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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.358

寅さんの系譜を現代に継ぐ、流れ者キャラの誕生──ロケ現場で様々な伝説を残す男『俳優 亀岡拓次』

kameokatakuji_02カメタクは難しいことは考えない。頭の中は空っぽだが、それゆえに若手監督の横田(染谷将太)ら一部の人間にはミステリアスな存在に映るらしい。

 愛すべき脇役専門俳優・カメタクを演じるのは、安田顕。2015年の大ヒットドラマ『下町ロケット』(TBS系)、北野武監督の『龍三と七人の子分たち』(15)、深夜ドラマ『アオイホノオ』(テレビ東京系)ほか、カメタクと同様に主演ではなく味のあるバイプレイヤーとして引っ張りだこだ。もともと大泉洋らが所属する演劇ユニットTEAM NACSの一員として人気のあった安田だが、『HK変態仮面』(13)で鈴木亮平扮する変態仮面が爽やかないかがわしさを披露していたのに対し、安田はニセ変態仮面として100%純粋ないかがわしさを放ち、名バイプレイヤーとして立場を揺るぎないものにした。鈴木亮平のはち切れんばかりのもっこり股間以上に、安田のどこか哀愁を帯びたもっこり加減が目に焼き付いた。園子温監督の『みんな!エスパーだよ!』(テレビ東京系)では、園監督の嫁である神楽坂恵の巨乳をずっとモミモミしていた。平気な顔して監督が見ている前で監督の嫁のおっぱいをモメる男、それが安田顕だ。映画の中のカメタクと現実の安田顕が入れ替わっても、誰も気が付かないかもしれない。そのくらい、2人はクリソツである。

 寅さんもカメタクもどちらも浮き草のような流れ者人生を送っているが、『男はつらいよ』と『俳優 亀岡拓次』には大きな違いがある。それは『俳優 亀岡拓次』は濃厚なフェロモンが立ち込める官能映画でもあるという点だ。物語の前半、カメタクはヤクザ映画に出演するために信州へと向かい、撮影を済ませた夜、地元で見つけた小さな居酒屋の暖簾をひとりでくぐる。ホロ酔い状態のカメタクがカウンターでウトウトしていると、いつの間にか店の主人は姿を消し、主人の娘と思われる若女将の安曇(麻生久美子)が厨房に入っていた。店の中は2人っきりだ。この若女将役の麻生久美子が、匂い立つほどの色気を醸し出している。薄手の白いセーターを着ているが、ある意味ヌードよりもエロく感じられる。エロスが白いセーターを着て立っているようだ。しかも、白いセーターを着たエロスは笑顔を浮かべてお酌し、さらにカメタクのために包丁をふるう。とても鮮やかな手つきで、タコブツを皿に盛る。ここで描かれるのはグラビアアイドルが際どいビキニ姿で挑発してくる非日常的なエロさではなく、生活感を伴った生々しいエロスだ。独身生活の長いカメタクは、すっかり安曇さんの虜になってしまう。

 津軽弁ムービー『ウルトラミラクルラブストーリー』(08)以来、実に7年ぶりの長編となる横浜聡子監督だが、溢れる才能が先走りしすぎた感のあったオリジナル作『ウルトラ──』に比べ、原作付きの『俳優 亀岡拓次』はいい感じで肩の力が抜けている。それでいて横浜監督ならではの味付けがされており、独身男の気ままな生活をのほほんと描いた原作世界をスリリングなものに脚色している。男と女のひと筋縄では済まない関係がところどころに顔を出している。カメタクのだらしなさは男の色気でもあるが、横浜監督が描く女性たちはそんなカメタクに微笑みながらも、後ろ手に刃物を隠している。麻生久美子の包丁さばきも鮮やかだったが、もうひとり刃物を手にした“女”が現われる。

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