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視聴率奪取の宿命を追った50年史 NHK大河ドラマを蝕む”作家主義”の弊害

【サイゾーpremium】より

──ドラマファンには評価が高かったにもかかわらず、視聴率的には惨敗した2012年『平清盛』をはじめ、昨今視聴率低迷に悩むNHKの看板ドラマシリーズ「大河ドラマ」。50年の歴史を持つこの枠も、今岐路に立たされている──。脚本家や歴史学者ら製作関係者たちの声、スキャンダル史と局内事情から、「大河ドラマ」という大看板の光と影に迫る!

念のため、おさらいしたい
〈NHK大河ドラマ〉とは?
NHKが手がける、毎年1月~12月の通年で放映されるドラマ枠。現在の放映時間帯は、毎週日曜夜20時(総合テレビ)。1963年から放映を開始し、基本的には毎年歴史モノが製作されている。これまでに昭和以降の近現代をメイン舞台とした作品は、86年放送の『いのち』(三田佳子主演)のみ。司馬遼太郎ら大家の小説を原作とすることも多く、時代劇ファンの心をつかみ続けてきた。

「大河ドラマ」──そう聞いて、思い浮かぶ作品はなんだろうか?2012年に放映された大河ドラマ『平清盛』は、長くワースト1位を維持した『花の乱』(94年/平均視聴率14・1%)を超え、歴代最低となる平均12%という低視聴率を叩き出した。12年1月の放映開始以来、同作は批判にさらされてきた。特に耳目を集めたのは、物語の舞台にもなった兵庫県の井戸敏三知事が「画面が汚くて見る気がしない。神戸のイメージダウンになる」と異例のクレームをつけたことだろう。一般視聴者からも「映像がきれいじゃない」「登場人物が多くて関係が複雑すぎる」といった声が上がった。テレビドラマ評論家の古崎康成氏も、こう指摘する。

「平安時代が舞台ゆえ、やむを得ないのでしょうが、個人名ではなく役職や誰の女房かといった間接的な名前で呼ぶので、誰が誰なのかわかりにくい。ホームページの人物相関図を手にしていないと、劇中のセリフが誰を指しているのかすら判然としないことがあるわけです。私のようなドラマ研究者や熱心なファンはともかく、多くの視聴者がついてこれなかったのもやむを得ない面があるように思います。じっくり観ると深みのある話が展開されているのですが、カラッとした明快さではなく、やや高尚なところで面白さを感じる作りで、そこも広い支持が得にくかったように思います」

 確かに『平清盛』は、低い視聴率とは裏腹に、例えばツイッターなどでは放映時間になるとハッシュタグを使って観る人が盛り上がり、プロのマンガ家やイラストレーターが登場人物を描いて投稿する(通称「盛絵」)など、一部では異様にファンを集めていた。テレビ全体の視聴率が下がる中、ここまで愛されるドラマも珍しい。それだけでもドラマとしては評価されてもよさそうなものだが、そこは「大河」という金看板を掲げる枠、そうはいかないらしい。

「大河ドラマは、キャスティングや脚本家の起用、映像のレベルなど全てにおいて、テレビドラマのベンチマークになっているといえます。ドラマが生放送で作られていた時代にVTRをいち早く導入して豪華キャスティングを可能にしたり、軽量化された収録機材を使用することでロケ撮影を容易にして派手な合戦シーンを撮れるようにしたりと、技術革新によるテレビドラマの可能性の拡大も担ってきました。大河ドラマが活性化するとほかのドラマも活性化していくという、プラスの連鎖がドラマ史の中にはあるのです。特に最近は、かつてのような正統派歴史ドラマの作りだけでは視聴者が満足しなくなっているので、脚本家の起用方法や映像演出などにおいて、大河自体が変化球を打ち出すようになっています。『清盛』では、そうした斬新さが強まりすぎて、視聴者の理解を超えてしまった面があるのでしょう」(前出・古崎氏)

民放にはない作家主義が裏目に出ることも?

 一方で、役者を供出する側の芸能事務所のマネージャーは、大河ドラマの作られ方をこう語る。

「とにかく制作面においては作家主義です。これはNHKのドラマ全般について言えることですが、プロデューサーと大御所脚本家の意向がまずあって、それに沿って作っていく。ある意味、ドラマとしては極めてまっとうです。主役のキャスティングがまず先にあり、スポンサーの意向をくみながらギリギリで撮影して、視聴率次第で展開やキャスティングを修正する作り方ではなく、作りたい世界観があって、それを表現するためにはどうするか、と考えているのが民放とは根本的に違うところ」

 なるほど、テレビドラマとしては健全な考え方だ。しかし、局内においてはそれゆえの弊害もあるらしい。

「NHKのドラマ班の人は本当にドラマが大好きで、熱い人が多い。だけど、一度大河のディレクターまで務めてしまうと皆が『俺はドラマが作れる』と思い、すぐに『NHKを辞める』と言いだすんです。そうした風土の中で、これからを担う30代があまり育っていない印象もあります」(NHKドラマ外部製作会社社員)

 これにはNHKの他部署局員も同意する。

「ドラマがやりたくて入局する人間は新卒では少ない。NHKというと報道やドキュメンタリーのイメージが強く、『NHKスペシャル』のような看板番組を手がけたい、という動機の人が多い。ドラマ志望は毎年入ってくる新入局員の中では少々異端。そうした人の集まりですから、ドラマ班は個性的な人が多い印象です。さらにベテランプロデューサー間での派閥争いなどもあるらしいので、そうした面で嫌気が差すのもあるでしょう。早々に退局してしまうのも納得がいきます」(30代記者)

 そして、こうした局内事情ゆえか、近年の大河では、ディレクターやプロデューサーといった局側の責任者ではなく、脚本家に責を負わせる部分が大きくなっているように見える、と前出の古崎氏は指摘する。

「当の脚本家たちのエッセイなどの記述を参照すると、時代考証面のバックアップ体制は充実しているようですが、作品の骨格はかなり脚本家に任されているように映ります。NHKの最近のドラマ作りは、民放と比べると、脚本家に自由に書いてもらうという考え方があるようで、それが大河ドラマの制作体制でも活かされているのでしょう。しかしそれゆえに、脚本家にやや過剰な負担がかかっているようにも思えます。そもそも最近の脚本家は、かつてに比べると時代劇や歴史ドラマへの造詣が浅い人が多い。大河ドラマでほぼ初めて歴史ドラマに挑戦するようなケースすらあるので、そんな人に『自由に書いてもらう』といっても無理があるのではないでしょうか。本来、作品の最終責任はプロデューサーが担うもので、脚本家ではない。作劇が批判されたとしても、脚本にダメ出ししなかったプロデューサーやディレクターにこそ、責任があると思います」

■長丁場に安いギャラ役者が大河に出る理由

 こうした製作事情に左右されながら、大河ドラマは50年間続いている。しかしそうした裏方の都合より、テレビで観ている視聴者の大半が興味があるのは、「誰が出演しているか?」という点だろう。1作目である『花の生涯』(63年)で当時の映画界のスター・佐田啓二と歌舞伎界の重鎮・尾上松緑が主演して以来、意外性のあるキャスティングや、民放ではなかなか見られない大御所の豪華競演は注目の的だ。国民的ドラマともいわれるこの枠に所属タレントがキャスティングされることは、芸能事務所にとってはオイシイことなのだろうか?

「正直、条件だけだと微妙なところですね。大河は、とにかく役者の拘束時間が長い。放送前年の9~10月頃から撮り始めて、翌10月までかかりきり。その準備で、撮影に入る前の半年も駆り出されて、あまりほかの仕事が入れられなくなる。さらに、ギャラもそんなに高いわけではないです。NHKは特に、これまでに築いた局との関係の長さ・深さによってギャラのランクが明確にあり、主演俳優だからって一番高額とは限らない。例えば民放なら、高ければ主役級で1話200万円弱×1クール10話で1作2000万円弱、脇役は1話30万円で300万くらいのところが、大河は主役級で1話30万円ということも十分ありえます。これにリハーサル稼働、関連イベント出演、DVD化の権利関係……と、事務所が交渉してプラスアルファしてもらう。だからある程度大きくて体力のある事務所か、小さくても広告仕事が多くて金銭的に余裕のある事務所や役者じゃないと受けられないですよね」(前出・芸能事務所マネージャー)

 1話30万円×年間約50話と考えると、主役級でも1作1500万円! CM1本何千万という世界で活躍する第一線のタレント・役者を起用すると考えれば、驚くほどの安さだ。それでも過去から現在に至るまで、豪華キャストが実現されてきたのには理由があるという。

「昔は大河の主役級といったら大物俳優でしたが、00年代に入った頃から若手を主演に据えることでメディアが話題を盛り上げるようになってきた。同時に、若手がそこで時代劇を経験するようになった。それまでは、時代劇ってやっぱり老人のものでしたからね。だから今では大河に出れば話題にもなるし、『国民的俳優』というステータスにもなる。そこに加えて、その後の役者人生と、知名度が上がることで広告仕事での価値も増すことを考慮して、事務所と俳優自身が出演を判断しています」(同)

 そうした判断のもとに出演を受諾した事務所にしてみれば、『清盛』のように低視聴率の汚名を着せられては「話が違う」と憤慨するところかもしれない。ある種、博打に乗ってくれる、限られた事務所と付き合いが深くなることもあるのだろうか?

「大河ドラマに関しては、特定の事務所や製作会社に集中していないか、厳しく外部団体がチェックしているので、癒着はまずありません。逆に、NHKとの関係が良くなくて出演NGの事務所があるという噂もありますが……」(前出・製作会社社員)

 大河1作品に投じられる年間予算は30億円程度といわれる。民放のドラマは1クール10話で高くて5億円程度。全50話の大河と、予算としてはそう大きく違わない。その中で大河は、役者へのギャラは渋い代わりに、ロケやセット、CGなどに惜しみなく金を使い、民放ドラマには作れないクオリティで国民的ドラマと呼ばれるに足る作品に仕上げなければならない。なぜならば、「NHKの番組」だからだ。

「やはり受信料という視聴者のカネを惜しげもなく投入して作っているがゆえ、作り手の自己満足で終わる作品は許されないのです。ちゃんと受信料を払う一定の視聴者の心をとらえるものでなければならない。それが大河ドラマの持って生まれた宿命なのです」(前出・古崎氏)

 むろん民放ドラマでも、スポンサーに対して視聴率を獲得せねばならないという責務があるが、直接観る視聴者に対して打ち返さねばならない重責と伝統の重みを同時に背負うのは、ドラマ枠多しといえども大河ドラマくらいだろう。その中でいかに面白いものを作るのか、製作者たちは悪戦苦闘し続けていく。以降の本特集では、作品に関わった製作者たちの生の声や、大河という金看板の内幕を見ていこう。

(文/松井哲朗)

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最終更新:2019/06/27 12:05
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