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盆踊りはハッテン場!? AVメーカーも驚く、古今東西の官能と享楽『乱交の文化史』

rankobunka.jpg『乱交の文化史』(作品社)

 いまや、ほとんどのAVで、3Pが当たり前になっている。

 後ろから前からくんずほぐれつする女優・男優たち。しかし、周囲に話を聞けば、3P、4Pの経験がある漢はほとんどいない。一般庶民の多くが、AVの世界で起こるファンタジーとして、そのようなプレイを楽しんでいるようだ。だが、かつてはそうではなかった。イギリス人作家・バーゴ・パートリッジ『乱交の文化史』(作品社)は、古今東西の文明において存在した“オージー”と呼ばれる乱交文化を豊富な図版とともに紹介している。

 古代ギリシャの「アフロディテ祭」から、ローマで行われた「バッコスの祭」、ルネサンス期の仮面舞踏会、イギリスにおける秘密クラブなど、さまざまな場所で乱交は行われてきた。人々は、その欲望をむき出しにし、男でも女でも関係なく、動物のように交わった。

 一例として、官能と享楽こそが人生最大の喜びと考えていたギリシャ人が楽しんでいた、9日間にわたって行われる「エレウシスの秘儀」の描写を引用しよう。

「エレウシスの秘儀の第一日目は、海に向かう行列に費やされる。海では身を清めるために体を洗う儀式があったが、これは必ずしも上品に慎み深く行われたわけではなかった。六日目に行列はアテナイを離れ、エレウシスに向かう。参加者は数千を数え、人々は頭にアフロディテの神木である天人花や、デュオニュソスの神木である常春藤の冠を戴き、火を灯した松明と麦穂をたずさえて歩く。アテナイから約20キロ離れたエレウシスに着くと、祭儀の残りの日にちは騒々しく陽気な秘儀に費やされる」

 参加者数千人を数える乱交パーティー! まさにソフト・オン・デマンドも尻尾を巻くような乱れっぷりではないか。快楽のためならば、ギリシャ人たちはすべてを捧げたのだ。歴史的にこのような思考がベースにある国民ならば、近年の国家破綻もやむなしか……。

 だが、ローマ時代後半に、この乱交文化にとって思いもよらぬ刺客が現れた。それが、当時勢いを増していたキリスト教会だ。彼らは家父長制的な「罪」の意識を建前に、民衆の性的なエネルギーを抑圧しようと試みる。例えば、人気マンガ『ベルセルク』(著:三浦建太郎/白泉社)でも、サバトが邪教徒の集会として禍々しく描かれているように、民衆がそれまで当たり前に行っていた乱交は「異教徒の悪しき風習」として断罪されたのだった。キリスト教的な倫理観にとって、乱交とはありえないものだった。

 だが、性に対する人々の湧き上がるエネルギーを抑えることは難しい。教会からの度重なる禁止措置にもかかわらず、豊穣祭と呼ばれる乱交を含んだ各地の祭りは息絶えることがなかった。キリスト教会は、やむなく、それらの祭りをガス抜きのための安全弁として容認する形で布教を拡大していく。クリスマスやイースターですら、その起源が豊穣祭というから驚きだ。

 また、抑えきれない性欲を持っていたのは民衆ばかりではない。キリスト教会の聖職者ですらも自身の性的なエネルギーを抑えられず、ハーレムをつくる者、初夜権を行使する者が後を絶たなかった。キリスト教会のトップたるローマ法王ですらも乱交に熱を上げていたというから、性的なエネルギーが持つ力を押さえつけることがいかに難しいかがわかるだろう。

 ギリシャ時代から本書が書かれた20世紀まで脈々と続く乱交の文化。本書を通読すれば、西洋文化やキリスト教文化に対する視点が大きく変わる。乱交とは変態的セックスではなく、民衆の生み出した子孫繁栄と社会システム円滑化のための智慧だったのではないか、と。もちろん、それはわが日本でも例外ではない。

 本書巻末には、下川耿史氏による、「日本における乱交の文化と歴史」と題された解説も掲載されている。民俗学者・柳田国男が「浅はかな歓喜」として、語らなかった乱交の文化史。しかし、「かがい」や「歌垣」など、日本には乱交が文化として根付いていた。民俗史として、乱交は欠かさずにはいられないものだったのである。それが取り締まられ始めたのが、明治時代以降。キリスト教文化圏である近代国家の概念が登場してからだ。驚くことに、全国各地で行なわれる盆踊りが乱交の温床であるとして、警察から厳しい取り締まりを受けていたのだ。

 本書の冒頭で、乱交の意義を、筆者バーゴ・パートリッジはこう定義する。

「乱痴気騒ぎ(オージー)とは、組織的に行われるガス抜きである。自制や束縛のせいで溜りに溜まってしまったものを、一挙に解放して吐き出す行為である」

 乱交は、ただの“ヌキ”ではない。それは、政治的な意味を持ち、革命にも至るほどに溢れだす民衆エネルギーの“ヌキ”なのである。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])

最終更新:2012/12/26 13:39
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