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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.192

“お蔵入り映画”が人命救助を果たした!? 実話をベースにした大冒険ロマン『アルゴ』

argo_2.jpg人質救出は成功しても陰の裏方、失敗したら一生非難される
割の合わない仕事。トニーは黙々と任務を遂行する。

 ハリウッド作戦の指揮をとり、現地にまで飛ぶのはトニー自身。というか、誰もこんな無謀で危険すぎる作戦は引き受けない。相手を欺くには、思い切ったウソのほうがいい。相手だけでなく、味方も騙せるようなじゃないとダメだ。トニーはハリウッドへ向かい、旧知の仲である『猿の惑星』シリーズの特殊メイクアップアーティストのジョン・チェンバース(ジョン・グッドマン)に協力を求める。こんなバカげた作戦に興味を示してくれるのは、ハリウッドでもそういない。チェンバースの推薦で、辣腕映画プロデューサーのレスター(アラン・アーキン)もハリウッド作戦に参加することになる。

 ジョン・チェンバースは実在の人物で『猿の惑星』(68)の際にアカデミー賞特殊メイク賞が新設された、その道のパイオニア。レスターは複数のプロデューサーをモデルに合成されたキャラクターだが、ベテラン俳優アラン・アーキンがこの役に見事に命を吹き込んでいる。レスターは派手好きで食わせものの業界人。映画プロデューサーとして現地に乗り込むと意気込むトニーに対し、「お前はせいぜいアシスタント・プロデューサーどまりだな」と水を差す。ウソの企画だが、「映画の基礎となる脚本をおろそかにしてはならない」と主張して譲らない。そこでお蔵入りしていたボツ企画の中からトニーが見つけ出した1本のシナリオが『ARGO』だった。荒涼とした大地が広がる異星を舞台にしたSF冒険活劇。主人公が美女を連れて、悪の首領と戦う荒唐無稽なストーリーだ。中東でロケハンしたいという口実にぴったりではないか。レスターは時代の流れから取り残された賞味期限切れのプロデューサー。これまで口八丁手八丁で、ずいぶん詐欺師まがいのことをやって稼いできた。ここらでフィクションの世界とは別に、人の役に立つことに協力してもバチは当たらないだろう。『ARGO』を映画化するには脚本家協会の許可を取ってギャラを払わなくていけない。そこでレスターは脚本協会を相手にギャラを値切りに値切ってみせる。その一方で、ウソの製作発表会見を開き、ウソの広告をバラエティー誌に出稿する。ウソだらけの企画だが、いつもと同じように堂々とハッタリをかます。ウソの中にリアリティーを染み込ませる。それこそが、レスターができる最大限の協力だった。

 1980年1月。カナダ人だと偽ってイランに入国したトニーは、カナダ大使邸に隠れていた6人にハリウッド作戦を説明するが、「マジかよ! 見つかったら処刑されちゃうよ!」と大反対される。そりゃ、そうだろうな。でも、足並みがちゃんと揃わないと、この作戦は確実に失敗する。トニーは「オレを信じろッ」と懸命に説得する。人生を生きながらえるためには、ときに腹を括って、危険な橋を渡らなくてはならないときもあるのだ。6人はそれぞれ映画監督、カメラマン、脚本家、美術スタッフ……とにわか仕立ての映画スタッフに変身。イラン革命軍を相手に一世一代の大芝居をうつことになる。

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