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昼間たかしの百人にしかわからない本千冊 5冊目

1991年、ボクらはこんなエロマンガを読んでいた「美少女漫画大百科」

1000satsu_05_001.jpg「美少女漫画大百科」
(辰巳出版/1991年12月)

 今さら言うまでもないが近年、1970年代以降の漫画・アニメを中心とした大衆文化研究が盛んに行われるようになっている。その半面、体系的な史料を手に入れるには困難がともなう。読み捨てられたような昔の漫画やサブカル雑誌は、ごく稀に喉から手が出るほど欲しいというマニアがいる一方、古書業界では「値段がつかない」ことを理由に、ほとんど取り扱ってもらえないからだ。文化研究の中でひとつの重要な軸になるであろう、いわゆるエロ漫画も、10数年前に発行されたものを手に入れようとすると、極めて困難である。書誌情報も明らかでないから、いつ頃、どのような雑誌あるいは単行本が出版されたのか、すべてを知ることは難しい。そのため、96年 91年から始まった成年コミックマーク(黄色い楕円のアレ/90年に出版倫理協議会が導入を決定。マーク付きの第一号は、こばやしてつや、1991/2、『IKENAI!いんびテーション第3巻』講談社 参考資料→橋本健午、2002/11、『有害図書と青少年問題 大人のオモチャだった”青少年”』明石書店・コミック表現の自由を守る会、1993/9、『誌外戦』創出版)が付いていない単行本を見つけたらとりあえず買う。あるいは「Yahoo!オークション」などを丹念にチェックして、やっぱり手当たり次第に買い漁るといった方法しかない。いずれは、明治大学の米沢嘉博記念図書館なんかにまとまって所蔵され、全体像をより簡単に俯瞰できるようになるのだろうけれど、今は手当たり次第買い漁るくらいしか手段はない。

 そうした中で今回紹介する「美少女漫画大百科」(辰巳出版)は、全体像を把握する一助になる1冊だ。発行は1991年12月。表紙で「決定版!美少女コミックカタログ」「特選漫画単行本373冊紹介」を謳っている。「特選」とはなっているが、この時点で発行されていた「エロ漫画」単行本の大半を扱っていると思われる。「美少女漫画」とタイトルに銘打っているのに、官能劇画系の単行本も扱っているのだが、やまだのら、永田トマトといった面々も官能劇画のページに分類されているので「定義って難しいなあ……」と考え込んでしまうところだが(実際、迷うよね?)。

 定価1,000円とちょっと強気な値段設定をしている本書だが、それだけの価値はある。当時の第一線級の漫画家16人のインタビューがそれだ。

1000satsu_05_002s.jpgとにかく、どの写真もみんな若い!
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 掲載されている漫画家を羅列すると、唯登詩樹・亜麻木硅・塔山森(山本直樹)・MEEくん・舞井武依・ITOYOKO・MON-MON・南野琴・飛龍乱・まいなぁぼぉい・幻超二・佐藤丸美・おおぬまひろし・よしだけい・田沼雄一郎・猫島礼の面々である。今でも商業誌やコミケで活躍する面々もいる一方で、すでに鬼籍に入られた方もいるし、まったく作品の発表が途絶えている人も。20年あまりの月日の流れは重い。

1000satsu_05_003s.jpgこうした絵柄だとホッ落ち着くのは筆者が歳を取ってしまったからなのか……?
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 それにしても、『魔王の子供達』も『ドラゴンピンク』も『カリーナの冒険』も続きはどうなったんだ。まだ待っているのは筆者だけではないハズ。

 ところが、20年の月日を経て、本書で行われているインタビューはむしろ価値があるものになっている。それは、各人にデビューに至る経緯とデビュー作について聞いている部分である。

1000satsu_05_004s.jpgわたべ淳の『レモンエンジェル』もアニメ化された時代。
誰が、わたべが『遺跡の人』のような作品を描くと予想できただろうか
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 「明治大学に入学してSF研究会に入ったら、そこにコミケの関係者がいたんです。その人に渋谷のコミケ部屋(4畳半位のアパートの一室に同人誌の見本誌が集めて置いてあった)に連れて行かれて、ロリコンの火つけ役になった”シベール”という同人誌を見せられたんです。それで衝撃を受けまして」と語るまいなぁぼぉい。「コミックホットミルク」(怖マガジン)に読者投稿したら、編集から「仕事を頼む」という手紙をもらったので漫画を描いたという唯登詩樹。デビュー作は森山塔の穴うめだったと語る飛龍乱。はたまたデビュー作は講談社の「モーニング増刊」だったという猫島礼。まさに、人に歴史ありといったところだろう。

 さらに、森山塔というか塔山森というか山本直樹が読者に対して「マンガの森ばっかりいってちゃダメだよ。もっと幅広い知識。興味を持ちなさい」とコメントしているのは、ネタなのかマジなのか? このインタビュー、半数近くは顔出ししているのだが、あの漫画家もこの漫画家も昔は若かったんだなと感慨深くなる(猫島礼は除く、念のため)。

■ここにも忘れられた歴史が眠っている

 さらに、本書の価値を高めているのは売れ筋のエロゲーを「美少女パソコンBEST28」として紹介していることだ(パソコン”ゲーム”の誤植かと思うのだが表紙にも目次にも”美少女パソコン”と記載されている、謎だ)。

 この時代のエロゲーは、エロ漫画以上にもはや入手するのが困難なものであることは間違いない。『ドラゴンナイト』とか『ランス2』といった有名どころの作品はともかく、全流通やハート電子産業の作品は、今はどうやったら現物を見ることができるのだろうか。念のため、Googleで検索してみたところ、ウィキペディアにはILLUSION(『人工少女』で有名なエロゲーブランド)の項目にハート電子産業の系譜であることが記されていたり、全流通の『艶談』シリーズ(伝説的バカ歴史エロゲー)の項目もあるので、ちゃんと保存しているコレクターがいると信じたいところだ。なお、『電脳学園』の紹介ページで「コミック、アニメ界では著名な人々をスタッフに迎えているシリーズだけに、グラフィック面でも期待大」と記しているのは、ホントに的確だ。

1000satsu_05_005s.jpgこうしてみるとヌキゲーって、伝統的に存在してきたジャンルなんだな
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 もうひとつ、巻末に米澤嘉博が「マンガにおける性(SEX)と愛の流れ 戦後”SEXコミック”史試論」と題した文章を寄せていることにも着目したい。ここで米澤は、限られたページの中で昭和20年代からの漫画における性愛表現の変遷を順序立てて解説している。この試論が、後に『戦後エロマンガ史』(2010/青林工藝舎)として結実すると誰が予測し得ただろうか。さらに米澤は、同人誌紹介のページも担当しているが(無署名だが、巻末のスタッフクレジットに阿島俊の表記があるので推定)、ここでは80年代の同人誌の流れについて「(85年頃からのキャプ翼ブームに際して)この女の子たちの圧倒的なパワーの前に、男性のサークルは、衰退していった。それは、クラリス、ラナ、ラムといったロリコンブーム期の少女キャラクターに代わるものを時代が生み出させなかった故でもあるし、商業誌での同人誌的マンガ、エロチックコメディの隆盛のためでもあったろう。なんにしても、85~88年にかけて、男性サークルは元気がなかったのだ。しかし、89年頃よりまた時代は変化し始める。美少女コミック商業誌の衰退、M事件etcがきっかけとなって、男性系創作サークルが増え、従来のサークルが頑張りはじめたのだ」と記されている。

1000satsu_05_006s.jpgカタログページを見ると、ゴブリン森口の名前も。諸行無常。
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 どうだろう? この一文の中に「自分たちの知らない歴史が眠っている」と、感じないか?

 「『キャプ翼』ブームで、女性向けジャンルが隆盛を極めた」という話は昔語りで聞くこともあるけど、同時期の男性向けジャンルの動向は聞いたことがない。「美少女コミック商業誌の衰退」もどういったものだったのか明瞭に記した文献は見当たらない。失われていく歴史をいかに収集し、整理して保存していくか? それは今でなくてはできないことだと思う。
(文=昼間たかし 文中敬称略)

1000satsu_05_005s.jpg夭折した、よしだけい。本気で惜しい才能だったと思う。
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空想美少女大百科―電脳萌え萌え美少女大集合!

こちらも90年代アニメ・漫画満載。

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最終更新:2019/11/07 18:45
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