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「時代に抗うことなく、静かに消えてゆく」日本最後の見世物小屋一座の生きざま

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「大寅さんは昔、太夫さんや踊り子を使った『サーカスのレビュー』や、さまざまな動物を使った移動動物園を興行物として手掛けていたそうです。この10年、口から火を吹くというお峰さんの芸は変わっていませんが、小さな子どもからフラっと入ってきた人、酔っぱらいやコワモテの人まで、どんな人に対してもどんな状況でも対応できる芸というのはすごいですよね。それに、口上(呼び込み)もまさにプロのなせる業。お客の想像をかき立てるようなあの巧みなしゃべりは、場数を踏んでいないとできるもんじゃないですよ」

 戦前は大衆娯楽として幅広く受け入れられていた見世物小屋だったが、映画やテレビの普及によって、次第に衰退していった。大寅興行社もほかの一座と同様、学生や現地の若者をアルバイトに雇って興行できるお化け屋敷や、短時間で準備ができる射的やピッチングゲームに興行形態を変えて商売を続けてきた。現在、大寅興行社の見世物小屋が見られるのは、新宿区歌舞伎町にある花園神社の酉の市と、そのほか1~2カ所しかない。

 ほかの一座が姿を消す中、なぜ、大寅興行社だけがこれまで興行を続けてこられたのだろうか? 奥谷監督は、そこには見世物小屋ならではの世界観があるからだと言う。

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「見世物小屋一座の人たちは、小屋を飾り立てる絵看板や小道具はもちろんのこと、演芸で使う動物も舞台に上がる太夫さんもすべて、一座の長である親方の“荷物”だと考えています。それらを預かる親方は、その荷物に対して責任を負う立場にあり、大寅さんは現在でもそういう生き方や商売の仕方をかたくなに守っている一座なんです。でも、新しく外から入ってくる太夫さんや僕のような人間に対してはそれを押しつけることなく、とても大事にしてくれる。もちろん出ていく人もいるけど、それは追わない。いい意味で、人が循環しているんです」

 そして、なりわいが作りだす家族形態こそが、この映画を通して、監督が描きたかったことでもある。

「なくなっていく家族の形とか、古いやり方を守っている人たちが消えていく。そういう姿を残したかったんです。こういう姿って、すごく潔いって思うんです。『もっと自分たちはやれるはずだ』と時代に抗ったり、歴史に名を残そうというつもりは毛頭なくて、『もしかしたら時代に合わないかもしれない。それなら、それで終わりましょう』と。そういう人たちに寄り添って、映画を撮りたいなと思ったんです。ただ撮り始めた頃は僕も若かったので、“なんとかして形に残さなきゃいけない”“終わらせたくない”という単純な気持ちで演出してしまっている部分もあります。でもそれって、ただの勘違いで、何も知らない人間のエゴでもある。でも、大寅さんの潔さもわかるし、そういうところが、僕がかっこいいと思ったところでもあった。だから、“最後の見世物小屋の記録”というよりは、大寅さんの記憶を旅する、僕のための記録ですね」

 古いしきたりや商売のやり方を守り続け、時代の流れに抗うことなく静かにその歴史に幕を閉じようとしている見世物小屋。潔い彼らの生きざまを、ぜひスクリーンで見届けてほしい。

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●おくたに・よういちろう
1978年、岐阜県中津川市生まれ。東京育ち。慶應義塾大学文学部卒業。映画美学校ドキュメンタリー・コース研究科修了。映画作家の佐藤真、筒井武文に師事。山形国際ドキュメンタリー映画祭2011アジア千波万波部門・特別賞を受賞した、東京湾に流れ込む多摩川の河口で船に住み犬を飼う初老の男を見つめたドキュメンタリー映画『ソレイユのこどもた ち』。この作品は佐藤真の遺した企画、ドキュメンタリー映画『トウキョウ』の一編として発想し制作された。現在は、複数の作家によるマルチプロジェクション企画「Documentary Tokyo」を進行中。

●『ニッポンの、みせものやさん』
監督:奥谷洋一郎 出演:大寅興行社のみなさん 制作協力:映画美学校 撮影・録音:江波戸遊土、遠藤協、奥谷洋一郎、早崎紘平、渡辺賢一 編集:江波戸遊土、奥谷洋一郎 整音:黄永昌 音楽:街角実 監督補:江波戸遊土 
2012年/日本/デジタル/カラー/90分/配給:スリーピン
12/8(土)より新宿K’s cinemaにてモーニングショー公開
<http://www.dokutani.com/>

最終更新:2012/12/05 16:00
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