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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.219

19世紀末のロンドンで起きた“セックス革命”! 世界初の電動バイブ開発秘話『ヒステリア』

hysteria2.jpgヒステリーを訴えるご婦人の治療に当たる医師のグランビル(ヒュー・ダノシー)。
あまりの患者の多さに、当時の医者はヘトヘトだった。

 患者想いで熱心なお医者さんほど、自分の体を壊してしまうもの。連日にわたってヒステリー患者に接していたグランビル先生の腕はもうパンパン。腱鞘炎になってしまい、満足な治療ができなくなってしまう。肩を壊した救援投手のように塞ぎ込んでいたグランビル先生の目にふと留まったのは、発明好きな親友エドモント(ルパート・エヴェレット)が開発中だった「電動ほこり払い機」だった。何気なく手にしてスイッチオンにしてみたところ、うなる小型モーターの低振動が妙に心地よい。そのとき、グランビル先生の頭にピンク色のランプが点灯した。これだよ、これッ! ひとりの医者の何気ないひらめきによって、セックス大革命の狼煙が上がった。

 エドモントとグランビルはさっそく、世界初となる電動バイブレーターの人体実験に取り掛かる。神をも恐れぬ、世紀の大実験。グランビルの手は緊張のためかバイブの振動のためか小刻みに震えている。電動バイブレーター初号機を恐る恐る被験者の股間へと近づける。緊張の一瞬、果たして実験の成果は……? しばし続いたモーターの振動音の後、女性被験者の喜びに満ちた高らかな声がロンドン中に響き渡る。やった! 世界初の電動バイブの実験に無事成功した!! 讃え合う男たち。グランビルの脳裏にはこれまでの苦労が走馬灯のようにフラッシュバックする。奇跡の瞬間を体感した女性被験者はマグダラのマリアのように感動に震えている。NHKのドキュメンタリー番組『プロジェクトX 挑戦者たち』だったら、中島みゆきが歌う「ヘッドライト・テールライト」が流れる感動シーンだろう。

 本作のメガホンをとったのはターニャ・ウェクスター監督。女性監督らしく、お下品にならないよう寸止めでまとめています。電動バイブ開発ストーリーだけで終わらせず、主人公の恋愛エピソードを絡めることで人間ドラマへと潤色している点も見どころ。独身のグランビルの前に現われるのは2人の姉妹。グランビルが最初に出会うのは、妹のエミリー(フェリシティ・ジョーンズ)。絵に描いたような貞淑な女性で、女性医療の第一人者である父・ダリンプル医師(ジョナサン・プライス)を常に敬っている。若くて美人のエミリーに、グランビルはぞっこん。父の意向もあり、エミリーは将来有望なグランビルと婚約を交わす。喜びいっぱいのグランビルが遅れて知り合うのはエミリーの姉シャーロット(マギー・ギレンホール)。妹とは真逆の、じゃじゃ馬娘。父の反対を押し切って、社会福祉活動に熱中している変わり者。英国が繁栄を極めたビクトリア朝時代は、社会格差が大きく広がっていった時代でもあったのだ。父親に絶対服従するエミリーとは異なるシャーロットの自由奔放さに、グランビルは次第に魅了されていく。いかに多くの女性たちが本音を口に出せずに生きているのかを、ヒステリー治療を通してグランビルは目の当たりにしてきた。電動バイブは女性たちを抑圧された性から解放しただけでなく、古くさい女性観や権力志向にとらわれていたグランビル自身の固定観念さえ揉みほぐしていく。

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