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楽天・三木谷浩史は日本経済を変えるのか?

財界と社内のマネジメントから見る楽天・三木谷浩史の真価

 楽天を世間に最も印象づけたのは、04年のプロ野球界再編騒動だろう。先に参入に名乗りを上げていたのはライブドア社長(当時)・堀江貴文氏だったが、Tシャツ姿の彼とは真反対に、三木谷氏はスーツでメディアに登場。堅実さを印象づけた。そしてここで、彼の「ジジ転がし」の力が発揮される。加盟申請書に書かれた諮問委員には、トヨタ自動車会長・奥田碩氏、みずほコーポレート銀行頭取・齋藤宏氏ら、財界のそうそうたる顔ぶれが名を連ねていた。これでは球界の重鎮たちも首を縦に振らないわけにはいかない。結果、渡邉恒雄・読売巨人軍オーナーからのお墨付きも得て、50年ぶりの新規参入企業として選出された。『”教祖”降臨―楽天・三木谷浩史の真実』(05年/日経BP社)の著者で、当時を知るジャーナリスト・児玉博氏はこう語る。

「三木谷氏は興銀時代に孫正義氏や増田宗昭氏を顧客に抱え、ここから財界への足がかりをスタートした。03年には三井住友銀行頭取だった西川善文氏を社外取締役に迎えて地盤を固め、年配経営者たちとのパイプを強めるきっかけになる。奥田氏とはおそらく、当時頻繁に開催されていた政府関連の委員会などで知己を得たのでは。三木谷氏は起業からかなり早い段階で、いわゆる『ITベンチャー』というイメージとは決別したいと考えていました。そのためには先輩社長たちから学び、取り入ることが得策だと考えたのでしょう」

 しかし興銀時代から続く人間関係があったとしても、百戦錬磨の財界人たちの懐に入るのは簡単なことではない。なぜ三木谷氏だけが彼らに可愛がられたのだろうか。

「三木谷氏は子どもの頃から、父の元を訪れる経済関係者たちの振る舞いを間近で見て育った。そこで、どんな人物ならお歴々に気に入ってもらえるか、自然と学んでいたのでしょう。テニスで鍛えたスポーツマンシップや体育会系のノリも、財界の大御所たちを惹き付ける魅力になった。トレードマークだったヒゲを剃ったことも、年配者への配慮のひとつで、クレバーな思考の象徴。そもそも球界参入のきっかけは、同じ神戸出身であり経済同友会の先輩でもあるオリックス会長・宮内義彦氏が近鉄買収を打診したことから。三木谷氏が準備を整えていたわけではなく、先輩に言われて慌てて手を挙げたのが本音。つまり子どもの頃から今まで、周りの環境に背中を押されるように育てられてきたんです」(児玉氏)

 三木谷氏はこの後も「ジジ転がし」としての実力を遺憾なく発揮していく。特に財界のドン・奥田氏からは絶賛され、長年強力なバックアップを受けた。また、エイベックスの代表取締役社長・松浦勝人氏とは六本木や銀座の豪遊仲間とされるなど、コネクションは高齢実力者だけにとどまらない。さらに、政界にも人脈を持つ。興銀時代の同期には石原慎太郎都知事の三男で、前衆議院議員の石原宏高氏がいた。10年には民主党の細野豪志氏、馬淵澄夫氏など実力派中堅議員と秘密裏に会合を開き、党内の世代交代について助言したといわれている。ツイッターでも「心ある政治家はバックアップします」と宣言し、ネットを使った政治献金システム推進の旗を振る。

 こうして強力な人脈を武器に財界をサバイブしてきた三木谷氏だが、やがて重鎮たちと袖を分かつ契機が訪れる。10年2月に立ち上げた「eビジネス推進連合会」。「ネット活用が進まなければ日本は開発途上国になる」と宣言し、副会長にヤフー副社長の井上雅博氏(当時)、幹事にはサイバーエージェント社長の藤田晋氏らを据えた。しかし当時三木谷氏は日本経団連の理事も務めていたため、「新団体を作るなら経団連を抜けるのが道理ではないか」と怒りを買い、11年6月、ついに脱退を決断した。

「経団連の意思決定はブラックボックスで、上層部の限られた人にしか真相がわからない。三木谷氏にとって、ジャッジの過程が見えないことはかなりストレスだったのでは。また、経団連に所属する最大のメリットは、そこで収集される国内外の情報を得られることですが、近年はその収集能力がとみに落ちている。楽天はアジアや南米に拠点を置くなど海外進出にも積極的ですが、そうなるとむしろ足を引っ張られると感じるようになったのでしょう。米倉弘昌氏が選出された会長人事でも、古い体制と求心力のなさに失望したはず」(同)

 そして今年6月、「eビジネス推進連合会」は「新経済連盟」と改名し、活動を強化すると発表。「我々は未来志向だ」と力強く宣言するなど、ITこそが日本の財界を導くという信念と野望が透けて見える。冒頭に述べたように、彼の目指す先はさらなる高みであり、最終目標は「世界一のインターネット企業」だ。新局面に突入する三木谷氏は、これからどこに向かい、何を成し遂げるのだろうか? 

「これまでは新興企業として尖った姿を見せて知名度を得てきたが、今はもうその必要もない。いわば『普通の大企業』になった。目立った行動は少なくなるかもしれないが、各界への影響力はさらに強まるでしょう。ひたすら分析と実行を繰り返した楽天のビジネスモデルは誰にでも真似ができるもので、彼の強みは興銀出身という背景を存分に生かしながら、その看板に驕らない冷静さと意志の強さにあります。その長所を忘れない限り、大きく凋落することはないのでは。それは反面、彼のつまらなさの象徴でもあるのですが」(同)

 停滞する日本経済を救うのか、それとも単によくできたワンマン社長として終わるのか。以降では、楽天と三木谷氏を内側・外側それぞれから見てきた人々による、そのジャッジメントを見ていこう。

(取材・文/田島太陽)

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最終更新:2012/08/06 11:17
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