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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.204

陶酔と記憶の向こう岸にある世界に3Dで迫る! 松江哲明監督の『フラッシュバックメモリーズ』

fbm02.jpgGOMA氏が体験した“臨死体験”をアニメーションで表現。
スペースシャワーTVでの放送時より修正が加えられている。

 この映画の特異なところは、脳に障害を負いながらも家族のために懸命にリハビリに励むミュージシャンの感動物語としてまとめることはせずに、記憶を失って現在進行形でしか生きることができなくなってしまったひとりの男の非常に特殊な状況をそのまま受け止めて描いている点だ。障害をマイナス要素としてではなく、ポジティブにあるがままに受け入れている。しかも、我々観客は、記憶を失ったGOMA氏に映像と音楽を通してシンクロすることで、GOMA氏のこの体験を共有することになる。GOMA氏はこのライブの記憶をやがて失うことになるが、映画を媒介にして我々観客が本人に替わって記憶する。客席にいる我々全員がGOMA氏の拡張された脳となる。まるで『新世紀エヴァンゲリオン』の人類補完計画ばりの壮大な実験ではないか。

 日付がクレジットされる演出は『リング』(98)、脳をめぐる超常体験は『恐怖』(10)という2つの高橋洋脚本を意識したという松江監督は、大のホラー映画好き。また、カンパニー松尾、平野勝之ら被写体に限りなく近づくAV監督をリスペクトしていることでも知られる。さまざまな顔を持つ松江監督だが、やはり彼の本領がいちばん発揮されるのはドキュメンタリーだろう。デビュー作『あんにょんキムチ』(00)から、松江監督はずっと“アイデンティティー”をテーマに撮ってきた。『童貞を。プロデュース』(07)では童貞青年の日常に密着し、童貞ならではの一途な妄想力、創造力の素晴らしさをカメラで引き出した。『あんにょん由美香』(09)では34歳の若さで亡くなった女優・林由美香のまったく知られていない韓国製作のアダルト作品『東京の人妻 順子』を掘り出すことで、どんな仕事でもいっさい手を抜かなかった人気女優の素顔を浮かび上がらせた。74分間ノーカットで撮影した『ライブテープ』(09)には撮る側である松江監督自身の心情が溢れ出ていた。言葉では説明することが難しいアイデンティティーなるものを、松江監督はカメラを使って掘り下げていく。被写体もしくは撮影している本人のあるがままの姿が映し出される。今回、そのあるがままを映像に収めるために最も適した手法として3D撮影が選ばれたわけだ。

 本作の中で松江監督はGOMA氏の失われゆく記憶とその記憶の中にある家族との繋がりにアイデンティティーを求めていくが、時としてドキュメンタリーは監督の意図さえ凌駕していく。GOMA氏はどんなにすごいライブをやってもその記憶を失ってしまう。事故直後には自分がディジュリドゥ奏者であることすら失念していた。でも、ステージ上でディジュリドゥと一体化したかのように演奏に夢中になっているのはGOMA氏以外の何者でもない。過去からも記憶からも切り離された、ひとつの純粋なる生命体として、聖なる楽器・ディジュリドゥを吹き続ける。過去や現在や未来といった時間の概念も、障害者だとか健常者だとか社会の枠組みもドーンと飛び越え、神さまだとか人間だとかまだ未分化だったころの遠い遠い世界へと誘ってくれるのだ。


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