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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.209

9.11テロの首謀者ビンラディン抹殺作戦の全貌! アメリカの夜明けは遠く『ゼロ・ダーク・サーティ』

zdt02.jpg新米局員だったマヤ(ジェシカ・チャステイン)だが、同僚たちが次々と倒れていく中、
上司に噛み付くタフな女になっていく。

 10年近くにわたるマヤとビンラディンとの水面下での戦いを『ハート・ロッカー』(08)でもコンビを組んだ脚本家のマーク・ボールと女傑ビグロー監督は詳細な資料に基づいて追っていく。CIAパキスタン支局に配属されて間もないマヤ(ジェシカ・チャステイン)は見るからに華奢で、こんな娘がテロリストに立ち向かえるのかと観ているほうが心配になる。案の定、秘密施設内でチームリーダーのダニエル(ジェイソン・クラーク)が捕虜を水責めにすると、マヤは正視できずに吐き気に襲われる。米国内では違法となっている捕虜への拷問まがいの尋問が、海外では平然と行なわれていた。マヤの様子をみてダニエルはやれやれと肩をすくめるが、上司のブラッドリー(カイル・チャンドラー)は澄ました顔でいう。「彼女はああ見えて、けっこー冷血らしいよ」。

 その言葉通りだった。なかなか口を割らない捕虜への拷問を続けていく日々に、先輩のダニエルのほうが先に心が折れてしまう。残ったマヤは膨大な量の情報を分析しながら、執拗に尋問を続けていく。同僚のジェシカ(ジェニファー・イーリー)は仕事熱心なマヤを心配して食事に連れ出していたが、気配り屋の彼女は自爆テロの犠牲となってしまう。百戦錬磨のベテラン局員たちの後ろに隠れるように佇んでいたマヤだったが、望むも望まざるもいつの間にか自分がビンラディン追跡チームを率いていかなくてはならない立ち場となっていく。一度も逢ったことのないひとりの男の暗殺こそが、公務員であるマヤの使命となる。

 ニーチェの言葉に「怪物と戦うものは、己が怪物にならぬよう気をつけよ」という一節がある。マヤはこの言葉をあたかも逆利用する。伝説のテロリストに立ち向かうために、自分自身を怪物化する道へ進む。すでに死んでいるかもしれないビンラディンを探すことに予算や労力を割くよりも、犠牲者を増やさないようテロ防止により力を注ぐべきだと唱える上司のブラッドリーをマヤはこっぴどくなじる。莫大な情報提供料(当初は30億円だったが、07年には60億円にまで増額)を支払うことで手に入れたアルカイダ関係者の家族の電話を盗聴し、アルカイダとビンラディンとを繋ぐ連絡員の所在を洗う。マヤの指示に従って危険地帯で動く現地スタッフは命がいくつあっても足りない。

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