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ミシュランの調査員はフグの味を知らない!?

フードライターは店側とズブズブの関係? 「飲食業界ムラ」の闇を辛口評論家が暴く!

fugunomise_.jpg厳しい批評で知られる友里氏が認めるフグ
料理の店「福治」(同店HPより)。ミシュ
ラン調査員がこの味を理解できているかは
疑問だという。

 どんな超人気店でも味がマズければ容赦なくぶった斬る辛口レストラン評論家の友里征耶(ともさと・ゆうや)氏。それゆえ、ボロカスにけなされた店が自宅に抗議に来たり、身内が脅迫行為を受けたりと、危険な体験談には事欠かない。

 一方、店側とフードライターが「お車代」や「謝礼」でズブズブな関係が常態化している業界内で、「自腹」と「覆面」を鉄則に店を食べ歩き、自らの舌で確かめた味とサービスを、一般向けに論理的に書き記す姿勢を評価する声も多い。先ごろ出版した著書『グルメの真実~辛口料理評論家のマル秘取材ノート~』(宝島社新書)では、こうした「飲食業界ムラ」に潜むさまざまな問題を鋭く指摘。最も権威あるレストランガイドのひとつとして知られる「ミシュランガイド東京」の致命的な欠陥も容赦なく暴いている。その友里氏に、昨今の飲食業界の実態をあらためて語ってもらった。(聞き手/浮島さとし)

――日本版ミシュランも定着してきた感がありますが、星の評価には賛否両論あるようです。「日本料理をガイジンが理解できるのか」との声もあります。

友里征耶氏(以下、友里) いや、日本版の調査員は全員日本人ですよ。ホテルのサービスマンなどがスカウトされるパターンが多いようです。ただ、料理を評価するには、調査以外でも普段から高い料理を食べ慣れていることが必要になるわけですが、現実問題として日本のサービスマンは休みも少ないし給料も決して高いとは言えない。たまの休日に、限られた予算と時間で高い料理を食べるとなると、どうしてもフレンチやイタリアンを優先しがちです。日本食は選択肢として最後なんですね。つまり、日本人の調査員といっても、高額日本料理なんて食べたことがない人たちがほとんどなんですよ。

――そういう人たちがいきなり調査員として食べて評価できるものでしょうか?

友里 できませんよね(笑)、普段食べてないんだから。ちょっと味が濃くてインパクトがあると「あ、おいしい!」と思ってしまったり、高級な器や店内の雰囲気にのまれてポイントが増えたり。そもそも、マツタケやフグのおいしさなんて、旬に毎年食べ続けていないと分かるはずありませんから。

――一般に魚介類は「天然物」か「養殖」かで味が決まると言われますが。

友里 たしかに養殖物の脂臭い白身や赤身、香りを感じない鮎などは、天然物に軍配が上がります。ただ、何でも天然がいいという話でもない。例えば鰻。東麻布の有名鰻店「N」(注:著書では実名)は、著名評論家のY氏(同)が「天然鰻が素晴らしい!」と絶賛しているようですが、天然物というのはピンキリでして、すべてが同じクオリティーを保ってるわけではありませんからね。特に「N」が天然といっている鰻は小ぶりなものが多く、少なくとも養殖物を凌駕するほどのおいしさは、私には感じられませんね。そこらへんも含めて、調査員が理解できているかという問題です。

――素材のおいしさが特に求められる日本料理ですが、友里さんは著書『グルメの真実』の中で、「素材重視も度を越えるとただの手抜き」と書かれています。

友里 もちろん、質が良いのに越したことはありません。ただ、食材の質で己の腕の未熟さをカバーしている料理人が多いことも事実です。銀座の高額寿司店の「S」は、己の修業歴の少なさを高額なネタの仕入れでカバーしてきた典型的なお店。それで一人4万円近くとります。それと、「素材重視」「素材偏重」の傾向は、フレンチやイタリアンにも深く浸透しつつあるんです。

――「素材偏重」はフレンチやイタリアンにどのような形で表れていますか?

友里 例えば、山形にある国内有数の有名イタリアンの「A」などは、何を勘違いしたのか、さほど高品質とも思えない食材を、塩と胡椒とオイルで仕上げるだけ。有名になり過ぎて誰も文句言えないようですが、私に言わせれば、あれは「家庭料理」ですね。素材の質を追求するのは大いに賛成ですが、そこには高度な調理技術が裏打ちされている必要があることは言うまでもありません。

――最近、若いシェフの小規模なフレンチ店やビストロが増えたように思えます。

友里 そうですね。カウンターを併設したキャパ20人以下くらいの小ぢんまりした店が注目を集めていると思います。ただ、そこにも落とし穴があります。フレンチでは本来、ソースやスープのベースとなる「ブイヨン」や「フォン」が店の味となるのですが、これは大きな寸胴鍋で長時間煮込む必要があるため、手間と時間とスペースがいる。そうなると、少人数の小さな店だと「そんなことしてられない」となるわけです。

――そういう店ではどうしているのですか?

友里 買うんです。もしくはそんなストック類を必要とする料理を出さない。今は業務用のブイヨンやフォンが普及していますし、それどころか、そこから作るスープや各種ソースの完成品もバリエーション豊富に販売されています。特に最近は、軽い味付けが流行りですから、フレンチでもソースの代わりにオリーブオイルや業務用の柑橘系ピュレをかけただけの、単純な料理が増えているんです。

――つまり、技術がなくても料理を出せるということですか?

友里 そういうことです。思いっきり手を抜いた料理を「素材を重視したヘルシーな調理法」と言えば、お客さんはそうかなと思うわけですね。腕の差が一番出るソースが作れなくてもいいわけですから、修業歴の浅い若いシェフの店が増殖し続けるのも当然です。化学調味料や添加物を多用していると、味のトーンはどの店もどの皿も同じ。もちろん、数千円の店ならそれもひとつの方法でしょうが、1万、2万の価値があるかという話です。

――一方で、店の味を報じるメディアに対しても、友里さんは日頃から問題提起をされています。

友里 多少なりともジャーナリズム精神を持ったフードライターや、一般読者に客観評価を示すべき立場の評論家ならば、評価対象となる店から便宜供与を受けるのは御法度であるべきです。つまり、自腹で食えと。これほど「お車代」や「タダ飯」が横行している業界も少ないでしょう。

――そんなに横行しているのですか。

友里 日本を代表する料理評論家の「Y」さん(著書では実名)ですら、幻冬舎の社長から「タダ飯」を暴露される騒ぎがありましたよね。彼はそれに対して領収書の開示と法的措置を取ると激怒しましたが、いまだに開示も提訴もしていません。なぜなんでしょう。あるいは、京料理の紹介で有名な女性ライターの「S」(同)さんは、本の出版にあたって自身のブログで「今回は甘えさせていただけるところには深く感謝してご提供していただくことにしました」などと、堂々と公言しているんだから驚きです。もはや、おかしいという意識すらないのでしょう。お金がないなら通える範囲に限定した本を書けばいい話です。

――料理ではなくてシェフに惚れ込む女性ライターもいると著書に書かれています。

友里 さすがにこれは名前を伏せますが、イケメンのシェフに接近して一線を越えてしまった女性ライターを何人か知っています。実際、そういう人たちは、感情移入の激しい歯の浮くような料理賛歌を書きまくっていますからね。最近、原発事故を契機に、政府や東電、御用学者らをひっくるめて「原子力ムラ」なんて表現していますけど、料理業界も言葉を置き換えれば全く同じ構造なんです。つまり、飲食店や料理人〔=東電〕と評論家やフードライター〔=御用学者〕、そしてディベロッパーや内装業者〔=原発メーカー〕。私が自分の本で店や料理人をいつも実名で書くのは、こうした「飲食業ムラ」の住人の暴走をこれ以上放置できないという気持ちからなんです。まずはこういう実態があるということを、一般の読者の方にはもっと知ってもらいたいと思っています。

グルメの真実

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最終更新:2013/09/10 14:38
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