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「原発がどんなものか知ってほしい」ネット上を浮遊する原発現場監督の遺言

genba_hirai.jpg『福島原発 現場監督の遺言』(講談社)

 「原発がどんなものか知ってほしい」というタイトルのテキストがネット上に出回っている(http://www.iam-t.jp/HIRAI/)。

 さまざまなサイトに転載されているこのテキストは、現場監督として原発に携わってきた一級プラント配管技能士・平井憲夫氏の講演録だ。1997年、58歳の若さで亡くなった平井氏。しかし、このテキストだけが独り歩きし、これまでネットの世界で生き延びてきた。

 そんな平井氏とともに、原発を取材してきたのが『福島原発 現場監督の遺言』(講談社)を刊行したジャーナリストの恩田勝亘だ。本書は、生前に行われた平井氏との取材の様子や、平井氏が遺した言葉などから、原発の現場が抱える構造的な問題を浮かび上がらせる。

 恩田と平井氏の出会いは86年。折しも、チェルノブイリ事故が起こるほんの数カ月前のことだった。きっかけは当時、恩田が在籍していた「週刊現代」(講談社)編集部に平井が電話をかけてきたこと。かねてから原発問題を追いかけていた恩田が平井氏の口から耳にしたのは、隠蔽された「大量被曝事故」の存在だった……。

 ある日の作業終了後、突然、放射線管理者からホールボディカウンター検査を受けるように指示された平井氏のチーム。平均1,000カウント/分程度の結果となるところ、ある一人の作業員が出した数値は52万カウント。以降、彼は放射線管理区域に入る仕事から外されたものの、身体のだるさや歯茎からの出血、吐き気など、被曝症状に悩まされたという。この事故は、「週刊現代」が報道するまで、まったく世間に知られることがないまま闇に葬られようとしていた。

 平井氏の証言や恩田の追及から判明する原発の姿は、にわかには信じがたい。

「原発へ来て驚いたのは、何といっても技術レベルの低さです。とにかく質が悪い」(平井氏/本文より)

 電力会社からは作業員1人あたり8万円/日の報酬が支払われていても、四次、五次まで回される下請けの職人に対する日当はわずか8,000円から1万円。許容される放射線量をオーバーすると作業に従事することができなくなってしまうことから、腕のよい職人は集まらず、職人たちの技術的な習熟もない。また、年間許容量をオーバーし、仕事を失ってしまうことを恐れ、職人たちの間では虚偽の放射線被曝量を申告することが常態化している。平井氏自身も自身が浴びた放射線量の記録を改ざんして、「許容範囲内」の線量を獲得し、作業を行っていたという。

 さらに、工事のチェック体制にも問題があると指摘する平井氏。

「検査の大部分は、実際には業者が行っています。発電設備技術検査協会の人、ましてや通産省の検査官は、大部分業者がやった検査で検査の過程は一切見ずに、結果だけを見に来るか、書類だけの検査です」

「工事の業者は買い叩かれ、納期に追われ、で良心的にやろうとしても、どうしてもある程度のごまかしをせざるを得ません。ましてや原発では上は現場のことを理解せず、責任も取りませんし、設計者すら現場に来ない、他の業者との連携もない、工法も時代遅れで不合理、作業員は素人、監督は線量の限界があって完全には現場を監督できないという悪条件が重なっています」(平井氏/本文より)

 その結果、看過できない事故は頻発している。本書で例として挙げられるのは、チェルノブイリ目前だったといわれる2つの事故だ。89年福島第二原発3号機で起こった事故では、圧力容器内の水を循環させるポンプの金属片30キロが破損、その一部が炉内に侵入した。その事故はあわや燃料棒や炉内を傷つけ冷却水喪失という大事故を誘発しかねないものだった。また、91年には美浜原発2号機で配管のギロチン破断事故が起こった。この事故によって、一次冷却水が漏れ出し、700万ベクレルの放射能が海へ、90億ベクレルが大気中へと放出された。さらに、冷却水を失ったことによって空焚き状態となった原子炉。手動で緊急炉心冷却装置を作動させたことで、危うく難を逃れたものの「あと0.7秒遅かったらまるっきりチェルノブイリ」という超緊急事態だった。

 これらのような大事故のみならず、小規模な事故も数多く発生している。しかし、少なくない数の事故は発表されることがないまま忘れられていくという。これまで数多く指摘されているように、電力会社が隠蔽工作を行うから、だけではない。納期に追われる下請け会社が、事故の存在を電力会社に報告せず、現場レベルでもみ消すということもあるのだ。

「原発の事故の発表というのは、隠せないくらい大きな事故か、少々発表されても問題はない事故が発表されるわけで、その中間が発表されていないのと、それから業者サイドで黙っているのも多いです。(略)不都合なことがあったという場合には、電力会社にわからないように直してしまうんです。(略)だから、電力会社が知らない事故も非常に多いんですよね」(平井氏/本文より)

 本書が告発する原発の姿は、にわかには信じがたいものばかりだ。僕は、震災前に、「原発がどんなものか知ってほしい」を偶然発見したとき、その内容を信じることができなかった。そこに描かれる仕事ぶりは「原発」というイメージからはあまりにもかけ離れたずさん過ぎるものだったため、逆に「アンチ原発派による恣意的な文章なのではないか」と疑った。まさか、「原子力」などという最先端かつ危険なものを取扱っている現場に、このようなずさんな工事があるはずがない。だが、福島第一原発事故以降の東電や政府の対応を見ていると、どちらが本当のことを語っているかは自ずとわかってくる。

 これまで日本社会には、平井の言葉に耳を傾ける者はほとんどいなかった。そして、福島第一原発事故は発生した。

 電力需要がピークを迎える夏までに、政府や電力会社、産業界は原発の再稼働をさせたい考えだ。平井の死から15年、今こそ、その恐ろしい遺言を真摯に受け止める時なのではないだろうか。今からでもまだ遅くはない。
(文=萩原雄太)

●おんだ・かつのぶ
1943年、島根県生まれ。法政大学卒。71年より「週刊現代」(講談社)記者としてチェルノブイリ事故など原発関連の記事を取材、執筆。評論家・内橋克人氏による同誌連載企画「原発が来た町」(1982年)のスタッフライターとして各地の原発立地地域や予定地を取材した。著書に『原発に子孫の命は売れない』『東京電力・帝国の暗黒』(以上、七つ森書館)などがある。

福島原発 現場監督の遺言

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最終更新:2013/09/06 19:19
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