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『私家版 差別語辞典』発売記念 上原善広氏インタビュー

「”差別用語”を使って何が悪い?」過剰な自主規制にモノ申す! 

IMG_4329_.jpg被差別部落出身のジャーナリスト・
上原善広氏

 「穢多・非人」「めくら」「ビッコ」「浮浪者」「屠殺」――。これらはすべて、差別用語とされている言葉だ。こういった”不快な思いをする人がいる”とされる言葉は「放送禁止用語」という名のメディア側の自主規制により、まるで存在しないものかのように取り扱われている。年々厳しさを増すこうした自主規制によって、メディア上で本来語られるべき事柄が語られない、語ることができないというジレンマに陥ってはいないだろうか。過日、『私家版 差別語辞典』(新潮社)を出版した、被差別部落出身のジャーナリスト・上原善広氏に話を聞いた。

――本書では、「差別用語とは、本来は差別的な意味合いを含んでいなかったにもかかわらず、人々が差別するつもりで使ったからそう呼ばれるようになったものが大半」だと指摘されていますが、現在、差別用語はメディアにどのように扱われているのでしょうか?

上原善広氏(以下、上原) だいたいはその言葉を使わない、違う言葉に言い換えるということをしています。例えば、精神分裂病のことを統合失調症、職安のことをハローワークと言ったりしますが、言い換えによってイメージもガラっと変えてしまうから、それが良い効果をもたらす場合もあります。その一方で、”障害者”や”醜いさま”を表す「かたわ」という言葉は平安時代より使われている歴史的語句ですが、こういった言葉についても封印されてしまっている。言葉の言い換えというのは、どちらが正しいというわけではなく、バランスを取ることが大事だと思います。現在の状況はポリティカル・コレクトネスと言われる「政治的な言い換え」があまりにも進み、差別用語に対して一律、言い換えにしてしまおう、それでごまかしてしまおうという流れが多勢なので、そういう意味では、この本で一石を投じたかったというところもあります。

――差別用語の”差別性”という面だけが強調され原意が抜け落ちてしまうと、客観的な事実を説明するだけで一苦労する、というちぐはぐな状況に陥ってしまいますね。

上原 例えば「貴様」という言葉は、近世初期までは目上の人を敬う言葉だったのに、今では反対の意味で使われるようになってしまいました。本来、人を区別する言葉なので、その言葉を使う人自身が相手をおとしめたいという思いが少しでもあると、それはすぐに差別語になってしまう。要するに、言葉の意味が変ってしまうわけですよね。これは仕方がないことではあるけれど、「ブス」にしても「デブ」にしても、言われたら確かに傷つくけども、だからといって全部ダメにするわけにはいかないでしょう? だって現実的に、僕のようなデブもいれば、ブスもブ男もいるわけですから。そういう意味でも、抗議がきたらメディア側が一律に思考停止状態になって封印してしまう方法では無理があると思うんです。メディアは、見ている人が多くなればなるほどタブーが多くなります。その点、「サイゾー」は読者が少ないから(笑)、タブーも取り扱えるわけで、これが100万部、1,000万部となってくると、変わらざるを得なくなる。だからサイゾーのようにウェブも紙媒体も出している出版社には、今のうちに積極的に”差別用語”とされる語句を使ってほしいと思っています。タブーが一番多いのは、見ている人がケタ違いに多いテレビと新聞、通信社なのですが、そうした大メディアができないことをできるのがサイゾーだと思うんです。とくにこの日刊サイゾーなんて、ウェブを舞台にしている。ウェブというのは、読者が多いのにタブーがほとんどないですよね。そうした意味でも革命的だった。そしてここ十数年でそういう新しいメディアが爆発的に普及してきた今だからこそ、差別用語について少しでも考える機会が増えればいいなと思っています。

――しかし裏を返せば、”ウェブ上には差別用語が氾濫している”とも言えます。

上原 特定の個人を攻撃するのはもちろん罪に問われてしかるべきですが、公のメディアであるウェブ上で使っての差別語使用については何も問題はないと思います。2ちゃんねるみたいに同和のことを「童話」と書いてからかってるけど、あまり問題になっていませんよね。ウェブって、その手の抗議は雑誌とかに比べて格段に少ないんじゃないですかね。あとは、小人プロレス(参照記事)なんかもそうだけど、笑いを取るためには誰かをコケにしなきゃいけない場合もあるんですよね。人間って生きていくために牛を殺したり鶏を殺したりして食べていかなければいけないように、誰かを傷つけながら生きていかなければならないところがある。お笑いなんか特にそうですよね。表現って、必ず誰かを傷つける可能性を秘めています。だから差別語を使って個人攻撃はしないとか、必要最低限のマナーは必要だけど、あまり神経質になって使わないというよりは、逆に今後は積極的に使っていくべきだと思います。

――上原さんの世代、つまり30代半ばというのは、テレビで差別用語に触れてきた最後の世代だと思うんですが、今の子どもたちは無菌状態のテレビで育っています。そういった状況について、どう思われますか?

上原 でも、今は返って住み分けができているんじゃないですかね。子どもでも自由にウェブを見ている子もいるから、「大人の世界じゃ、これは使っていい言葉・悪い言葉」というのが、昔よりも分かっているんじゃないかな。大人びているというか、ウェブという一種の「解放区」と、現実の区別は、意外に子どもの方がついているのかもしれないと思うときがあります。

――テレビが使っていい言葉で、ウェブがダメな言葉だと。

上原 テレビで使っていて、ウェブで使ってはいけない言葉なんてないでしょう。その逆については、子どもの方が新しいメディアに対応しやすいから、分かっているんじゃないかと思います。本当はいびつで、あんまりよくない状況ではあると思いますが。だってメディアの種類によって、使える言葉が違うって変ですよね。

――テレビの”言葉狩り”が進んで窮屈になった一方で、ウェブというはけ口ができたことにより、ある意味、全体的バランスは取れているとも言えますね。

上原 確かにその通りです。ただ一方で高齢者、とくに貧困層の中にはウェブを使っていない人もいて、そういう人たちが何に頼るかと言えば、やっぱりテレビなんですよね。携帯電話もなくて、電話は近くにある大家さんのを借りてるのに、テレビだけは部屋にある生活保護の人とか。それはちょっと極端な例かもしれませんが、そういう意味ではまだまだテレビってすごく影響力がある。そこから小人さんとかの障害者でパフォーマンスできる人を消すとか、被差別部落民を消すっていうのはゆがんだ状況だと言えます。部落問題で言えば、時代劇に穢多・非人が出てこない。武士が十手を持っていたりする。十手を持っているっていうのは、穢多か非人身分なんです。そういう時代考証も、わざとかどうかまで分かりませんが、間違っている。些細なことかもしれませんが、それって歴史を捻じ曲げているとも言える。身体障害者で言えば乙武(洋匡)さんとか、あれぐらいものすごい才能ある人じゃないとなかなか大メディアに出られない。個人的にはホーキング青山さんが好きですが(笑)、ウェブではタブーがないというのに、テレビにそうした芸人さんや小人の俳優さんが出れないって異常な状況ですよね。そういう人たちをウェブだけでなく、もっともっと大メディアという表舞台に出していくことで、社会的・情報的な弱者に対しても、いろいろと考えるきっかけになると思います。

――先日、NHKで知的障害者とか脳性マヒの方が出てきてコメディをやる『笑っていいかも!?』という番組がありましたが、あの放送は視聴者にかなり衝撃を持って受け止められたようです。

上原 ウェブの普及から十数年、ようやく閉塞状況から開いていこうとしているんだと思います。ただ、それがNHKっていうところが情けないなあ。もっと先にやるべきメディアがあったのではないかと思います。まあ、部落民や在日、障害者を取り上げたからって、視聴率や部数が伸びるってわけじゃないから難しいところですが。そういう意味では、NHKだからできたんでしょうね。番組の試みは素晴らしいことですが、一過性のもので終わらないかどうか。そうした意味では作り手側はもちろん、視聴者も試されていると言えます。

――たとえば、乙武さんは「『かたわ』と言われてもいい」と発言されていますが、健常者が『かたわ』という言葉使うと当然、抗議が来ますよね。では、差別の当事者ではない人間が差別について語るとき、どういう言葉で語られるべきだと思いますか?

上原 僕は基本的に、差別用語とされるものを全部使っていいと思っています。言葉というのはただの記号・キーワードの組み合わせでしかない。だから逆にいくらでも組み合わせて言い換えができるけども、そればかりやっているとやっぱりストレスになって窮屈な社会になってしまう。だから僕は「もうこの辺でやめとこうよ」って言っているんです。

 本当は、部落問題や障害者について一般の人、つまり他者が書けるようになったらいいですね。障害者のタブーについて健常者が書いたり、一般の人が部落問題について書いたりすれば状況は変わってくると思います。そのためには、たとえば乙武さんみたいに突出した才能のある人がどんどん出ていって「障害者についてもっと言っていこうよ」って言ってくれたら僕らも言いやすくなる。それと同じで部落問題にしても、たとえば一般の人が「部落って怖いところなんじゃないの?」という疑問を堂々といえる、在日問題だったら「なんであんた、帰化しないの?」とか、そういうことを大メディアでもっとオープンにできるようになったらいいですね。

――なぜ、差別について書く人が出てこないんでしょうか?

上原 まあ、まずは書かせてもらえない。あとは出してもらえない、発言させてもらえないってところじゃないですか。それと、いまだに「差別される側の痛みは当事者にしか分からない」っていうバカバカしい風潮があるんです。それを言われちゃうと他者は何も言えなくなってしまいますよね。そういう見えない壁を打ち破ってこそ、次のステップに行けるのに、「被差別の権利」を振りかざして相手を沈黙させても、その場はそれでいいかもしれないけど、結局、自分を袋小路に追い詰めてしまうことになってしまっている。

――そこがジレンマですよね。身体障害のつらさを書いて、障害者本人やご家族から「お前に何が分かるのか」と言われてしまうのではないかという怖さがあります。

上原 遠慮するのは当然ですし、それは仕方がないと思いますが、例えば当事者じゃないと分からないことがある半面、当事者だからこそ見えていない面もあると思う。そうしたことを当事者と他者とが交互に発信していく、または発信していける状況をつくることが大事だと思います。

 結局、他人をすべて理解するっていうのは無理なんですよ。たとえ夫婦になっても分からないところは分からない。でもやっぱり、お互い考えていることを言葉に出して話し合うことが大事。それが無知から来る疑問であっても、当事者は非難したりバカにしないで答えてあげる。「部落民ってぶっちゃけ、利権で儲けてんの?」「そういう人もいるけど、生き方がヘタで貧乏な人も多いよ」とかっていう次元の話でも何でもいいけど、そうした掛け合いができる状況になればいいと思います。そうした意味でウェブの普及は絶大な影響を及ぼしていると思いますが、ウェブ上での議論自体はまだまだ幼稚で、差別用語や被差別部落の地名を書き記すだけで満足しているようなところがある。

 だから、これまでの差別に対する運動っていうのは「差別するな」っていう運動だったけど、これからは「もっと差別してくれ!」っていう運動を起こさないといけないと思いますね(笑)。つまり身内とか、隣近所でコソコソ話して差別されるくらいなら、表立って差別してくれた方がまだ話もできるでしょ。

――その運動を行っている抗議団体ですが、メディアの自主規制と同じくらい過剰に反応しているのではないかと思う場面も多々あります。

上原 まあ、結局は一種の利権、特権なんです。部落問題について言えば、被差別部落出身者自身が起こした差別事件っていくつかあります。それは仕事が欲しかったからとか、いろいろ事情があってやったんですけど、部落問題を扱うにしても、結局それは運動団体や出身者の特権でもあるんですね。運動団体だったら「その問題やるんならうちを通してくれ」ってなってしまう。僕の立場で言えば、出身者以外の人が部落問題を書きはじめたら、書く場がなくなってしまいますよね(笑)。だから本当はいろんな人に書いてほしくはないんだけど(笑)、そんな僕一人のちっぽけな生活ならいくらでも破たんしていいから、いろいろな人が書いたり出演できるようにしていけたらいいですよね。だけど、現実はそうなっていない。

――運動団体もある種の存在矛盾が生じていますよね。

上原 例えば後進国って言われてる国に行くと、ビッコ引いて歩いている人を、指差して笑ったりしてる。そういった反応を無くしてしまうのが先進国の人権の考え方ではあるけれど、何でもかんでも封じ込められているとストレスを感じますよね。差別語に限って言えば、今後はウェブのさらなる普及によって既存の大メディアは置いてきぼりを食うことになると思いますが、まあ、あと10年もすれば、もうちょっとストレスもゆるくなっているんじゃないかな。僕が書き始めた15年前とは確実に変わってきていますからね。そういう意味では紙媒体の「月刊サイゾー」はもちろん、ウェブの「日刊サイゾー」さんにはとっても期待してます(笑)。
(取材・文=編集部)

●うえはら・よしひろ
1973年、大阪府生まれ。大阪体育大学卒業後、さまざまな職を経た後、ノンフィクションの取材・執筆を始める。2010年『日本の路地を旅する』(文藝春秋)で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。主な著書に、『コリアン部落』(ミリオン出版)、『被差別の食卓』『聖路加病院訪問看護科』『異形の日本人』(すべて新潮新書)などがある。

私家版 差別語辞典

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最終更新:2013/09/12 15:50
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