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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.195

“絶対的価値”を求める男たちの翔んでもロマン! 井筒監督の犯罪サスペンス『黄金を抱いて翔べ』

orgonwodaitetobe_02.jpg北川(浅野忠信)は妻子持ちだが、抑えがたい破壊衝動の持ち主。
学生時代からの悪友・幸田(妻夫木聡)を銀行襲撃計画に誘う。

 大胆さと細心さを併せ持つ北川(浅野忠信)をリーダーに、6人の男たちが集まる。裏社会で便利屋として働き、どんな鍵でも開けてしまう幸田(妻夫木聡)。システムエンジニアで銀行のセキュリティーシステムに詳しい野田(桐谷健太)、元エレベーター技師で銀行の警備員たちと面識のあるジイちゃん(西田敏行)。爆弾製造を担当するのは、北朝鮮の元特殊工作員・モモ(チャンミン:東方神起)。さらに、怖いもの知らずのバイク野郎である北川の弟・春樹(溝端淳平)が仲間に加わる。6人の男たちには、ある共通点があった。あくせく頑張って働き続けても、もう上にあがるサイコロの目は出ないことを悟っている点だ。このままジリ貧の人生を過ごすよりは、イチかバチかのドデカい勝負をしてみたい。男たちの思惑は、金塊強奪という大博打に収斂されていく。間違ったことに一途になる男たちの姿は、それが取り返しがつかない分だけ、とても滑稽で同時にとても美しい。

 緻密な文章を綴る直木賞作家・高村薫と無頼派・井筒監督は同世代で関西出身ということ以外にも接点があった。井筒監督は1991年に大作時代劇『東方見聞録』の撮影中に若手キャストが事故死するという不運に見舞われた。この作品も財宝を求める若者たちの冒険談だったが、事故のため公開中止に(ビデオ作品として93年に発売)。92年には製作会社ディレクターズ・カンパニーが倒産し、井筒監督は遺族に対して個人で賠償金を払い続けた。そんな不遇の時期に温めていた企画が、90年に日本推理サスペンス大賞を受賞した高村薫の処女小説『黄金を抱いて翔べ』の映画化だった。当時、誰よりも金塊を欲していたのは井筒監督だったのだ。映画を撮ることもできず、カラオケ用のビデオを撮っていた井筒監督は、崔洋一監督から「たまには撮影現場に来いよ」と誘われて、崔組の現場で死体役を演じる。これが高村薫の直木賞受賞作の映画化『マークスの山』(95)だった。『マークスの山』で見事な死体役を演じた井筒監督は、その現場にいた松竹のプロデューサーから声を掛けられ、低予算映画『岸和田少年愚連隊』を撮ることで監督復帰する。バブルが崩壊し、あらゆる価値観が揺らぐ90年代、井筒監督は高村作品がきっかけで映画界への帰還を果たした。

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