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「目指すのはコミュニケーションを促進するサービス」 はてな・近藤淳也社長に聞くウェブの未来

hatena01.jpgはてな・近藤淳也社長。

 ウェブの未来を担う可能性のあるサービスや端末を発掘・共有・応援しようというコンセプトのイベント「WISH2011」が先月開催され、閑歳孝子氏のソーシャル家計簿サービス「Zaim」が「WISH大賞」に選ばれた(http://agilemedia.jp/wish2011/)。その一方で、ほぼすべての候補作がTwitterやFacebookなどアメリカ発のソーシャルネットワークでの利用を前提としており、世界中で使われるようなビッグビジネスにつながったり、ウェブに興味のない一般人でも分かるような大きなスケールのサービスは現れなかった。

 今回、オープニングトークに登場し、審査員の一人でもあったはてなの近藤淳也社長に、そんな状況をどう見ているのか、また、「はてな」は今後どのような戦略でウェブの世界に立ち向かおうとしているのか。会場でお話をうかがった。

――あらためて、「WISH」に選出されたサービスをご覧になっていかがですか?

近藤淳也社長(以下、近藤) ネットだけでなくて、リアルにもつながるサービスが多いな、というのが率直な感想ですね。大賞に選ばれた「Zaim」も、お金の管理というものに特化されていますし。

――ソーシャルメディア、例えばTwitterやFacebookのAPIに乗ったサービスが多く、全体として小粒だという印象を受けました。

近藤 確かに、Facebookが日本にもかなり浸透している、という実感はあります。今後は、TwitterやFacebookというプラットフォームに乗った、1レイヤー上の世界が新サービスの主戦場になっていくと思いますので、方向性として正しいと思います。

 僕たちはてなとしては、プラットフォーム的なサービスを指向していかないとこじんまりとしてしまうので、そこを取って行きたいという気持ちがあります。今までも、はてなIDを取得すればいろいろなダイアリー(ブログ)やブックマークなどを使える、といった全体感のあるサービスを作ってきましたが、今後はさらに「はてなを使っていれば豊かなネット生活を約束できる」といったものを提供していきたい。それでも、パネルディスカッションに登壇されていたnanapiさんのように、CGMサービスでFacebookからアクセスを集めているサービスも出始めているので、共存共栄のモデルを探って動いていかなければならない側面もありますね。

――ウェブ業界全体として、スマートフォン向けのアプリや、ソーシャルゲームばかりという状況もあります。

近藤 実際、もうかりますからね。市場も立ち上がっているので、もうかるときにリソースを投資するのはビジネスとして正しい判断だと思います。僕たちも随分話をしていますけれど、どうしても手が動かないというか……。

hatena02.jpg「WISH2011」の様子。

――手が動かない理由は何かあるのでしょうか?

近藤 僕たちのやりたいとことの中心ではない、ということですね。僕たちのやりたいことはコミュニケーションを促進するサービスなので、その思想を変えちゃいけないと思っています。ですので、苦手なところに手を出すよりも、そういった強みを伸ばして勝負したいですね。とはいえ、僕はスマホはこれからだと思っていて、新しいデバイスが普及してから変化が起こると見ています。そこに合わせて「なるほど」と思わせるサービスを提供していきたいと考えています。

――「はてな」のユーザーについてお聞きします。2004年ごろは、オフ会なども実施されていて、ユーザーとの距離が近かったと思います。現在は少し離れているようにも感じますが、ユーザー層の変化を感じられていられますか。

近藤 どうなんだろう? どう思いますか?

――単純にユーザー数も増えて一般化したのかな、とは感じていますが……。

近藤 そうですね。04年はまだ数十万人で、今は250万人。いろいろな層の方に使っていただいてます。僕たちもそれを目指してやってきましたから。知る人ぞ知るサービスでいいと思ったことは一度もなくて、なるべく多くの人に使われたい、という理念は実現されています。

 ユーザーとの距離という話でいえば、先日、創業10周年記念のオンラインイベントをUstreamで配信したんですが、視聴者は1,500人もいらっしゃいました。期待されていることは感じているので、折に触れてコアユーザーとの接点は持っておきたいですね。それと同時に、運営している人の顔が見えないというライトなユーザーにとっても使いやすいサービスを作ることが大事だと考えています。

――06年シリコンバレーに渡り、08年に京都に移りましたが、今までの期間で一番注力されてきたことは何ですか?

近藤 組織作りですね。この3年は第2創業というか、新しいサービスを作る体制を作ってきて、はてなのサービスの作り方がまったく変わってきています。「人力検索はてな」や「はてなアンテナ」、「はてなダイアリー」はわたしがプログラムを書きましたし、東京に移転してからは社員が増え、20人くらいがそれぞれいろいろなサービスを立ち上げて会社の礎を作ってくれました。シリコンバレーは行ってみたくて行ったんですが(笑)、そこでは「はてなスター」や「はてなハイク」を作りました。京都に戻ってからは、個人ではなく、チームで新しいサービスを作るようにしています。スタジオジブリで例えるなら、宮崎駿さんが監督を一切辞めて、若い脚本家や監督を育てることに専念すると決めて、彼らを育てつつ戦略を考える、という感じ。今7つのチームがあるんですが、面白いサービスの開発が進むようになり始めています。これは僕にとってもはてなにとっても大きな変化です。

――お話をうかがって、「変な会社」から「普通の会社」への脱皮という印象を持ちました。

近藤 普通の会社というよりは、「大きくなっても変な会社であり続けたい」と考えています。組織を拡大しながら、初期のころのマインドというか、良さはなくさないようにしていきたいです。特に無駄な決まり事は増やさないようにしたいです。人数は増えましたが、今も外部から人が訪問されると、「大学の研究室のようだ」と驚かれます。

――サービスも多様になってくると、ユーザーの声も様々になり、中にはいわゆる「炎上」につながりかねない事例もあったかと思います。何か対策は講じていらっしゃいますか?

近藤 これだけみなの声がダイレクトに僕たちのところまで届くようになると、ウソはつけないと思うんですよ。これまでも社内の会議をポッドキャストで公開したり、はてなは裏表がないサービス運営をしてきました。だから、ユーザーさんから何かご意見をいただいた場合は、分かってもらえるまで説明するしかないですね。最近、「はてなダイアリー」に記事を書くとポイントが溜まる「はてなダイアリーポイントプログラム」をスタートさせたのですが、Google AdSense広告が表示されることに関して、ユーザーさんから疑問やコメントやメールをいただきました。それに対しても、分かっていただけるまで説明をし、誠意を持って話し合いました。

――はてなのサービスを使っているユーザーはもちろんですが、Twitterなどでもちょっとした発言で人生を悪い方向に進めてしまうような事件が起きています。そういうネットユーザーをどうご覧になっていますか?

近藤 悲しい事件ですよね。一般のユーザーが「炎上」してしまうようなことはできるだけ避けたいと、サービス提供者としても思います。本人が望まない人たちの目に触れ、無用な批判を受けるといったことを推進しても仕方がない。インターネットの発達段階で、それまで使っていた人の縄張り意識と、新しく入ってきた人のルールの対立はこれまでもありましたが、これだけネットが日常的になった今となっては、先にいた人ばかりのものではない。ある程度みんなもリテラシーを身に付けないといけないし、サービス運営もうまく「事故」が起きない方向に進むのが正しいのではないかと思っています。

――最後に、これからのはてなやインターネット全体をどのように変化させて行きたいとお考えなのか、お聞かせいただければと思います。

近藤 はてなは「人と人とのコミュニケーションを促進する」ということを理念の軸にしているんですが、何かと殺伐としがちな現代生活って基本的に悲しいじゃないですか(笑)。「どこかに温かい会話がある」というのが豊かな要素だとしたら、ネットで温かいサービスを提供して生活を豊かにするというのが大きな使命だと思っています。ネガティブな要素はなるべく除いていきつつ、「はてなを使っていれば2、3割は人生が楽しい」というサービスを目指して行きたい、そう考えています。

***

 トークセッションの結びで「1億円稼いだとか、いい車を乗り回しているとか、そういうことは死ぬ時の自慢にはならない。でも『インターネットでたくさんの人が当たり前のように使っているあのサービス、実は僕が考えたんだ』というのは自慢になる」と語った近藤社長。

 セッションの途中では、8年ぶりにリニューアルする新はてなダイアリーと、Twitter・Facebookとの連携を強化した新はてなブックマーク、そして、「写真を撮っていると、自分の写真がないということに気が付いた」というところから着想を得たスマホアプリの「はてなアルバム」の開発中の画面を発表した。「チーム体制が、ここで形になった」と自信を見せる近藤社長だが、次のステージへと進んだはてながどんなサービスをリリースするのか。今後も変わらずネットユーザーの注目を集める存在であり続けることになりそうだ。
(取材・文=ふじいりょう)

●こんどう・じゅんや
1975年愛知県生まれ。京都大学大学院理学研究科在住中に自転車レース活動を経て、自転車競技専門の写真家になる。その後プログラミングをITベンチャーで勉強し、2001年に有限会社はてな設立。「人力検索はてな」「はてなアンテナ」「はてなダイアリー」といったサービスをリリースする。04年に株式会社に組織変更後、本社を東京に移転。06年に米シリコンバレーに居を構えHatena Inc.を設立。2008年に帰国し、現在は京都を拠点に数々のサービス開発に取り組んでいる。

「へんな会社」のつくり方

なるほどね。

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最終更新:2013/09/11 12:07
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