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「3日あったら、殺人を自白させてやる……」冤罪が生まれる裏側に迫る『冤罪と裁判』

 目撃者に対する事情聴取や、写真面割りと呼ばれる方法でも巧妙な誘導が行われ、警察の思い描いたように犯人は仕立て上げられる。警察・検察が独占する物的証拠では、すり替えや隠蔽が行われることも多い。前述の足利事件では、ずさんなDNA鑑定結果が判決の決定的な証拠として採用されたことから、冤罪が生まれてしまった。また、冤罪の可能性から再鑑定をしようにも、証拠品をDNA鑑定で全て使い切ってしまった、処分してしまったとして再鑑定ができないというお粗末な事態も多いという。

 また、今村は司法制度改革として注目される裁判員制度にも疑問を投げかける。「裁判員の負担を減らす」という名目で、検証される証拠は絞りこまれ、審理がスムーズに進むように分刻みのスケジュールが計画される。その結果、事件に対する十分な検証がなされず、冤罪の可能性が疑われることもなく判決が下る。冤罪の可能性がある複雑な裁判は、裁判員にとっても負担が大きい。裁判員の負担を減らすために冤罪が生まれるのであれば、本末転倒と言わざるをえないだろう。

 本書の帯に書かれているように、日本の裁判における有罪率は99.9%。警察に逮捕され、「容疑者」という言葉が付けられたが最後、ほとんどの人間は「犯人」とされることを免れられない。いま、裁判所は真実を明らかにする場ではなく、有罪を認める場に成り下がっている。真の司法改革を実現するために求められるのは、民間人が参加する裁判員ではなく、警察の取り調べや捜査手法を改善し、裁判における構造的な問題を問い直すことなのではないだろうか。

 「それでも僕はやってない」と意思を強く示せるのは、本当に一握りの人間に過ぎず、多くは冤罪を進んで引き受けてしまう。次に無実の罪によって刑務所に送り込まれるのは自分かもしれない……。そう考えながら本書を読むと、背筋に寒気を覚えてくる。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])

●いまむら・かく
1962年生まれ。東京大学法学部卒業、92年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。冤罪事件、労働事件のほか、群馬司法書士会事件、保土ヶ谷放置死事件などを担当。現在、自由法曹団司法問題委員会委員長。

最終更新:2012/07/19 12:00
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