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文学賞からランキング入りまで、久々に注目される日本SF

現実に追い抜かれそうな危惧もある――『機龍警察』月村了衛の世界観を生み出したもの

――『機龍警察』シリーズの構想は、いつから考えていたのでしょうか?

月村 90年頃から構想はありましたが、書くために必要なもの、例えば警察に対する取材力などが自分には欠けているとはっきり自覚していたので、なかなか書き出せなかったんです。しかし長い年月のうちに、さまざまな出会いがあって、作品に取り組む端緒を得ました。

――アイデアは、どういうきっかけで生まれたのでしょうか? 何か降りてきたのか、もしくは、考え抜いてる中で構築されたのか。

月村 まあ両方ですよね。自分のテーマは、犯罪であるとか、社会、現実、暴力といったキーワードで構成されています。特に社会の中での、組織と現場との二極的な構造が面白いと思うんですね。現場の人間が、己の血を流して戦うんだが、それは何か大きな流れの末端でしかない。だが個々の人間の想いは確かにある。歴史観、社会観というか、そんな感覚をとらえていきたい、その断面を切り取ってみたい。熱い物語として表現したい。そういう想いがあったんですよ。

――そのテーマは『機龍警察』以前から持っていたのですか?

月村 そうですね。アクション映画が好きなのですが、ただアクションだけがよくても、心に残らないじゃないですか。「じゃあ心に残るアクションっていうのは、なんだろう」と。アクションであっても、時代劇でも、チャンバラも同様ですが、社会のリアリティであるとか、人間の情念が核心にあります。そういう理想を形にしていきたいと、ずっと思っていました。

――巻末に参考文献も記載されていて「こんなにちゃんと調べていらっしゃるんだ!」と驚きました。例えば『機龍警察 暗黒市場』ではロシアや東北の被災地が登場しますが、現地取材は行っているのですか?

月村 いいえ。地図は死ぬほど見ましたけど。

――『機龍警察 暗黒市場』では、震災復興の規制緩和の結果、アンタッチャブルな暗黒街と化した東北の海辺の都市が描かれます。とても、あり得る未来だと感じたのですが、やはり震災を機に生まれたアイデアなのでしょうか?

月村 「震災を機に」ということはまったくありません。でも書いていくうちにそういうアイデアが生まれてきて、同時に、やはり自分もそうした状況とは無関係ではいられないんだなと自覚しました。『機龍警察 自爆条項』でも、シリアについて書いた途端に民衆革命が起こったりしましたし、アルジェリアについて書こうと思っていたら、テロが起こっちゃった。現実と紙一重で「もうすぐそこまで来ている。下手したら追い抜かれそう」という、追いつ追われつみたいな、そういうヒリヒリした感覚を常に感じます。

――結果として読者はリアリティを感じているわけですが、作家としては「してやったり」では?

月村 「してやったり」とまでは思わないんですが、そもそもが時代としては現代のつもりで書いていて、しかし現代という時代には「機甲兵装」は存在しない。近未来というと、また限定的なイメージが生まれてしまうので、限りなく現在に近い未来ということで、〈至近未来〉というフレーズを自分で考えたんですが、これが定着しているような、してないような。もっと言うと、最初は現在から何年後の話であるとか、そんな時代設定を曖昧にしておこうと思っていたのが、シリーズを書き進めるに従って、次第に絞られてきた感があります。特定する手掛かりは作中にあります。それでも、現実の国際情勢においてはさまざまな予測不能の事象がリアルタイムで進行しているので、整合性の取れない部分が生じることは不可避であるわけですが。自分の感覚としては、ホントに現代なんですよ。現実の国際情勢と、警察小説を結びつけるガジェットとして「機甲兵装」という設定を導入したんですが、どうもこれまた、いいとこ突いていたんじゃないかと後になって思いました。

 『機龍警察 暗黒市場』まで書く中で学んだことですが、現代の戦争は限りなく戦場が曖昧な局地戦になっています。そうした時に、「機甲兵装」というのは、あながちあり得ないガジェットではなさそうだと。実際、いろんな国の軍隊が、そういうものを研究開発しているようですし。我々が思っている以上の早さで、今後急激に発達するのではないかと。

――完結までのシリーズ構成は、もうまとまっていますか?

月村 おおまかな展開や着地点は考えてあるんですが、全何巻かは未定です。自分としては、できるだけ丁寧にやっていきたいんですね。単行本が売れなければ、続きが出ないことも十分あり得るので、打ち切りにならないように頑張って……。執筆ペースがまだつかめていないこともあるのですが、今はともかく読者の方に楽しんでもらえる作品を書くことに専念したいと思っています。

――そうするとやはり、コンスタントに執筆できるスピードをつかむのも課題ですね。

月村 資料が多いので、なかなか外では書けないため自宅で仕事をしていますが、1日中やっていて「やっと集中力が高まった!」と思ったら、「もう外が明るいぞ」みたいなことばっかりですね。調べる量が多いので、なかなか進まない……。そんな感じです。だから朝型に切り替えたほうがいいかなとか、考えているところです。
(取材・文=昼間たかし)

最終更新:2013/04/10 18:00
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