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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.196

三池監督ならではの“いのちの授業”が始まる! サイコパス教師と過ごす恐怖の文化祭『悪の教典』

 R15指定となった本作を観る上で留意したいのは、これは善が勝ち、悪が滅びるという善悪の二元論の物語ではないということ。宇宙の片隅で地球という惑星が生まれ、その惑星の中に生命が発生し、そこからありとあらゆる生物たちが進化し、自然淘汰の歴史が繰り広げられ、そしてあらゆる手段を講じた人類が生き残って現代に至った。ソフィスティケートされた現代社会では人間が同じ人間を殺すことは野蛮であると戒めが設けられた。戦争のない平和社会の誕生だ。誰もが愛を謳歌し、自由を満喫する現代社会に、ひとりのマイノリティーに属する男が生まれ落ちた。生まれつき共感能力が欠落していたその男は医学的にサイコパスと分類される。サイコパスとしてこの世に生を受けた男・蓮実聖司は、自分とは異なる価値観を持つ現代社会で懸命にサバイバルに挑む。それが『悪の教典』なのだ。

 三池監督作品では、原作者がよく物語上に登場する。『インプリント ぼっけえ、きょうてえ』(05)では岩井志麻子が強烈なサディスティックぶりをみせた。『漂流街』(00)では馳周星がみずから格闘場に降り立ち、サングラスごしに不敵な笑みを浮かべた。『妖怪大戦争』(05)の水木しげるは特殊メイクした妖怪たちよりも妖怪らしかった。三池監督作品ではその世界の創造者である原作者自身がお祭り会場の真ん中に組まれた櫓に上がって、祭りダイコを叩き鳴らす。誰も見たことのない奇妙な祭りの始まりだ。本作もそうだ。原作者の貴志祐介は序盤の職員室シーンから登場し、主人公の蓮実に向かって「がんばってください。期待してますよ」と励ましの言葉を掛ける。物語が始まって間もないこの時点で、蓮実の正体を知っているのは原作者だけなのだ。原作者から力水を与えられ、蓮実は生徒たちが待つ教室に向かう。フィクションならではの狂気の祭りへと突き進んでいく。共感できるはずのないサイコパス教師の一挙手一投足から、我々観客は目が離せなくなる。

 三池作品において、モラルや常識から解き放たれたキャラクターたちはひと際美しい。『ヤッターマン』(08)のドロンジョ(深田恭子)は誰よりも妖艶かつ清純だった。『十三人の刺客』(10)で13人目の刺客となる“山の民”小弥太(伊勢谷友介)はただ面白そうだからという理由で殺戮の場に身を投じる。社会制度とは縁のない小弥太は常人離れした身体能力と美しい容姿の持ち主だ。小弥太と違って、身分制度に縛られている『一命』(11)の主人公たちは武家社会の枠組みの中で犬死にするしかなかった。『悪の教典』の主人公・蓮実は、ドロンジョや小弥太と同じく、法律や常識に縛られない“自由で美しい”生き物なのだ。文化祭の前夜に現われた蓮実はショットガンを片手に目がランランと輝く。三池監督は蓮実のことを精神的欠陥を抱えた社会的弱者ではなく、絶対的な強さを誇る“破壊神”として描く。破壊神として目覚めた蓮実は、同僚である教師にも自分の教え子たちにも躊躇することなくショットガンを突き付ける。先生と生徒という従属関係から逃れられない者は、蓮実の凶弾に倒れるしかない。破壊神を前にして、一体どれだけの生徒が生き残れるのだろうか。

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