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紗倉まな初の小説『最低。』は又吉の『火花』より文学的だ! 撮影、親バレ、引退後…AV女優のリアルを描く

 こうして描かれる撮影シーンだが、撮影が終わった後「痛くなかった?」と彩乃を気遣うベテラン男優に対し、紗倉は彩乃の心理をこう描写している。

〈「年間に一千万人の女性と絡んだことを誇らしげに語る──確かに的確な仕事はしているものの、そこに気持ちよさを与えていない瞬間もあるということには無自覚な男の──日に焼けた指先を彩乃はじっと見つめた。爪は丹念に磨き込まれていて、マニュキアのトップコートを塗っているような、つるつると滑らかな仕上がりだった。深爪をしているのではないかと思うほどに白い部分のないその先端には、彩乃の愛液がねちっこくまとわりついていた。つい目をそらす」〉

 だが彩乃は、そんなホンネとは違う言葉を口にする。

〈『わたし、鉄マンなんで大丈夫です』〉

 紗倉自身はどんなハードな撮影でも快くこなすことで知られるが、ここで描かれているのは、平気で受け入れているわけでもなく、ただ耐えているのともちがう、心の動きだ。

 紗倉は一貫して、彼女たちの感情の動きを白黒ハッキリしたわかりやすい感情に回収しない。

 それは、この作品のトピックともなっている「親バレ」についても同様だ。1章の主人公の彩乃は親バレし、もともと折り合いの悪かった母親と絶縁寸前のケンカをする。紗倉自身は、18歳になったとき母親に認めてもらったうえでAV女優になっており、自らにその体験はない。しかし、このAVの仕事につきものである「親バレ」をめぐる感情を、認めるか認めないか、知られたいか知られたくないか、といった紋切り型でない、繊細なタッチで描き出す。

 そして、彼氏との関係についても、これまでのAV語りとはまったくちがう描き方をしている。

この第1章では彩乃にとって、はじめてふつうのサラリーマンとの恋愛だという、編集者・日比野との恋愛の始まりが描かれるのだが、自分のAV女優という職業について日比野がどう思っているのか、彩乃はこんなふうに考えを巡らせるのだ。
 
〈そういえば、日比野との間で彩乃のささくれだった部分に触れるような話題というのは一切出ないのだった。わたしがどんな仕事をしているのか、この人は気にならないのだろうか。不思議に思うことすらあったのだが、聞かれないのなら聞かれないで気持ちが楽、というわけでもないのが彩乃にとって複雑なところだ。……仮に。彩乃の表の顔を剥ぎ取ると出てくるAV女優という素性を日比野がすでに知っていたとき、自分は彼の親切心を気持ちよく受け取ることができるだろうか。〉

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