日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 恐怖の婚活コメディ『ロブスター』
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.364

独身者は収容所送りとなる恐怖の婚活コメディ! 『ロブスター』の男たちは居場所を見つけられるか

lobstermovie03『アデル、ブルーは熱い色』(13)で同性愛者を熱演したレア・セドゥが独身者たちのリーダーに。規則に反した者は容赦なく罰する。

 森の中は独身者たちにとっての自由なパラダイスかと思いきや、独身者のリーダー(レア・セドゥ)が厳しい規則を定め、森の治安を守っていた。森の中では独身であることは罪ではないかが、逆に恋愛や性行為が固く禁じられていたのだ。森で生きていくためにその決まりに同意するデヴィッドだったが、皮肉にも森で暮らす近視の女(レイチェル・ワイズ)に強く惹かれてしまう。恋愛しろと言われれば萎えてしまい、恋愛禁止と命じられれば瞬く間に恋に墜ちてしまう。デヴィッドの頭と下半身はまるで一致しない。人間とはままならない不条理な生き物であることが分かる。

 独身であることが国家によって禁じられ、独身者たちは反政府勢力として森へと逃げ込むディストピア的世界観は、レイ・ブラッドベリの長編小説『華氏451度』を彷彿させる。フランソワ・トリュフォー監督は自身唯一のSF映画『華氏451』(66)の中で読書を禁じる政府に抗うブックピープル(活字中毒者)たちが潜む森の生活をユートピアのごとく美しく描いたが、実際にユートピアで暮らすとなると大変なようだ。もともと人づきあいが苦手で、施設から逃げ出してきたデヴィッドは、独身者たちが暮らす森の生活に溶け込むのも容易ではない。それゆえに近視の女との触れ合いが、いっそう掛け替えのないものとなっていく。

 レイ・ブラッドベリ的なSF世界から、クライマックスは谷崎潤一郎文学を思わせるサディスティックな展開が待ち受けている。ロブスターのように海底でひっそりと生きることを願っていたデヴィッドは、最後の最後に真実の愛に触れることになる。真実の愛とは肉眼では見えないもの、ということらしい。
(文=長野辰次)

lobstermovie04

『ロブスター』
監督/ヨルゴス・ランティモス 出演/コリン・ファレル、レイチェル・ワイズ、ジェシカ・バーデン、オリビア・コールマン、アシュレ・ジェンセン、アリアーヌ・ラベド、アンゲリキ・バブーリァ、ジョン・C・ライリー、レア・セドゥ、マイケル・スマイリー、ベン・ウィショー 
配給/ファイン・フィルムズ R15+ 3月5日(土)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開
(c) 2015 Element Pictures, Scarlet Films, Faliro House Productions SA, Haut et Court, Lemming Film, The British Film Institute, Channel Four Television Corporation.
http://www.finefilms.co.jp/lobster/

ページ上部へ戻る

配給映画

トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • twitter
  • feed
特集

【4月開始の春ドラマ】放送日、視聴率・裏事情・忖度なしレビュー!

月9、日曜劇場、木曜劇場…スタート日一覧、最新情報公開中!
写真
インタビュー

『マツコの知らない世界』出演裏話

1月23日放送の『マツコの知らない世界』(T...…
写真
人気連載

山崎製パンで特大スキャンダル

今週の注目記事・1「『売上1兆円超』『山崎製パ...…
写真
イチオシ記事

バナナマン・設楽が語った「売れ方」の話

 ウエストランド・井口浩之ととろサーモン・久保田かずのぶというお笑い界きっての毒舌芸人2人によるトーク番組『耳の穴かっぽじって聞け!』(テレビ朝日...…
写真