合体」版ザンボット3。
残念ながら社内にも3体しか残っていなかった。

 ちなみに「合体シリーズ」の特徴は、「原作では合体しないロボットも、強引に分割し合体メカにアレンジする」というとんでもないもの。そのパターンはだいたい、頭部・腕部・胴体・脚部の四分割。その中でも、頭部がメカの上にちょこんと乗っかる「生首マシン」のインパクトは大きかった。

「版元さんも『合体は面白そうですね』と、(合体のアレンジについて)OKをしてくれました。今では考えられないですね。そのころはスタッフで担当を割り振ってデザインをしていました。私は『頭部』担当だったんですが、頭だけでどうやってメカを作ろうかと本当に苦労しました(笑)。ちなみに『合体シリーズ』の外箱は、内箱に比べて少し寸足らずに作っているんです。そのおかげで、小さなお子さんでも箱を外しやすくなっています」

 そんな苦労や工夫もあって、「合体シリーズ」はヒットシリーズに成長し、新作が続々登場。自社で開発したオリジナルロボット「アトランジャー」も「マッハバロン」に続くヒット商品となり、「合体シリーズ」は人気シリーズとしての地位を確かなものとした。

 だが、1個500円。4つそろえると2,000円という子どもの懐には少々厳しい金額設定のため、正月、クリスマスなどの大きなイベント時期以外には売れづらいことが分かってきた。

 そこで、1個100円にプライスダウンし、設計もよりシンプルにした「ミニ合体シリーズ」を考案。そのおかげで子どもたちは、日々のわずかなお小遣いでも合体プラモデルを手にすることが可能となった。

「お小遣いを100円しかもらえないお子さんは、1個500円だと買うのに5日もかかってしまう。まして他のパーツも全部そろえるとなると、とんでもない時間がかかってしまいます。でも1個100円なら、毎日一個ずつ買って4日で全部そろえられるんじゃないかと考えました。現実に3号までそろえたのに、4号がお店からなくなっていたので完成できなかった、というようなご意見がよく届いていたんです」

 徹底的に子どもの目線で作られた「ミニ合体シリーズ」は、「合体シリーズ」に続き、またも大ヒット。「合体シリーズ」と同じく「マッハバロン」からスタートし、「トライダーG7」「ザンボット3」「イデオン」「アクロバンチ」と70年代後半から80年代半ばにかけて、ブラウン管の中で大活躍したロボットが続々登場した。

■『ヤマト』『ガンダム』『エヴァ』も合体していたかも?

gattai05.jpgズラリ並んだ生首マシーン。
微妙にアニメの設定を生かしている点がポイント。

「もしかしたら『機動戦士ガンダム』のプラモデルも、弊社で出すかもしれなかったんです」

 取材も半ばに差し掛かった時、堀井氏の口から聞き捨てならない言葉が飛び出した。日本のSFアニメ史に残る作品のプラモデルが青島文化教材社から出るかもしれなかった、とはどういうことなのだろうか。

「弊社は『合体』を登録商標にしているということで、当時、『ガンダム』の合体おもちゃを出されていたクローバーさんが『”合体”という言葉をおもちゃに使わせてもらえないか』と相談に来られたのがきっかけで、『プラモデルを出しませんか?』という話になったんです。ただ、ちょうどそのころは『ガンダム』のテレビ放送があと3回で終わっちゃうというタイミングだったので、『じゃあ、その次の番組(『トライダーG7』)からお願いします』と返事をしてしまったんですよ」

 放送打ち切り後、バンダイはガンダムブーム到来を察知し『ガンダム』のプラモデル、通称「ガンプラ」を発売。その後、今もなお続く大ヒットシリーズへと成長していくことは、ご存じの通りだ。

「『宇宙戦艦ヤマト』も『新世紀エヴァンゲリオン』も、最初はうちにお話が来たんです。いずれも立ち消えになってしまいましたが……。歴史のIFを言っても仕方がないのですが、私たちがやっていたらどうなっていたのだろうと考えてしまいますよね。いつも通りの合体シリーズを発売して、そこで作品が終わっていたかもしれませんが……」

 と、堀井氏は苦笑いだ。

 もし「合体シリーズ」の『ガンダム』や『ヤマト』『エヴァンゲリオン』が実現していたら、生首ガンダムやエヴァの腕だけの戦車、はたまた輪切りになったヤマトがおもちゃ屋さんに並んでいたのだろうか(ちなみに青島文化教材社は、当時「合体レッドホークヤマト」という合体する戦艦のキットや、ガンダムを意識したと思われる「ザクレス」シリーズなどのオリジナル商品を販売していた)。興味は尽きないが、それも今は歴史の闇の中である。

■今も変わらぬ「創造」のアオシマイズム

gattai06.jpgシリーズ後期のキット。偉い人にはわからないかも知れませんが、
足は飾り的なデザインです。

 合体シリーズで一世を風靡した青島文化教材社だが、21世紀に入って以降も、萌えキャラをペイントした乗用車「痛車」をスケールモデル化した「痛車シリーズ」や、2010年6月に地球へと帰還した探査機「はやぶさ」のキットなど、独自のセンスがキラリと光るヒット商品を多数発売。7月にはゴキブリを擬人化した禁断のキット「!!ごきチャ」「!!!ちゃば」という挑戦的すぎるラインナップが控えている。

「(『!!ごきチャ』『!!!ちゃば』は)正直私の理解を超えているのですが(笑)、こういう商品はうちじゃないと出せないと思います。社風的に、常に新しい物を追求していこうという気持ちがあるんでしょうね。私みたいな年寄りが若い人たちにあまり口出ししすぎると、結局、既成概念にとらわれたままになってしまいますので、『とりあえずおやりなさい』と言っています。そういう空気は『合体シリーズ』の時からあります」

 もちろん数多くの失敗作や、成功したとは言えない企画もあるのだろう。だが、それでも確実にコンスタントにユーザーの心に刺さるアイテムを開発し続けられる、その理由は青島文化教材社の根底に「創造」の文字が流れているからではないだろうか。

「普通はちゃんと市場調査や分析をして、これはやめておくべきという判断も当然生まれるのでしょうが、それだけでは物事は前に進まないと思います。だからうちは、おおざっぱに『こんなお客さんがいるだろう』ってノリでやっている部分も多いです。ですから、他社さんからしたら、一見不マジメな会社に思えるかもしれませんね(笑)」

 そうおおらかに笑う堀井氏は、模型メーカーに携わる人間として大切なものは何か、という問いに「遊び心」と答えた。

「模型を作ることそのものが遊びですから、自分が作って楽しくないものは、誰が作っても楽しくないと思います。そこに青島文化教材社ならではの独特な味付けを加えるんです。一つの素材を生で食べるのか、煮るのか、焼くのか、あるいは蒸すのか。いろいろな食べ方を比較検討していく中で、私たちのやっている仕事は答えが出てくるのかなと思います」
 
 これこそ独自のプラモデルを「創造」し続ける青島文化教材社を表現する言葉だろう。その魂は独創的な現行ラインアップの中にも、確実に息づいている。

 なお、「合体シリーズ」のヒット商品「アトランジャー」は今も生産されており、お手軽に入手することが可能だ。合体がまだ珍しかったあのころの気持ちを思い返しつつ、もう一度組んでみてはいかがだろうか。
(取材・文・写真=有田シュン)

合体ロボット アトランジャー

プラモ誕生50周年記念の再販。

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最終更新:2012/04/08 23:21
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